第7話(完):大魔王様が魔王軍壊滅させたらダメでは?


こうして俺達は酒場に向かった。ちなみにアンナは先日買ったばかりの服に身を包んでいた。なんでも『新婚旅行の時に着る予定だったけど、機会がなかった』らしい。

「そういえばあんた、アンナは一体どこで見つけたの?」

確かに、いつの間にかアンナは素敵な服を身に着けて俺の隣にいる。いつ、どこで見つけたっけかな。

「確か……魔王討伐の旅の途中で偶然出会って、それからずっと一緒だったような気がするな」

「へぇ~。そうなんだ……。ところでアンナってどんな人だったの?」

「えっと、そうだな……。一言で言うと可愛い人かな」

「そっか……」

「あの、私隣にいるんですけど、故人みたいに扱うのやめてもらっていいですか」

アンナが抗議の声を上げる。この世界に来てからは久しく聞いていなかった声だったので、少し懐かしく感じた。

「そういえば、マリアはどこにいたんだ?」

「私は森の中で薬草を探しているときに出会ったわ」

「ほぉ……。そうなのか」

森の中で薬草を探しているときに音速のタックルをかますな。まぁそれはいいとして、知りたいのは今日、どこでアンナを見つけたかという点だ。

「それで、今日はどこで出会ったんだ?」

「昨日の夜よ」

「昨日の夜か……。うん? 待てよ……」

なんか変なことを言っていなかったかこいつ。

「ねえ、アンナ。それってどういう意味なの?」

「『昨日の夜』っていう酒場よ。どうせ飲み歩いているんだろうと思って、私もあなたを探していたのよ」

なるほど、互いに互いを探し合っていて、それで合流したんだった。

「でも、本当に会えて良かったわ」

「そうだな。また会おうな」

「もちろんよ」

「じゃあ、そろそろ行くか」

俺達は再び歩き出す。

「なあ、どうしてお前らは結婚したんだ?」

急に横から酔っぱらいが絡んできた。面倒臭いので俺は黙っていることにした。

「うーん……。実はよく覚えていないのよね」

代わりにアンナが答えてくれた。ナイスだ。

「でも、結婚して良かったと思っているわ。幸せよ」

「そうか……。ならよかったな……」

そう言って男は去って行った。というより、何者なんだあの男は。

飲み歩きは順調に進み、そのまま三人で家に帰って三人で寝た。なぜマリアがずっといるのかはよく分からなかった。

翌日、目が覚めるとなぜかアンナが俺の上に乗っていた。

「おい……、どけよ」

「おはよう……。朝ごはん作ってきたわよ」

「そうか……。ありがとう」

俺は体を起こす。そしてベッドから出て、朝食を食べに行くために部屋を出た。

勇者たちが魔王を討伐してからここ数年、ずっと平和が続いている。願わくばこのまま平和が続いてほしい。

俺はそう思いながら、妻の作ったご飯を食べるのであった。

勇者が魔王を倒した後、俺は妻と二人で暮らしていた。

勇者のいない世界で俺達が何をしているかというと、特に何もしていなかった。

◆ ◆ ◆

「なあ、勇者」

「なんだ? 勇者」

とある場所。魔王討伐に参加した勇者たちの談合が開かれていた。

「今の生活に不満はあるかい?」

「いや……。ないぞ」

「俺もだ」

「私もよ」

「僕もないよ」

「私もありません」

「よし……。じゃあみんなで酒を飲みに行こうぜ!」

「わーい!」

勇者たちは満足げに酒場で飲み会をしていた。それはそれは楽しそうだった。しかしそんな生活は突然終わりを告げる。

「大変です! 魔王軍が攻めてきました!!」

「な、なんだって!?」

魔王軍襲来の知らせを受けた勇者達は、慌てて準備を整えて迎撃に向かった。しかし、すでに時遅し。

「ぐああっ!」

かつて魔王を三百人とかいう若干卑怯に片足突っ込んだ物量作戦で討伐した勇者たちの九割は死滅した。

残りの一割の内訳はこうである。

「おらぁ!!」

「うぎゃあああ!!!」

魔王軍の精鋭部隊相手に無双する大魔王と、その奥さん。

「はっ! せいっ!! やっ!!!」

「ごふっ!」

時の王、「オウサーマ」に使える大臣「ダイジーン」率いる「グンゼーイ」軍。

「はあ……、疲れた……。これで最後ね」

「そうだな。後は残党狩りだけだ」

「さすがですね。魔王様と王様の奥方様」

「いえいえ、それほどでも……」

「いや、謙遜することはない」

ぶっちゃけ魔王、王様よりも奥様方の方が強いのは内緒だ。こうして、戦いは終わった。しかし、この世界にはまだまだ多くの脅威が存在する。

だが、大丈夫だ。なぜなら、彼らこそが真の「勇者」なのだから―――。

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