推し活は大変だ

西園寺 亜裕太

第1話

「よし、これで準備万端! さあ、いつでも来なさい颯真様!」

「朱音ちゃん、またそのアプリのガチャ引いてるんだね」

5限の講義まで時間を潰すために部室に行くと、同じサークルの朱音がスマホを片手に真剣な顔つきをしていた。


「わざわざ部室でやらずに家でしたらいいじゃん」

「ダメよ! 今日の15時からイベントが始まるんだから、早く推しを引かないと!」

「まさか講義抜け出してきたんじゃないよね?」

「抜けて来たに決まってるでしょ! バカなこと言わないでよ」

バカなことを言っているのはどちらだろうかと思いながら、思わずため息を漏らしてしまう。


「それにしても、朱音ちゃんどんだけ課金するつもりなの……?」

机の上にはコンビニで買える課金用のカードが山積みになっている。

「1発で出るわけないから、たくさん買っとかないとダメなのよ」

「そんなに買ったら暫く晩御飯もやしになるんじゃないの?」

「もやしなんて、そんな贅沢なもの買えるわけないでしょ?」

冗談で言ったつもりだったのに、もっと深刻そうな答えが返ってきた。


「もやしも買えないって、まさか雑草でも食べるつもりじゃ……」

「そんなもの食べたらお腹壊すじゃないのよ。あんた何言ってんの?」

「じゃあ、何食べるつもりなのさ」

「何って……ああ、もう! またドブだわ!!」

そう言っている間にも彼女は推しじゃないキャラクターを引いてしまったらしい。

「残念だったね……って、えぇ!?」

突然、彼女はすでに課金をし終えた後の課金用のカードを口に入れて咀嚼して、飲み込んだ。


「ちょ、ちょっと! 朱音ちゃん何やってんの!?」

「食べるもの買うお金がないからこれ食べて飢えをしのいでるのよ」

明らかに雑草よりも体に悪そうなものを食べ、苦しそうな顔をしながらまたスマホに真剣な視線を送っている朱音が怖くなって、わたしは部室から慌てて逃げ出した。とりあえず、急いでお菓子の差し入れでもしてあげたほうが良さそうだ。

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推し活は大変だ 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji

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