委員長ルート 4


 晴れて結ばれたオタク君と委員長。

 第2文芸部で、二人がお付き合いを始めた事を伝え、それを第2文芸部のメンバーは笑顔で祝福をした。

 もちろん、何もなかったわけではない。

 オタク君への想いを秘めていた優愛とリコは涙し、それでも失恋を乗り越え、いつものようにオタク君や委員長と接する事が出来るようになった。

 初めは色々とギクシャクし、居心地の悪さが漂っていた第2文芸部も、段々と前の姿に戻りつつある。


 そして、季節は巡り巡って六月。

 

「小田倉君、文化祭で私、バンドやってみたい!」


 第2文芸部の部室に入ってくるなり、唐突にそんな提案をしたのはドピンク頭に、ドリルのようなツインテール。

 極めつけは地雷系メイクの女子、委員長である。


 無事進級し、三年生になったオタク君たちと、二年生に進級できためちゃ美。

 今年も文化祭の時期がやってきた。

 第2文芸部の出し物は、去年と同じくゲームカフェ「バーボンハウス」で決定していた。

 だというのに、委員長はバンドをやってみたいと言い出したのだ。

 あまりに唐突過ぎる委員長の提案に、オタク君、優愛、リコ、チョバム、エンジン、めちゃ美の全員がポカーンと口を開ける。

 

「あー、今期やってるアニメの影響?」


「うん!」


 オタク君の質問に、元気よく笑顔で答える委員長。

 かつては隠れオタクを通していた委員長も、今ではすっかり隠さなくなっていた。

 

「小田倉君はギター弾けるって言ってたし、チョバム君とエンジン君も楽器できるらしいから。やりたい!」


 そう言って、オタク君に近づくと「ねっ!」と両手を合わせ、可愛くおねだりのポーズをする委員長。

 今まではオタク君に合わせるようにしていたが、段々と素が出せるようになり、やりたい事を「やりたい」と自分から言うようになっていた。

 

「ま、まぁ僕は構わないけど、チョバムとエンジンってそもそも楽器出来るの?」


 可愛い彼女に可愛くおねだりされたのだ。彼氏であるオタク君に断るという選択肢はない。

 とはいえ、バンドとなればギターだけでは成り立たない。

 チョバムとエンジンが楽器なんて出来るのかと懐疑の目で見るオタク君。

 その隣で「ねっ!」と、可愛く瞳孔をガン開きでチョバムとエンジンを見る委員長。


「も、もちろんですぞ!」


「誠心誠意、頑張らせていただくでござる!」


 かつて、オタク君の性癖をピンク髪と地雷系というガセ情報を委員長に教えてしまった罪悪感から、委員長に完全に逆らえなくなってしまった二人。

 オタク君はともかく、委員長はその事について二人を責めるつもりはない。

 その情報が間違っていたおかげで、オタク君が自分の事を本当の意味で好きになってくれたと自信を持って言えるようになったのだ。

 なんなら感謝しているほどである。


 今の「ねっ!」も「二人も一緒にやろうよ」と委員長なりに楽しく誘っただけである。

 意図は伝わっていないし、半場強制のような誘い方ではあるものの、チョバムとエンジンも決して嫌々でなかったりする。

 楽器が出来るというのは本当なので。それと今期やってるバンドアニメの影響を受けているので。


「それで、僕がギターとして、チョバムとエンジンは?」


「拙者はドラムでござる!」


「某はベースですぞ!」


 自信有り気に、エアドラムとエアベースを披露するチョバムとエンジン。

 適当な事をやってたら突っ込んでやろうと思っていたオタク君だが、二人のエア演奏を見て考えを改めた。

 楽器を持っていないエアドラムとエアベースではあるが、思ったよりも本格的な動きをしているのだ。

 エアベースを持つエンジンは、本当にベースを持った事あるような持ち方をしているし、チョバムも間違った場所を叩いているわけではない。

 意外とまともな動きに、思わず「おぉ」と声が出るオタク君。

 この二人が問題なさそうならと、後は隣にいる委員長である。


「それで、委員長は何をやるの?」


「めちゃ美ちゃんからギター借りたから、小田倉君とギター!」


「なるほど。それじゃあリードギターとリズムギターに分かれる感じですか」


 何故めちゃ美がギターを持っていたのかあえて聞かず話を進めるオタク君。

 どうせめちゃ美の事だから、アニメに影響されて買ったは良いが三日坊主で終わったのだろうと予想しての事である。勿論予想通りなのだが。

 一緒にギターを弾きたいから教えてという委員長の言葉に、約二名反応するものがいた。


「聞きましたリコさん? 二人で一緒にギターですってよ」


 優愛である。


「まーたイチャイチャか」


 リコである。

 からかうように笑う優愛とリコ。

 委員長がプンスカと両手を上げて「そんなんじゃないよ!」と言い返す。

 ニッシッシと指を差し「いやいや、イチャイチャだから」と優愛とリコが笑って言い返す。

 そんな態度に口をとがらせ「イチャイチャじゃないもん」と拗ねた仕草を見せる委員長。

 オタク君と委員長が絡むとすぐに優愛とリコが冷やかし、委員長が必死に否定する。

 優愛、リコ、委員長、仲良し三人組の、いつもの冗談というやつである。

 最初の頃は、そんな女子三人組の冗談で顔を青くしていたチョバムとエンジンだが、今では「ははっ」と苦笑いを浮かべる程度には見慣れた光景になっていた。 


「優愛ちゃんとリコちゃんも一緒にやろうよ!」


「でもアタシも優愛も楽器出来ないぞ」


「ほら、ボーカル空いてるから二人でボーカルは?」


「リコぉ。ボーカルでオタク君たちに負けないくらいイチャつこうぜぇ」


「ごめんなさい。あーあ、委員長が二人でボーカルとか言うから、優愛が二度目の失恋したぞ」


「おっ? リコ喧嘩か? 表出るか?」


 そして始まる優愛とリコのキャットファイト。いつもの第2文芸部の風景。

 流石に冗談エグくないかと顔を青くする男性陣。


 だが、彼女たちにとってはもう軽口に出来る事である。

 面白おかしくリコに絡む優愛。うざったそうな口ぶりをしながらも、まんざらでもなさそうに笑みを浮かべるリコ。

 そんな二人をニコニコしながら宥める委員長。


 まだオタク君たちの青春は続く。


「あー、そういえば今度のピアノの発表会なに弾くか考えなきゃっす」


 構って欲しそうにしているめちゃ美に声がかかるのは、もう少ししてからだったのは言うまでもない。

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