(共通ルート)最終話「それで好きな人なんだけど……」

 一通り驚きの声を上げたチョバム達が、ふぅと軽く一息吐き落ち着きを取り戻す。


「小田倉殿、一体全体どういうことでござるか?」


 相手は誰か、いつ告白をするつもりなのか、聞きたい事が多すぎてどこから質問すれば良いのか定まらないチョバム。

 エンジンやめちゃ美も同じなのか、チョバムの要領を得ない質問にツッコミをしない。


「えっと、そうだね。どこから話せば良いのかな……」


 困ったように笑いながら頬を掻くオタク君。

 心の中で「先に話すこと決めておけよ」とツッコミを入れつつ、チョバム達は黙ってオタク君の言葉を待つ。


「実は今までさ、オタクだから自分は周りと打ち解けれないと思ってたんだ」


 オタクという負い目から、自己評価が低くなってしまう。

 そんなオタク君の考えは、チョバムも、エンジンも、そしてめちゃ美も共感を覚えるレベルでよく分かる。

 どうしてもどこか壁が出来て、いや、壁を作ってしまう。 

 いくら気にしないと言われても、やはり気になってしまうものである。

 だから言えない。そんな事はないと。


「でもさ、前のコミフェの時に、クラスメイトたちが手伝いに来てくれてさ。友達なんだからこれくらい当然だろって言ってくれたんだ」


 寒い中、わざわざ入場料まで支払って手伝いに来た上に、次回も手伝うと言ってくれたクラスメイト。

 友達だから。手伝う理由はそれだけで十分だろう。

 だが、オタク君としては、そこまで仲が良いと思われているとは思っていなかった。

 

「その時気づいたんだ。オタクだからなんて言って、他の人と壁を作っていたのは僕だったんだって」


 理解はできるがやはり心のどこかで「本当か?」と疑問に思うチョバム。

 そんな考えが抜けなくて、詩音との関係が上手く進まなかったなと、オタク君を過去の自分と重ねて複雑な表情で見るエンジン。

 私をギャルにして欲しいと言われ、仲良くなった友達相手に、オタク君同様自分もどこか壁を作ってるなと、まるで自分に言われたかのようにぶっ刺さるめちゃ美。

 オタク君の言葉に、三者三様の考えが浮かぶが、あえて何も言わない。

 それはオタク君が悩みに悩んだ結果の考え、そこに自分の考えを押し付けるような真似をしてはいけない。

 なので、チョバム達がオタク君に思う事はただ一つ。


(前置きが長い……)


 聞きたいところはそこではない。

 相手は誰か、いつ告白をするつもりなのか。重要なところはそこである。

 しかし、オタク君が良い事を言っているせいで、話の腰を折りづらい。

 こういう時、空気読まずに流れをぶち壊してくれるめちゃ美を横目に見るチョバムとエンジン。

 だが、こういう時、空気を読まずに流れをぶち壊すとオタク君が割とガチで怒る事を知っているので、めちゃ美は空気を読んで黙ったままである。

 

「それで、告白なんだけど」


 オタク君の言葉に、心の中でやっと来たとガッツポーズを決めるチョバム、エンジン、めちゃ美。

 しかし、そのガッツポーズが、次の言葉で一気に萎えさせられる。

 

「バレンタインの後にしようかなと思ってるんだけど、どうかな?」


 バレンタインは二月十四日。まだ一ヶ月以上先である。

 どうかななんて聞かれたら、答えは決まっている。


「長すぎじゃないっすか?」


 当然の疑問を口にするめちゃ美に、オタク君が目を逸らし、困ったように笑いながら、頬を掻く。


「ほら、その。やっぱり好きと思われてるか不安だし……」


「「「……」」」


 ここまでの話はなんだったんだと、流石に物申したいチョバム、エンジン、めちゃ美。

 えへへと少し照れくさそうに笑うオタク君の反応が、彼らを余計に苛立たせる。


「ちなみに、小田倉氏の好きな相手は、鳴海氏、姫野氏、委員長氏のどれかですかな?」


「あぁ、うん。バレてたんだ」


 むしろその三人以外と答えていたら、ぶん殴ってるところだったなと笑顔になるチョバム、エンジン、めちゃ美。

 直後、その三人相手に「好きと思われてるか不安」な時点で、やっぱり殴りたいなと考え直す。

 むむむと唸りながら、こめかみを押さえオタク君の殺意を抑える。


「それで、話を戻すんだけど。告白のタイミングってバレンタインの後に考えてるんだけど。どうかな?」


 真顔でチョバム達に質問をするオタク君。

 傍目から見て優愛、リコ、委員長がオタク君に好意を寄せているのはバレバレ。

 ならばオタク君は今すぐにでも告白をすれば良いと思う面々。

 だが、周りからバレバレでも、本人たちは気づいていない。

 それを第三者の自分たちが介入し教えるのは何か違う。


 悩み考え抜き、その上で答えを出す。それが大事なのではないか。

 相手が自分の事を好きだと第三者に教えてもらったから告白する。大事な仲間にそんな告白の仕方をして欲しくない。


「拙者は、それで良いと思うでござるよ」


 なので、オタク君の意思を尊重しようと、チョバムがオタク君の意見に賛成を示す。


「そうですな。某もそれで良いと思うですぞ」 


「相方、その時は屍を拾ってやるっすよ」


 エンジンもめちゃ美も、チョバムと同じく、オタク君の意見に賛成である。

 三人の答えを聞いて、頬を緩めるオタク君。


「ありがとう。それで好きな人なんだけど……」 


「ストップですぞ!」


 誰が好きか言おうとするオタク君に、エンジンが手を出しストップをかける。

 思わぬストップに、オタク君だけでなく、チョバムもめちゃ美も驚きの表情を浮かべエンジンを見る。

 一番気になるところなはずなのに、なぜストップをかけるのかと。


「某もチョバム氏も、教えてもらったら絶対に顔に出してしまうですぞ」


 すぐに告白すると思っていたから相手が知りたかった。

 だが、告白は一ヶ月以上先。

 オタク君が誰に告白するか分かった上で、一ヶ月以上優愛たちと今まで通り接することが出来るかと言われたら、答えはNOである。

 今の時点でも、態度に出てしまうかもと思うくらい。


「あー、自分もっすね」


 だから、今はだれか言わないで欲しい。

 そんな三人の意見に、オタク君が「そっか……分かった」と頷く。


「もし手伝えることがあったら、言って欲しいですぞ」


「うん。ありがとう」


 どこを好きになったのか、いつから好きだったのか。

 聞きたい話はあるが、下手をすれば特定できてしまうかもしれない。

 なので、めちゃ美がわざとらしくコミフェの戦利品の話を始め、この日はそれ以上オタク君の恋愛に追及する事なく、オタク会話で盛り上がった。


 そして、迎えた二月十四日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る