閑話「この素晴らしいオタク君に祝福を」
まだまだ続く夏休み。
今日の分の文化祭の準備の手伝いを終わらせたオタク君が、帰ろうと準備をしている時だった。
「小田倉君、今日は一人?」
オタク君に声をかけたのは、ドピンク頭にドリルのようなツインテール。
極めつけに地雷系メイクと改造制服の少女。そう、委員長である。
普通の学校だったなら、少女の頭のてっぺんから足のつま先まで校則違反だらけだっただろうが、ここは自由な校風を謳う秋華高校。
なので、彼女の格好は、何一つ校則違反ではない。校則違反ではないが、もちろんそれだけ奇抜な格好をしていれば、自由な校風に慣れている秋華高校の生徒でさえも思わず二度見してしまう。
「あっ、委員長。はい、今日は誰もいないので」
そんな委員長に話しかけられ、笑顔で返すオタク君。
他の生徒たちと違い、委員長の奇抜な格好など気にした様子もなく。
「そう」
(訳:そうなんだ。今日は優愛さんやリコさんだけじゃなくて、第2文芸部の人達もいなかったしね(=_=))
「なので、このまま帰ろうかなとしてたところです。委員長は?」
「私? ……私は」
時が止まったように、ただオタク君をジーっと見つめる委員長。
何を言おうか考えているのだろうと、委員長が喋るのを待つオタク君。
だが、中々喋り出さず、ただただオタク君を見つめる委員長に、少しだけ照れくささを感じながら後頭部をかいたりと、段々とオタク君がせわしなくなる。
「小田倉君」
「はいッ!」
長い沈黙の後、ゆっくりと口を開いた委員長に、思わず背筋を伸ばし起立の姿勢で返事をするオタク君。
少しだけ、口をパクパクさせた委員長が、間をおいて話し出す。
「小田倉君、誕生日だったよね?」
「えっ、あぁはい。先週ですけど」
「それじゃあ、お祝いしようか」
「僕のですか?」
オタク君の言葉に、コクンと頷く委員長。
自分の誕生日を何故か委員長が知っててくれた、それだけでもオタク君としては十分嬉しい。
なので、気持ちだけで十分ですよというオタク君だが、委員長はカクンと首を傾げる。
「小田倉君は、何か欲しいものあるかな?」
振り子時計のように、先ほどとは反対方向へ首を傾げる委員長。
「それとも、何かして欲しい事あるかな?」
そしてもう一度カクンと首を傾げる委員長。ホラーである。
そんなホラーな展開に、流石にオタク君もビビって……はいない。二人きりの委員長は時折こんな感じになるので、慣れてしまっているので。
欲しいものはないか、して欲しい事はないかと聞いて来る委員長。
一度は断りはしたものの、何度も断るのは流石に委員長に対し失礼だなと思い、腕を組み「そうですね」と考え込むオタク君。
とはいえ、オタク君も委員長も学生身分。当然高い物をお願いするわけにはいかない。
それなら、自販機でジュースを奢ってもらおうかな。そう思い委員長を見たオタク君が、ある事に気づく。
「して欲しい事、というかお願いがあるんですけど、良いですか?」
「はい。何でもしてあげますよ」
(訳:なになに? どんな事だろ(≧▽≦))
少しだけ、無表情からはにかんだような笑顔になる委員長。
美少女から「お誕生日だから、何でもしてあげる」もはやこれ以上ないくらいの最高のプレゼントである。
何でもと言われ、少しだけ興奮気味のオタク君。
「それじゃあ、ちょっと部室に来てもらって良いですか?」
「はい」
誰もいない第2文芸部の部室。
他の部室からは、文化祭の準備をしている生徒たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
そんな楽しそうな声も、第2文芸部の部室のドアを閉めると、耳を澄まさなければ聞こえないほどに小さくなっていく。
2人きりの、2人だけの世界になった第2文芸部。
冷房をつけるが、まだしばらくは蒸し暑さが残るだろう。
額から、たらりと汗が滲み、そして滴り落ちると、オタク君は意を決したように口を開く。
「委員長、そのツインテールの巻き方教えてください!」
オタク君は前々から気になっていたのだ。委員長……の巻いたツインテールの事が。
ドールが好きで、自分でも同じように巻いてみた事があった。
しかし、委員長のように綺麗な出来になる事がなく、納得できる物を作れたことはまだない。
なので、せっかくの委員長の「なんでもしてあげる」を使い、上手なツインテールの巻き方を師事する事にしたのだ。
「ツインテールの巻き方って、これですか?」
自分のツインテールの先っぽをちょんと掴み、首をカクンと傾げる委員長。
「はい。それです!」
その言葉に、力いっぱい返事をするオタク君。
「良いですよ。それなら、まずは触ってみますか?」
(訳:見て見て、これね。ここ! ここが私の頑張ったポイントなの!(; ・`д・´))
「触っても、良いんですか?」
「勿論ですよ」
(訳:遠慮しなくて大丈夫だから、あっ、でも強く引っ張ったりしたらダメだよ(;・∀・))
委員長の髪にそっと触れ、まるで幼子のように「うわぁ」という声が自然と口から出るオタク君。
気が付けば早口口調で質問をするオタク君に、同じく早口口調で返す委員長。
委員長がカバンの中からヘアアイロンを取り出し、自分のもみあげを使い軽くレクチャーしていく。
(小田倉君が興味持ってくれてる。やっぱりこの格好をして正解だったんだ!)
委員長の説明を夢中になって聞いているオタク君は気づかない。
ちょっとだけ、委員長の声が弾んでいる事に。
ちょっと教わっただけですぐ出来るようになるわけもなく、オタク君と委員長の秘密の特訓はしばらく続いた。
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