第4話:アベルとかリリィとかに混ざる佐藤一郎

城を出て少し歩くと森があった。

「とりあえずここで一泊しようか……」

森の中で野宿をすることにした。

「さーて、優雅なティータイムとしゃれこむか」

俺は「スキル:茶葉召喚(極)」を使用してティータイムを始めた。アベルにいろいろ言われることもないので安心だ。

「ふう……。落ち着く……」

そしてしばらく紅茶を飲んでいると、ガサガサという音が聞こえてきた。

「なんだ……? モンスターか……?」

俺は剣を構え、警戒した。すると、茂みの中から出てきたのは一人の少女だった。

「世界観を壊すなぁ!」

少女は怒りのままこちらに音速でつっこんできた。俺はその衝撃をモロに食らう!

「ぐはっ!」

くそ……。油断してた……。

「おい! お前! なんの恨みがあって俺を攻撃した!?」

「うるさいわね! この変態!」

「何!? なぜ俺が変態だと分かるんだ!?」

「当たり前でしょ! ゲームみたいな世界観を現実に持ち込む奴は変態って決まってるのよ!」

「なんだと! 俺のティータイムを邪魔するなんて許さんぞ!」

「あんたが勝手に始めたんでしょうが!」

「うっ……。それはそうだけど……。とにかくだ! 俺のティータイムを妨害するとは万死に値する!」

俺は一子相伝の秘奥義を繰り出す!

「必殺! お茶菓子召喚!!」

俺の手にはたくさんのお菓子が出現した!

「ふっ……。どうだ! これでお前もおしま――」

「うおおぉ!! こっちくんなああぁ!」

「ちょ! 待てよ!」

突如、叫びながら逃げる人間とそれを追いかけるイケメンが現れた。ちなみに少女はお茶菓子を食べている。

「あ! ちょっと君たち助けてくれ!」

俺は二人に声をかける。

「えぇっと……。あの……。これは一体どういう状況ですか?」

「説明しなさいよ!」

二人は俺に助けを求めてきた。まぁ、当然の反応だろう。しかし、今の状況が混沌としていることに変わりはない。

ティータイム中だった俺こと佐藤一郎(オミ・オクリ)。音速で突っ込んできた少女。逃げる人間と追いかけるイケメン。誰も説明できそうにない。

「まぁ、あれだよ……。なんか追われてるから助けて欲しいんだよ……」

俺は簡単に事情を説明した。

「そういうことでしたら任せてください!」

「私に任せなさい!」

二人は謎の自信を持っているようだ。

「よし! じゃあ頼んだぜ!」

逃げる人間は引き受けるやいなや逃げ去っていった。イケメンは俺たちに事情を説明し始めた。

「僕の名前はアルルです。よろしくお願いします」

「私はマリアよ」

「俺は佐藤一郎だ」

「さっきの少女はリリィといいます」

「リリィっていうのか……。いい名前だな」

「ありがとうございます」

「それで、なぜあなたはさっきの少女を追いかけていたんだ?」

俺の質問に、アルルと名乗ったイケメンは神妙な面持ちで理由を話し始めた。

「実はですね……。僕は勇者なんです」

「……はい?」

いかん……。頭が混乱してきた……。こいつは何を言っているんだ?

「あの……、ごめん。もう一回言ってくれるかな?」

「だから僕は勇者なんですよ」

「んー……。勇者多すぎ問題……」

俺は頭を抱えていた。勇者とか肩書はどうでもいいから現状を話してほしい。

「えっと……、詳しく聞かせてくれるか?」

「はい! 実はですね……。魔王を倒すために旅をしているのですが、なかなか手掛かりがなく困っていたところ、魔王の側近である四天王の一人を倒したという情報を手に入れたんです」

「ほう……」

「そこで、魔王軍を壊滅させるために、パーティの仲間を探しているんです!」

「そうか。頑張れよ。じゃあな」

「ちょっと待ってください! 話はまだ終わってませんよ! 仲間になってくれそうな人を探していたら、たまたまリリィを見つけたので声をかけただけですよ!」

「なるほど……。でもなんで逃げたんだろうな?」

「おそらく、いきなり話しかけられたのでびっくりさせちゃったんだと思います!」

まぁ、そうだろうな。それはアルルの格好を見ればすぐに分かることだった。

なぜなら、アルルは全身真っ黒だったからだ。しかもマントまで羽織っている。こんな怪しい人物がいたら誰だって驚くだろう。

「それにしても、この世界にも黒い服があるんだな」

「いえ、違いますよ」

「違うの!?」

「はい。これは最新式の光学迷彩です。勇者は何時も命を狙われていますからね。身を隠す技術は磨いておいて損はないですよ」

まぁ、とりあえず逃げていた人間、リリィと追っていた人間、アルルの事情は分かった。次はそこでお茶菓子を平らげた少女が気になる。

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