第2話:急に日本人名名乗るじゃんコイツ

「うぅん……」

目を覚ました時、俺は真っ白な空間にいた。ここは天国なのか? それとも地獄なのか?

「やあ、はじめまして。傷の調子は大丈夫かな?」

俺は生きていた。どうやら何者かに介抱されたらしい。真っ白な空間というのは、医務室だったようだ。

「君はあの後、魔王軍の幹部と戦っていたんだよ」

そういえばそうだった。

俺は「勇者」に頼られた事で舞い上がっていて、ドッペルゲンガーが近くにいる事に気付いたのだ。

「私は神です」

自称神様は俺の目の前に近づいてきた。

そして俺は気付いた。この神……小せえ!

「私は小さいんじゃありません! あなたが大きいのです!」

「すっ、すみません! そんなつもりじゃ……!」

「いえ、いいんですよ。私だって自分が大きい事は分かっています。だからこそ、こう思うんです」

「は、はい」

「もっと、大きくならなくては……と」

話は脱線したが、俺はこの自称神様に助けられたらしい。神様は一呼吸置いた後、本題に入った。

「実はですね……。あなたの『勇者』に対する思いの強さを見込んでお願いがあるんです」

「はあ……」

「今から私が召喚する勇者パーティに入って欲しいんです」

「え?……どういうことですか?」

「言葉通りの意味ですよ。あの世界の『魔王』を倒してほしいのです」

「勇者」にはそこまで思い入れはないが……まぁ頼みを断る理由もない。引き受けることにした。

「ありがとうございます! では早速、送りましょう」

「えっ!? もう!?」

「はい。善は急げと言いますしね」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 準備とか……」

「心配ご無用!なんとかなります!」

そんな無責任な……そう言う前に、俺は転送された。

◆ ◆ ◆

「ここが異世界か……。なんか普通だな」

そこは草原だった。見渡す限り草木が広がっている。

「とりあえず、街に向かうとするか」

しばらく歩いていると街の外壁が見えてきた。

「結構デカいな」

「止まれ! 貴様は何者だ!」

その声に振り向く。そこに立っていたのは、身分の高そうな衣服を身にまとった男だった。

「何者だと聞いている!」

「えっと、俺の名前は佐藤一郎といいます。旅人です」

「旅……人? ふむ……。見たところ武器など持っていないようだが?」

「はい。俺は戦う力はないので」

「ならば、どうやってこの街に来た!?」

「いや……神に……召喚されて……」

「はあ?何を言っているんだ貴様は!」

なんだこいつ? いきなりキレだして。

もしかしてヤバい奴なのか?

「怪しい! 拘束しろ!」

「はいッ!!」

門番たちは俺の腕に手錠をかけた。

まあ……そりゃそうなるか。俺は大人しく拘束された。

「おい! そっちのお前! こいつに水を飲ませろ!」

「はっ! かしこまりました!」

「うわっぷ! ぷはーっ!」

水をかけられた後、タオルを渡された。

「拭け!」

よく分からない扱いに俺は困惑していた。こんなことをしている場合ではない。早い所勇者パーティーを探してドッペルゲンガーを倒さなくては。

「おい! 早く行くぞ!」

「えっ! は、はい!」

こうして俺は、連行されるように城へと連れていかれた。

「入れ!」

「はっ!」

俺は城の牢屋に入れられていた。もちろん手錠もかけられている。

牢屋から周囲を見る。向かいの牢屋にも誰か囚われているようだ。農民のようないでたちをしている。

「あの、こんにちは……」

「ひっ! な、なんでしょうか……?」

怯えられてしまった。

しかし、この反応も無理はないと思う。突然現れた男が、自分と同じ境遇の男に話しかけてくるのだ。警戒しない方がおかしいだろう。

「俺は佐藤一郎……まぁ、オミ・オクリと呼んでもらっても構わない」

召喚前と召喚後の名前を両方名乗ったところで、相手の名を尋ねたところ、彼は自分を「ユウシャ」と名乗った。

「えっ! 勇者!?……いや、そんなはずはないか」

「はい……自分はただの農民で……」

やはり、この世界では『勇者』という存在は特別なようだ。

「えっ、じゃあ、あなたは……?」

「『ユウシャ』という名前の農民です……よく間違われるのが悩みです」

一通り自己紹介を終えたところで、互いの牢屋に入れられた理由について話すことにした。

「実は……俺達は魔王軍の幹部と戦っていて……」

「なんですって!?」

俺はドッペルゲンガーと戦った事を話した。

そして、俺と勇者は協力して戦ったが、逃げられた事を伝えた。

「そうですか……それは残念ですね……」

まあ……別に勇者は協力してくれなかったが。

「でも、魔王軍の幹部と戦うなんてすごいじゃないですか!」

「えぇ……。まぁ……」

この世界の勇者は随分とお優しいようだ。

「自分も勇者になりたかったんですけどねぇ……勇者の適性がないと言われまして……」

「そうなんですか……」

「ユウシャ」という名前なのに勇者の適性がないのも悲しいことだ。俺は彼に同情した。

「まあ、そういうわけで……一緒に魔王軍の幹部を探しましょう」

「えっ!?」

そんなこんなで、俺達の脱獄生活が始まった。

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