第162話(優愛ルート)「オタク君、クリスマスって何か予定ある?」
12月22日
この日は、オタク君の学校の終業式。
冬休みにクリスマスにお正月と、ちゃんと勉学に勤しんだ学生にとっては楽しみが連続で続く時期である。
終業式が終わり、後は帰るだけ。
HRでクラス担任の教師が良くある小言を喋っているが、ほとんどの生徒は明日から、なんなら今日から何をするかで頭が一杯である。
教師もその辺は分かっているようで、注意も一応している程度。
「起立」
教師の話は聞いていないが、委員長の号令には即座に反応する生徒たち。
内心では「全く」と思いつつも、自分が学生だったころも似たような感じだったなと、教師は諦めの表情を浮かべる。
教師が教室を出ると同時に、教室は騒がしくなる。
「オタク君、クリスマスって何か予定ある?」
「いえ、特にないですね」
騒がしい教室の中で、ひと際大きく、弾んだ声でオタク君に話しかける優愛。
そんな優愛とは対照的に、困ったように笑いながら返事をするオタク君。
クリスマスなど、リア充の為のイベント。どこをどう見たら、自分なんかにクリスマスに予定があるように見えるのか。そんな自嘲の笑みである。
ただ、そんな事を聞いてくるという事は、もしかして優愛は自分をクリスマスに誘っているのではと、淡い期待を抱くオタク君。
(いやいや、まさかね)
「優愛さんは何か予定ありますか?」
「ううん、私もないよ」
「そうなんですか」
「うん」
それからしばしの雑談の後、オタク君と優愛の会話が終わる。
やっぱり誘われるわけがないよねと、中途半端な期待がつぶれた分、逆に清々しい気分になるオタク君。
どう見ても優愛が誘い待ちをしているのだが、オタク君がそれに気づかないのは自己評価の低さだけではない。
どちらかというと、原因は優愛にある。
遊園地に行った事ある?
最近気になってる映画ない?
今年のハロウィンどうしようかな?
そんな風にオタク君に話題を振るが、上手く話を膨らませれず、毎回誘えず仕舞いの優愛。
オタク君も、もしかして優愛は自分と一緒に行きたいのかなと思いつつも、一度も成立した事がないゆえに、優愛がただ思い付きで喋っているだけで、自分を誘う気は微塵もないと思ってしまっているのだ。
見事な悪循環である。
そして、何か起きる事もなく、帰って行くオタク君と優愛。
そんな二人の様子の一部始終を見ていた者たちがいる。
「優愛って最近ヘタレてない?」
「文化祭終わった辺りからヘタレてるよね」
ほとんどのクラスメイトがいなくなった教室で、オタク君と優愛がいなくなった席を見る村田姉妹。
確かに優愛は前々から恋愛クソザコナメクジだったが、それでも時折まっしぐらな行動を取っていた。暴走していたともいうが。
それが今はどうだ?
オタク君への接し方は変わらないものの、最後の一押しが全く出来ない状況になっている。
何故か?
文化祭でオタク君とキスして以来、どうしてもその事が頭に浮かんでしまうからである。
どこかに誘いたい、でも二人きりとなると、まるでオタク君が無知なのに付け込みまたキスしたいとかの下心があるみたいで、不自然に誘ったら変に思われるかもしれない。
そんな事ばかり頭に浮かび、優愛はオタク君を上手く誘えなくなっていたのだ。
対してオタク君はというと、友達同士のキスだからと気にしていない様子である。既にリコや委員長ともしているので。鈍感ここに極まりである。
とはいえ、そんな事は当然誰も知らない。
なんとなく、オタク君と優愛の間に壁が出来ているなと感じる程度で。
「オタク君と優愛が喧嘩したってわけじゃなさそうだよね」
「いつも通りのウザ絡みしてるしね」
二人の恋を応援したい村田姉妹。
今の状況では、オタク君と優愛は一生発展する事がない。
「しゃあない。誘えないなら、無理やり誘ってやるか。詩音ちょっと手伝ってくれる?」
「良いけど、無理やりってどうやって?」
「エンジン君と一緒に、小田倉君と優愛を誘ってクリスマスにWデートってどうよ?」
「えぇ、クリスマスにデートって、ウチにはまだ早いっていうか、今から誘うともしかしたら予定があるかもしれないし、ほら、コミフェがどうとか言ってたから」
指先をちょんちょんと合わせながら、顔を真っ赤にしながら言い訳を並べ始める詩音。
正式に付き合ったのに、クリスマスにデートの予定を入れていない妹。それを歌音は珍獣を見るような目で見つめる。
優愛ほどではないにしろ、妹も恋愛クソザコナメクジだったことを思い出し軽くため息を吐く花音。
(仕方がない。ウチがまとめて面倒を見てやるか)
そう決心する花音。
上から目線のような花音、だが、彼女もまた恋愛クソザコナメクジである。恋愛経験0なので。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます