閑話「ホワイトデー(委員長編)」

ファミ通文庫様より本日発売の「ギャルに優しいオタク君2巻」の発売記念SSとなります。

時期としては1年生の最後です。

以下本文


 三月十四日。

 この日、優愛、リコ、委員長は緊張しながら第2文芸部の部室を訪れていた。

 バレンタインデーのお返しが返ってくる日。そう、ホワイトデーだからである。

 そして、緊張しているのは、なにも女性陣だけではない。


「こ、これ。バレンタインデーのお返しでござる」


「某たちからですぞ」


 お返しを返す側も、それなりに緊張していた。

 男性陣は、家族以外からチョコを貰ったのは初めてなので。

 オタク君、チョバム、エンジンはそれぞれお礼に何を返すのか議論を重ね、彼らが出した結論。それはティータイムセット。


 ちょっとお洒落な茶葉をチョバムが用意し、お菓子をエンジンが用意し、まるでおとぎ話に出てきそうな装飾や盛り付けをオタク君が用意した、三人で一セットとなるお返しである。

 第2文芸部の部室には、ちょっとだけメルヘンチックな空間が出来上がっていた。

 三人同時に入ってきて欲しいと言われた優愛、リコ、委員長が、部室のドアを開けると歓喜の声を上げる。


「うわっ、なにこれ!?」


「へぇ、凄いじゃん」


「綺麗」


 委員長たちの反応に、ほっと胸をなでおろすオタク君たち。

 オタク君たち男性陣と、委員長たち女性陣が対面になるよう、それぞれ席に座り、優雅な空気でお茶会が始まる。が、女性陣はまだソワソワした様子である。   

 もしかしたら、オタク君から何か特別なお礼が来るかもしれない。そんな期待を少なからずあるからだろう。

 何故ならバレンタインデーは愛を伝える日で、ホワイトデーは愛の返事をする日なのだから。


「あっ、そうだ。これ、お返しになるか分からないですが」


 オタク君が思い出したかのようにそう言って、一枚の封筒を取り出し、委員長に手渡す。

 首を傾げ、頭に「?」を浮かべながら、封筒を受け取る委員長。受け取った後も「?」が頭に浮かんだままである。


(開けて、良いのかな?)


 この場で開けるべきか、それとも帰ってから開くべきか、封筒を見て首を傾げ続ける委員長。


「あっ、それと優愛さんとリコさんにも」


 同じものを優愛とリコに手渡すオタク君。

 まさかの展開かと思いきや、当然のように優愛やリコにも封筒を渡し始めるオタク君。

 封筒を受け取った優愛が、早速封を開けているのを見て、それにならい自分も封を開く委員長。

 一体何かなと、ワクワクして封筒を開けた優愛が笑顔のまま固まる。

 同じようにリコと委員長も時が止まったかのように固まるのだった。


[何でも願い事を叶える券]


 封筒に入ってあったのは、そう書かれた紙であった。

 もしかしたら、お返しは足りていないのかもしれない、だが何を贈れば良いか分からない。なので、オタク君は自分が出来る範囲で願い事を叶える券を贈ったのだ。

 そう、何でも。何でもである。

 受け取った委員長は勿論、優愛とリコも意識が宇宙に飛んでいた。

 

 オタク君のお礼で一時期場が凍った以外は、第2文芸部男子によるホワイトデーのお返しは無事完了した。

 適当にだべり、気づけば下校時刻の夕方。

 楽しかった思い出を胸に、全員が帰路に着いた。はずだった。


「雪光さん?」


 何故かオタク君に付いてくる委員長。

 オタク君の家と委員長の家は、別方向。

 なので「どうしてついて来るの?」という意味を込め、オタク君が名前を呼ぶが、委員長は「名前を呼んでどうしたの?」という意味を込め首を傾げる。


「えっと、帰り道ってこっちでしたっけ?」


「違いますよ?」


 じゃあ何でついて来るのかと、困惑の表情を浮かべるオタク君に、委員長がツインテールを揺らしながら周りをキョロキョロと見回す。

 委員長がキョロキョロしているので、それに合わせるようにオタク君もキョロキョロしてみるが、当然なにもない。

 ちょっと、というかかなり挙動不審な動きを見せる委員長に、オタク君がどうしたものかと困り果てた時だった。 

 

「小田倉君、これ」


 そう言って、委員長がカバンの中から一枚の紙を取り出し、オタク君に手渡す。

 オタク君の目からは、心なしか、委員長の顔が赤らんで見える。 

 緊張しながら、その紙を受け取るオタク君。


[何でも願い事を叶える券だよ♪]


 渡された紙には、そう書かれていた。

 オタク君が委員長に渡した[何でも願い事を叶える券]とは別の[何でも願い事を叶える券]である。

 委員長が渡した方には、お星さまや、自分の顔なのかツインテールの女の子の絵が描かれていたりと可愛らしくアレンジされている。

 先ほどオタク君から券を貰った際に、お礼にと急遽委員長が用意した物だ。


 受け取ったオタク君は完全にフリーズしてしまっている。

 当たり前だ。思春期の少年に、女の子が[何でも願い事を叶える券]など渡せば思考が飛ぶのは当然である。

 

「これフリーパスだから何回使っても大丈夫ですよ」


「えっ、良いの?」


「小田倉君には色々して貰ってますから。お礼に何かしたいので」


 一瞬だけ邪な考えが浮かんだオタク君だが、目の前で無邪気な笑顔を見せる委員長を見て罪悪感を覚える。


「雪光さん、早速これ使って良いですか?」

  

「大丈夫ですよ」


 一体どんなお願い事をするのかなと、期待に満ちた目でオタク君を見る委員長。

 そんな委員長に、オタク君は軽く笑いかける。


「今期のアニメの話をしたいので、今から喫茶店に寄っていきませんか?」


「はい。喜んで」


 スマホで近場にある喫茶店を調べ、肩を並べて歩くオタク君と委員長。

 二人のホワイトデーは、もう少しだけ続くようだ。

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