第3話:異世界といえばスキルのノリで出さないでほしい

「おい! 起きろ!」

「ん……ああ……おはようございます」

どうやら朝になったようだ。

「ユウシャ」を無理やり魔王軍の幹部探しに加えた後、次の目的は脱獄だ。

見張りの兵士に見つからないよう、夜の間に準備を進める。

「よし……。これで大丈夫かな……」

「何をしているんだ?」

「あっ! い、いえ……。何でもないですよ!」

「そうか」

危なかった……。見つかればすぐに捕まってしまう。

しかし、とりあえずこれで人一人は通れるくらいの穴はできたな。次は、その穴を使って脱出する。

「よいしょっと……」

「お、おい! そこで何をしている!」

「いや……ちょっと……」

見つかった。

「こ、こいつ! 抜け駆けする気だ!」

「捕まえろー!!!」

くっ、こうなったら一子相伝の秘奥義でこの場を切り抜けるしかない!

「うおおぉぉ!! 必殺!『土下座返し』!!」

◆ ◆ ◆

「おい! 何してんだ! 早く来い!」

「はいッ!!」

俺は今、兵士に連行されている。

「まったく……。貴様は何を考えているんだ」

俺は一子相伝の秘奥義「土下座返し」の説明をすることにした。

「あれは……俺の一子相伝の必殺技なんだ……」

「ほう?……どんな技なんだ?」

「ふっ……聞いて驚くなよ……。あの技は相手の攻撃をかわして、そのまま相手にダメージを与えるという素晴らしい効果を持っている」

「土下座しているだけだったが?」

「そ、それは……えと………………」

しまった……。つい口走ってしまった。これではまるで本当に土下座していたみたいじゃないか……。

「とにかく、もうこんなことはしないでくれ」

「わ、分かりました……」

俺は牢屋に連れ戻されようとしていた。

しかしその時「土下座返し」の効果が発動! 兵士すべてにカウンターがクリティカルヒットしてダウン!

そしてそのまま俺はその場から脱出に成功した。

やったぜ。

さて、これからどうしようか……。

「おっさん!」

声をかけられた方向を見るとそこには先ほどまで一緒にいた勇者がいた。

「君も無事だったのか」

「うん! 僕はおっさんに会ったのは初めてだけどね!」

そうだったか……。そういえば牢屋であったのは「ユウシャ」という名前の農民で、勇者ではなかったな……。じゃあこの子は誰だ?

「ところで君は一体だれなんだい?」

「僕の名前はアベルだよ! よろしくね!」

「ああ、よろしく頼むよ」

……ん? どこかで聞いたことのある名前のような気がするが……まあいいか。

それよりも今は脱獄中なのだ。あまり悠長なことはしていられない。

とりあえず午後のティータイムとしゃれこむか。

俺は近くの岩に腰掛け、「スキル:茶葉召喚(極)」を発動した。

すると目の前には大量のお茶の葉が現れた。

「よし……」

俺は手慣れた動作で紅茶を入れる。

そしてそれを優雅に飲み始めた。

「ふう……」

落ち付いて深呼吸をする。

「おっさん!? 急に無から茶葉を召喚しないでよ! 世界観が壊れる!」

「ん? ああ……すまない……」

よく分からないが「スキル:茶葉召喚(極)」のことを言っているらしい。

「それにしてもこの世界は凄いな……。本当に色々な物がある」

「そうだね! 僕もこの世界にきた時は驚いたよ!」

「まぁ俺はこの世界出身だし、再召喚のようなものだからあんまり驚いてないが」

「へぇーそうなんだ! すごいね!」

そんな会話をしていると、一人の兵士がやってきた。

「おい! お前たち何をしている! 怪しい奴め!」

まずい! このままだと捕まるぞ……。ここはなんとか言い逃れしなければ……。

「おっさん! ここは僕が!」

アベルには何か秘策があるようだ。俺は彼に任せることにした。

「お兄さん! 待ってください!」

「むっ! 何者だ?」

よし! うまくいったようだな。

「私は旅の商人です! こちらの方は私の護衛をしてくださっているんです!」

「おお! そうなのか……そんなわけないだろ! 脱獄犯!」

しまった。こんなところで優雅にティータイムとしゃれこんでいたのが仇となったか!

「ちっ、バレてしまったか……。仕方がない……。こうなったら戦うしかない!」

俺は「スキル:剣術Lv10」「スキル:格闘術LV5」を発動し戦闘態勢に入った。

「おっさん! 僕も加勢するよ!」

アベルは両手にチャクラムを構えた。

「あとそのよく分からないスキルは使わないでね! 世界観が壊れるから!」

「分かった……。ではいくぞ!」

俺とアベルは同時に兵士に向かって駆け出した。

「うおおおぉ!!」

「はあああ!!」

「ぐはあっ!」

俺の攻撃によって兵士は気絶した。

「ふぅ……。とりあえず兵士の服を借りて変装するか」

俺は兵士になりすますことに成功した。さて、あとやることは……。

「ちょっと! おっさん! まだやるつもりなの!?」

「ああ、もちろんだ。この国にいる魔王軍の幹部を倒さないと元の世界に帰れないからな」

「でももういいじゃん! 帰ろうよ!」

「いや、どこに?」

俺に帰る場所はない。俺はただ、勇者をお見送りしていただけのただのおじさんだったのだ。

「えっと……それは……ほら! 元の世界での生活とかあるじゃないですか!」

「いや、特にないし……」

「えっと……それは……その……あ、あれですよ! 家族がいるんじゃないですか?」

「俺の家族は……いない」

アベルは沈黙してしまった。俺の知り合いといえば、牢屋で会ったあの農民くらいしかいない。

「ごめんなさい……」

「別に謝らなくてもいいさ。気にしていない」

しかしどうしたものか……。このままだと俺は一生この国に縛られ続けることになる。

「そうだ! おっさん! 冒険者になればいいんだよ!」

「なるほど……。確かに」

俺は冒険者になろうと思ったが、そもそも脱獄犯が冒険者になれるのか?

「大丈夫だよ! おっさんは指名手配されているけど、脱獄したのはついさっきだし、もうすぐ夜になるから、今のうちに抜け出せばばれずにすむよ!」

「そうか……。じゃあ早速行くとするかな」

「うん! いってらっしゃい!」

俺はアベルと別れを告げた。……アベルはどうしてここに来ていたんだろうか。

まぁまた会えるだろう。その時聞けばいいさ。

こうして俺は夜の闇に紛れて城を抜け出したのであった……。

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