第168話「すみません。そっちは他のサークルの前なので、スペース空けてください」
「どうしてこうなった」
現実逃避気味に呟くオタク君だが、人だかりは増えていく一方である。
優愛がお金を受け取り、リコが同人誌を渡していく。
急いで段ボールを開けていくオタク君。
「相方、やばいっす」
めちゃ美が必死にヘルプの声を上げる。
彼女なりに整列をしようとしたのだろうが、上手くいかなかったのかバラバラだったり他の場所に列ができてしまったり、何よりも問題なのは、他のサークルの前にも並んでしまっていた。
「めちゃ美、こっちに来て僕の代わりに段ボール運んでくれ。代わりに僕と委員長で整列をするから」
サークルから出て、声を張り上げ必死に整列を始めるオタク君。
オタク君の代わりに段ボール開け、同人誌を補給する作業に入るめちゃ美。
オタク君と交代した事により、幾分かマシになったが、オタク君と委員長が整列するよりも人が増えるペースの方が速く、段々と列が乱れ始めていく。
「ヤバい」
「ん? 優愛さっきからそわそわしてどうした?」
どうしたと聞くリコだが、なんとなく答えが想像ついてしまっていた。
「ちょっとだけ、トイレ行きたいかも……」
「なんで先に行ってなかったんだよ!」
「さっきも行ったけど、また行きたくなった……」
どうしようと顔を青くする優愛。
この状況で優愛が抜ければ、崩壊するのは目に見えている。
そうなれば、必死に整列してるオタク君たちもすぐに限界を迎えてしまうだろう。
「優愛先輩、自分のおむつ使うっすか!?」
「めちゃ美、冗談言ってる場合じゃないから!」
(もちろん冗談だよな?)
一瞬チラッとめちゃ美の下半身に目線を向けるリコ。
尊厳か、サークルの崩壊かを迫られる優愛。
一方その頃。
「すみません。そっちは他のサークルの前なので、スペース空けてください」
整列をしても、人は次々と増えていく一方。
整列のために移動していたオタク君。気がつけば自分のサークルも、最後尾看板を掲げる委員長の姿も、人混みに紛れ見えなくなってきてしまっていた。
他のサークルに迷惑をかけないようにと頑張っているが、既に限界である。いや、とっくに限界を超えていた。
オタク君が必死に頑張っているのが分かっているから、何も言わずに見守るサークル主たち。
とはいえ、そんな気持ちがオタク君に伝わるわけもなく、申し訳なさで涙を浮かべ始めるオタク君。
それでもと「すみません」と、声を張り上げようとして、声が止まる。
もはやオタク君の心は折れかけていた。
「小田倉、ここにスペース空ければ良いのか?」
「えっ?」
思わず振り返るオタク君に「なんて顔してるんだ」と笑いかけるのは、オタク君のクラスメイトの青塚である。
「ここは俺と青塚で整列しとくから」
「えっ、秋葉君も……どうして?」
「いや、俺たちだけじゃないぞ」
ほらと指を指す青塚と秋葉。
「ここは他の方のスペースなんで空けてくださーい」
指差す方向には、浅井、池安、樽井、そして山崎が青塚たちと同じように整列をしていた。
呆然とした顔で「なんでここにいるの?」とクラスメイトを見るオタク君。
その視線に気づいた面々が、ニヤリと笑いながら親指を立てる。
「「「「「「「助けに来たぜ!」」」」」」
「皆……」
「さぁ急げ! 第2文芸部の方も大変なんだろ」
「……ありがとう!」
聞きたいことはまだまだあるが、整列がなんとかなった今、サークルの方が気になるオタク君。
「悪いけど、お願い!」
そう言って頭を下げ、急いで自分のサークルへと向かっていく。
人混みを掻き分け、自分のサークルまで辿り着いたオタク君が見たのは。
「やほー、小田倉君。優愛ならトイレ行ってるよ」
「ダー……エンジンに頼まれて手伝いに来たよ。その様子なら皆来てくれたっぽいね」
優愛の代わりに売り子をしている村田歌音。
そして、リコと共に同人誌を手渡す村田詩音であった。
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