閑話「オタク君がモテないのは、どう考えてもギャルたちが悪い」
「見てこれ、やばくない!?」
「マジヤバいよね」
オタク君のクラスで、女生徒たちがヤバイヤバイと言いながらファッション雑誌見ていた。
「ってか、この子私達と同い年らしいよ?」
「マジで!? 同い年に見えねえって、なんかモデルって感じがするよね」
「全体的にオーラが違うよね」
ペラペラと雑誌をめくっていた女生徒たちがあるページで手が止まる。
読者モデル、通称読モの年齢が自分たちと同じと知り、その写真を眺め、コンプレックスと憧れを感じていた。
顔だけでなく、ファッションのセンス、髪型、どれ一つとっても自分たちとは違い過ぎる別世界の存在。
そんな存在になりたい。いや、なれなくても良い、少しでも近づきたい。
良いなぁと小声で呟きながら、自分じゃ無理だと諦めの混じった感情をため息とともに吐き出す。
「おはー」
そんな陰鬱な女生徒たちに、能天気な明るい声がかかる。
同じクラスの女生徒である、鳴海優愛である。
「あっ、鳴海さんおはよう」
女生徒たちがそう挨拶を返し、ギョッと目を見張る。
普段はストレートの優愛が、今日は緩い感じのウェーブがかった髪型になっているのだ。
派手な髪型であるが、落ち着いた感じのメイクをしているために、派手な印象は受けづらい。
いつもと違う髪型だからだろうか。それとも落ち着いたメイクだからだろうか。
女学生たちは自分たちと同じ年齢のはずの優愛が、なんだか少しだけ年上に感じていた。
「鳴海さん、今日は凄いね」
「なんか読モみたいじゃん!」
ちょっとだけ興奮した様子で優愛に話しかける女生徒たち。
驚いているのは何も彼女たちだけではない。
クラスメイトや、廊下を通る生徒も、優愛の事を思わず見入ってしまってるほどに、今日の優愛は仕上がっていた。
「ねぇねぇ、それどうやったの!?」
席から立ち上がり、優愛の髪をまじまじと見る女生徒たちが早速優愛に質問攻めをする。
が優愛は少しだけ困ったような笑顔で頬を掻き、目線を逸らす。
「いやぁ、実はオタク君にやってもらったから、分かんないんだよね」
はははと軽く笑いながら、隣を歩いていたオタク君に目線を送る。
自分に話題をパスされた事くらいオタク君でも分かるが、ここでクラスメイトの女生徒たちに得意げに説明すればウザがられるかもと思い、軽く頭を下げて会釈する程度である。
どう反応すれば良いか困るオタク君。女生徒たちはそんなオタク君の様子を気にも留めず、オタク君を囲い始める。
「ねぇねぇ、鳴海さんみたいに私も出来る?」
「そういえば前に鳴海さんがインナーカラー入れてたのも小田倉君がやってたんだよね!?」
「どうやるのか教えて、お願い!」
優愛ほどでないが、次々と言葉を投げられ、女性慣れしていないせいで返答に困るオタク君。
だが、ここで終わりになるほど、女の子のファッションへの拘りは弱くはない。
「えっ、小田倉君ってヘアメイクも出来るの!?」
「メイクも出来るって聞いたけど本当!?」
会話を聞いていた他の女生徒たちも混ざり始め、オタク君の周りには軽いハーレムが出来上がっていた。
「ええっと、髪型はエクステやウィッグを流用してるので、誰でも出来ると思いますよ。メイクも多少でしたら……」
困りながらも、一つ一つ真面目に返事をしていくオタク君。
「今日のメイクもオタク君にやってもらったんだよ! それにこれ、オタク君に選んで貰った服、良くね!?」
オタク君が褒められると嬉しい優愛。
ついつい先日オタク君に選んで貰った服と、オタク君に髪型を弄ってもらい色々なファッションに挑戦した際の写真をスマホで見せびらかす。
それを見て、女生徒たちが「おー」と興奮する。写っているのは全て優愛なのだが、まるで複数人のモデルがいるかのように、ファッションが全く違う。
