閑話「こみふぇパーティー」
夏!
夏といえば、そう、コミフェである!
コミックフェス、通称コミフェ。それは数多の同人誌が並び、数多のコスプレイヤーが立ち並び、数多の企業がこぞって参加する、夏と冬に行われるオタク向けの超大型イベント。
そんなオタク向けのイベントにオタク君たちは当然。
「コミフェ、行きたかったでござる……」
「仕方がないですぞ」
「お金、ないもんね……」
参加していない。
高校生のお小遣い事情では、参加するには金銭面や、泊りがけということで親の許可を貰ったりと、色々とハードルが高すぎるので。
第2文芸部の部室で、カタカタとキーボードを叩き、コミフェの出来事をSNSで巡回しながら笑っていたのが数秒前。
しかし、コミフェ参加者たちの楽しそうな姿を見て、思わずチョバムが「行きたかった」と言い出してしまったのだ。
一緒に笑っていたオタク君もエンジンも、チョバムの気持ちが痛いほど分かる、どうしてこんな所にいる。どうしてコミフェに参戦していないんだ。
「この情熱、どこにぶつければ良いでござるか……」
そんな風に呟いてしまったチョバムの肩に、オタク君とエンジンの手が添えられる。
「そんなの、決まってるだろ!」
「うむ。あそこ、ですな!」
固有名詞を使わないオタク君とエンジン。
だが、それだけで伝わったのか、チョバムの顔がパッと明るくなる。
「あそこでござるな!」
「あぁ、あそこだ」
「あそこですぞー」
あそこあそこ連呼しているが、決して卑猥な意味ではない。
まぁ、卑猥な物がある場所ではあるが。
善は急げと言わんばかりに、パソコンの電源を落とすと、部室を施錠し学校を後にするオタク君たち。
そして彼らが辿り着いた先は、全国に支店を持つ大手同人ショップである。
「ここがコミフェ三日目の会場でござるか」
コミフェは二日間開催だが、コミフェに行けなかった者、コミフェで買えなかった者が、コミフェの翌日に全国の同人ショップに集うため、同人ショップがコミフェの三日目の会場と比喩される事がある。
実際のコミフェ会場ほどではないが、コミフェ後の同人ショップは、どこも普段の数倍近い客で店内に溢れている。
オタク君の地域も例に漏れず、店の中に入ると身動きが制限されるレベルの人混みとなっていた。
有識者曰く、それでも開店時と比べれば大分マシである。販売される同人誌次第では開店前に百人以上の行列が出来ることもあるので。
オタク君たちが来たのは昼過ぎ、だというのに店内はかなりの賑わいを見せている。
移動が制限されるほどではないが、目的の場所に移動するには周りに気を付けて移動しないと厳しいくらいに。
店内は普段は商業誌、いわゆる企業が全国の本屋に出している本ばかりなのだが、コミフェの後はその様子がガラリと変わる。
商業誌は一部の棚のみになり、ほとんどが同人誌ばかりである。
雑誌の10分の1程度の厚さくらいの本が、所狭しと並べ積み上げられている。
そんな積み上げられた同人誌たちが、次々と手に取られ消えていく。
店内の様子にテンションがあがるオタク君たち。
他の客に紛れ、こっそりと18禁コーナーへと向かおうとして、店員に呼び止められ咎められる。
何故なら学校帰り、制服のままなので当然である。
「すみません。間違えちゃいました」
などと苦しい言い訳をしながら頭を下げ、健全なコーナーへ周り右をするオタク君たち。
とはいえ、彼らも健全な青少年。スケベな本には興味がある。興味があるが買いたくても買えない。
一昔前なら、がっくりと項垂れつつも、健全な本はそれはそれで欲しいのでそっちだけ買って帰っていただろう。
しかし、今は違う。
少々、というかかなり、というかどう考えてもアウトな内容なのにR18じゃない本はいくつも存在する。
そんな本をそれぞれが事前に調べ、情報共有するオタク君たち。
あとは購入するために手に取るだけ、そこで問題が起きた。
(これ、流石にドン引きされるでござるかな)
(絵は良いでござるが、内容で何か言われそうですな)
(ギャル系とか買うと、優愛さんやリコさんをそういう目で見てると二人に思われそう)
そう、性癖である。
彼らはオタクであることを公言出来ないような恥ずかしがり屋。
そんな恥ずかしがり屋の彼らが、自らの性癖を全開にするのが出来ないのは当然の事。
結果、全員が同じような物を買うだけで終わってしまう。せっかくのコミフェ、せっかくのイベントだというのに。
(((後でこっそり買いに来よう)))
店の前で分かれたオタク君たち。
そして数分後、まるで示し合わせたように店内で出会うオタク君、チョバム、エンジン。
「……拙者、実はロリが大好きでござる!」
「太ももは太いから太ももって言うんですぞ。太ければ太いほど良いと古事記にも書かれていますぞ!」
「僕は、ギャル系が好き、かなぁ~」
観念したようにお互いに性癖を晒し合う3人。
少しだけ恥ずかしそうに笑った後、それぞれの性癖に合った物を物色しながら、今度こそ満足いく買い物ができたオタク君たち。
彼らの絆が深まったのは言うまでもない。
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