第169話「新刊売り切れました!」
「おっす。繁盛してるじゃねぇか」
「マスター。来てくれたんですか!?」
「大量に発注した同人誌が売れずに凹んでる姿を期待して来たんだがな」
オタク君とめちゃ美が大量に発注した同人誌で困っていると知り、駆けつけたギルドマスターだが、行列を見て安心し、イタズラっぽく笑いながら憎まれ口を叩く。
「そういや、後でおえっぷととろろんマンも来るって言ってたぞ。んじゃまたな」
行列が出来てるのに長話をするわけにもいかないので、さっさと同人誌を買うと、そう言って去っていくマスター。
しばらくしてから現れたおえっぷととろろんマンも同じように、軽く挨拶だけして同人誌を買って去っていく。
「今度ログインした時にお礼言っておかないといけないっすね」
「そうだね」
ずっと段ボールを下ろしては、開けて中から同人誌を取り出す作業ばかりしていたせいで、肉体的なものはともかく、精神的に疲れが出始めていたオタク君とめちゃ美。
ギルドマスターたちのおかげで心が軽くなったのか、二人はそれだけで疲れが少しだけどこかへ行ったように感じていた。
行列が出来てから既に二時間。いまだに客足が途絶えることはない。
時計の針は、既に午後二時を回ろうかとしている。
「リコ、手伝いに来たよ」
「とりあえず、リコの売り子姿、写真撮っていい?」
やほーと手を振りながら遅れてきた援軍は、去年リコと同じクラスだった友人の三木ミキと伊藤愛美である。
「あー……浅井たちが休憩せずにずっと整列してるから、交代してやってくれるか?」
「オッケー」
写真を撮って良いかと聞いてくるミキを無視し、愛美と話を進めるリコ。
愛美も同じように写真を撮って良いか発言をスルーしながら、ミキを引っ張り、浅井たちと交代し整列を始める。
なんだかんだ言いながらもしっかりやってくれる友人二人を見て、リコが全くと嬉しそうにため息を吐く。
「リコ、良い友達持ったね」
「……そうだな」
でも、それは小田倉と優愛のおかげだよ。
かつて自分がクラスで浮いていたのを、助けてくれたから。
本当はいつも、その時の事をちゃんと口に出してお礼を言いたいと思っているリコだが、天邪鬼な心がそれを許してくれない。
「おっ、ここは素直にお礼を言うところだぞ」
「はいはい。ありがとうございました」
優愛のウザ絡みに対し、あしらうようなお礼を口にするリコ。
もしかしたら、優愛やリコの友人がリコにウザ絡みをするのは、こうでもしないと本心を口に出来ない彼女の性格を知っているからかもしれない。
いまだ、客足が止まらないどころか、逆に増えていく第2文芸部。
「新刊売り切れました!」
閉場までまだ二時間ほど時間があるが、ついに第2文芸部の新刊を全て捌く事が出来た。
既刊も残りわずかで、新刊が売り切れた数分後には、全て完売しましたとオタク君が興奮気味に叫ぶ。
コミフェ参加二回目にして千部という、やらかしのような、いや、実際は相当やらかしてしまった数字で挑んだオタク君たち。
だというのに、まさかの完売である。
「おー、全部売れたね」
すごいすごいと言って手を叩く優愛。
そんな優愛を見て、第2文芸部の隣のサークルが、そして周りのコミフェ参加者たちが手を叩き始め、コミフェの中心で拍手が鳴り響く。
軽い気持ちで手を叩いただけなのに、周りの全員が手を叩き始めた事に、優愛がうろたえる。
島中に配置された無名のサークルが、いきなり千部も持ち込み、そして完売させたのだ。拍手が沸き起こるのは当然である。
もはや伝説と言っても過言ではないだろう。
周りから拍手喝采を受けるも、オタク君と委員長、そしてめちゃ美以外はなぜそこまで賛美されているのか分からず、少しだけ戸惑いながら照れくさそうにしていた。
どれだけの偉業を達成し、その中枢に自分たちがいる事に気づかず。
「すみません。他の参加者のご迷惑となりますので、立ち止まらないようお願いします」
オタク君たちを称える拍手は、スタッフから注意されるまで鳴りやむ事はなかった。
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