第172話「相方、そろそろ注文するっすよ。肉食いたいっす。肉」
「相方がオタク以外の男子と盛り上がってるの見るの、珍しいっすね」
「そうかな? 教室では普通に話してると思うけど」
ワイワイと、オタク君を中心にくだらない話で盛り上がる男子一同。
そんなオタク君を見て、めちゃ美が珍しがるが、優愛が即座に否定する。
「ってか、教室だと小田倉いつもあんな感じじゃないか?」
「うん。そもそも、最近の小田倉君はクラスで男子だけじゃなくて、女子とも話してるよ。相談とかされてたりするの見る」
この前はこんな事を話していたと、オタク君の事をめちゃ美に語る優愛、リコ、委員長。
(いやいや、優愛先輩たち相方見すぎでしょ)
彼女たちは、めちゃ美の疑問に答えただけと思っているが、めちゃ美からしたら惚気話以外の何物でもない。
自分よりもギャルにモテているオタク君にジェラシーを感じるめちゃ美。
(でも、ギャルが幸せそうな顔を見れるのは良いっすね!)
オタク君がギャルにモテている事に嫉妬するが、そのおかげでギャルたちの幸せそうな顔を見られる。
めちゃ美、天国と地獄である。
なおもオタク君の事で盛り上がる優愛たちに、笑顔で相槌を打つめちゃ美。その姿を微笑むように見守る村田姉妹。
「この前オタク君ったらさ」
「そういや小田倉のヤツ」
「うんうん。小田倉君って意外に」
が、物事には限度がある。
思ったよりもオタク君トークが長く続き、食傷気味のめちゃ美。
その様子に、村田姉妹もやや呆れ気味である。
(これ、もしかしてマウント合戦じゃないっすか?)
引き気味の苦笑を浮かべるめちゃ美、残念だがその考えは間違いである。
別に優愛たちはマウントを取り合っているわけではない。
(オタク君、こっちに気づいてくれないのかな?)
(小田倉のヤツ、名前出されてるんだから反応しろよ)
(小田倉君、こっちの会話は聞こえてないのかな。やっぱり)
オタク君に気づいてもらいたくて、あえてオタク君の話題を出しているのだ。
男子同士で熱い友情を交わしてる最中に、割り込む勇気がないので。空気の読める女たちである。
なので、ここは空気の読まない女の出番である。
「相方、そろそろ注文するっすよ。肉食いたいっす。肉」
「あっ、うん」
めちゃ美の言葉に、男子たちの会話が一旦止まる。
思春期の少年は、知らない女子が話しかけて来た時は、会話を一旦止めてしまう性質を持っているので。
「とりあえずタンを人数分で良いっすか?」
「それと野菜とご飯もかな。お肉も好きなの適当に頼んじゃって良いよ」
それで良いよねと男子たちに確認するオタク君。
おうと元気よく返事をする男子たち。
肉なら何でも食うからなと誰かが言うと、笑いながら「確かに」と返事が飛んでくる。
「ドリンクバーは全員付けても良いっすか?」
ついでにドリンクバーも頼んで良いか確認をするめちゃ美。
あぁ、うん。と、ややどもり気味に返事をする男子たち。実に思春期的である。
(ってか、相方ってどういう意味だよ小田倉ァ!?)
優愛がオタク君に好意を寄せている事は、何となく察していたクラスメイトたち。
最近ではリコや委員長もオタク君に対し、何かとアプローチをかけている事にもクラスメイトたちは気づいていた。
だがここに来て、新たな勢力の登場である。しかも相方呼び。
世間一般でいうところの『相方』は、コンビを組んだ相手を『相方』と呼ぶことが多いが、最近では恋人の事を『相方』と呼ぶことも対して珍しくない。
「そうだ、ついでに頼むなら……」
「これも注文してみようか……」
めちゃ美のおかげで、優愛たちもやっと話題に入る事ができ、何を注文しようか盛り上がる中、男子たちは完全に言葉を失っていた。
(相方呼びが気になって、全く話が頭に入らない!!)
オタク君を除く男子の心が一つになった瞬間である。
オタク君は気の利く性格なので、そんな男子たちの様子にすぐさま気づき、あぁといった様子で口を開く。
「そういえば自己紹介がまだだっけ。コイツは第2文芸部の後輩で、ネットゲームをよく一緒にやってるから僕の事を相方って呼んでるんだけど、別に付き合ってるとかじゃないから気にしないでね」
「し、下木芹っす。その、よろしくっす」
先ほどまでは空気読まないモードになっていたために、平気で喋れためちゃ美だが、唐突に自己紹介をさせられ、テンションが下がった結果いつもの人見知りモードになっている。
自己紹介をした後に、「フ、フヒ」と彼女なりの精一杯の笑みを気持ち悪く浮かべ、軽く頭を下げる。
なるほど。
オタク君への相方呼びも納得し、ニコニコ顔の男子たち。
直後にオタク君が優愛、リコ、委員長のハーレムを作り上げ、男子たちが般若のような表情になったのは言うまでもない。オタク君が羨ましいので。
ついでに、めちゃ美も同じように般若のような表情になったのは言うまでもない。オタク君が羨ましいので。
注文した料理が届き、それぞれ好きに肉や野菜を焼きながら、会話を弾ませる。
進路はもう決まったのか、めちゃ美のクラスの英語教師は去年の担任だった、文化祭や体育祭、それぞれの部活だったりどうでも良い日常話。
そして恋バナに、村田詩音がコミフェ会場で「ダー」の後に何と言おうとしたのか弄りなど。
十五人もいれば、話題が尽きる事はない。
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