しかも、どれも読モに引けを取らないくらいに良く撮れているのだ。
「何々、私にも見せて!」
「うわっ、小田倉君こんな事できるの!?」
もはやクラスの女子の大半を巻き込んだ、軽いお祭り状態である。
確かに優愛は元が良い。顔、スタイル、姿勢、どれをとっても一級品だろう。
だが、もしかしたら、そう、もしかしたらオタク君に頼めば、自分もこんな風に変われるんじゃないか。
「小田倉君、お願いがあるんだけど」
一人の女生徒がそう口にすると、それを皮切りに他の女生徒たちもオタク君にお願いが始まる。
もしこれが一対一の対面で言われたなら、女性慣れしていないオタク君でも安請負の返事を出せただろう。
しかし、多勢に無勢である。もはや頬を掻いて困るしか出来ない。
「ちょっと、オタク君困ってるじゃん」
そう言って助け舟を出す優愛だが、女生徒たちは止まらない。
彼女たちが止まるのは、予鈴がなる数分後の事であった。
オタク君のクラスの担任が朝のHRを始め、一時限目の授業が始まる。
が、クラスの約半数は授業に身が入っていない。当然その約半数とは女生徒たちである。
隙あらばオタク君をチラチラ見て、次の休憩時間にどう声をかけようかと、獲物を狙うような目で見ているのだ。
(小田倉君って、オタク君って呼ばれてるからオタクっぽく感じてたけど、こうやって改めてみるとオタクっぽくないよね)
(この前、校歌歌ってる時小田倉君そういえば良い声してたよね)
(他の男子と比べて、小田倉君って筋肉凄くて良い体してる)
改めてオタク君の事を考える女生徒たち。
手先が器用なのでヘアメイク、メイク、ネイルアートをこなし、鍛えた身体で何割か増しにカッコ良く見える。
歌も上手く、優愛の服選びをオタク君がしたというならファッションのセンスも良い。
オタク君の功績を数え始めればキリがない。
(あれ? 小田倉君って、有り寄りの有りじゃね?)
女生徒たちの目の色が段々と代わっていく。
気が付けばヘアメイクやメイクではなく、オタク君が目的に切り替わっていっている。
(授業が終わったら、連絡先の交換だけでも!)
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
女生徒たちのイスが勢いよく音を立てる。
目指すは、オタク君。
「ねぇねぇ、オタク君。今度ここ行かない?」
「なぁ小田倉、この本の続き気になるから今日家に行って良いか?」
「小田倉君、今日は委員長会議あるって聞いた?」
だが、既にオタク君の周りには優愛、リコ、委員長が立ちはだかっていた。
いや、立ちはだかっていない。くっ付いているので。
オタク君の右肩に体重を預けるように、のしかかる優愛。
オタク君の左肩に体重を預けるように、のしかかる委員長。
オタク君の席の対面に立つリコ。
椅子に座ったまま、いつもよりも彼女たちの距離が近く感じるオタク君。
とはいえ、時折似たような事は起きるので、多少はなれているのだろう。
しどろもどろになりながらも、会話に応じている。
そんなオタク君の席に、女生徒たちは近寄ろうとしても近づくことが出来ない。
どう考えても自分が割り込めない領域だと理解したからである。
これだけの優良物件なのだ。お手付きではないはずがない。
今更オタク君の魅力に気付いた女生徒たちだが、時すでに遅しである。
今日もオタク君は優愛たちと楽しく過ごす。
彼女たちと自分は釣り合いが取れないななんて、自己評価の低い事をちょっと考えながら。
誰かがほんの少しでもオタク君の魅力に気づき、オタク君にモテ期が到来し女生徒たちから告白を受ければ、オタク君の自己評価の低さも改善されたかもしれないだろう。
でも、そうはならなかった。
オタク君がモテないのは、どう考えても
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