第160話「どっち!?」
冬コミフェの当選でテンションが上がるチョバムとエンジン。
コミフェ会場近くの宿は既に抑えてあり、中間考査のテスト内容もそれなりに上々。
これで何一つ憂う事なくコミフェに参加が出来るのだから、テンションが上がるのは当然だろう。
そう、このままなら何一つ憂う事はない。このままなら……。
「そういえば、第2文芸部の同人誌ってどんなの描いてるんすか?」
話題はコミフェから、第2文芸部で同人誌を作った時の話に変わり、チョバムやエンジンだけでなく、オタク君、優愛、リコ、委員長も輪になって苦労話や楽しかった話を始める。
そんな話をしていれば、どんな同人誌を作ったのかめちゃ美が興味を持つのは当然である。
「オタクに優しいギャル物でござるよ」
「えっ、ギャル物っすか! 読みたいっす!!!」
ギャルという単語に食いつくめちゃ美。
そんなめちゃ美の反応に気を良くしたチョバムが、部室の隅にある物置箱から同人誌を二冊取り出す。
もし読みたいと言われたらすぐに出せるように置いておいたものである。
「へぇ、金髪ギャルっすか。自分の好みっすよ」
そういってパラパラ同人誌を捲るめちゃ美。
ページが進むたびに、笑顔が固まっていく。
(このヒロイン、どう見ても優愛先輩じゃないっすか?)
セリフの監修を優愛が担当したのだから、優愛っぽくなっただけだろう。最初はそう思っていた。
だが、同人誌を読み進めれば、それがセリフを監修したからたまたま似ただけでは済まないレベルで似通っていた。
(というか、内容がどう見ても相方と優愛先輩の事じゃないっすか)
それを口に出すか悩みつつも、好みのシチェーションなので黙って読み続けるめちゃ美。
(二人目のヒロイン、ツンケンしてる癖にデレが隠せてないってリコ先輩じゃないっすか……)
読み終わり、静かに息を吐くめちゃ美。
思った以上にニヤつきそうになる甘い展開や、好みのギャルが可愛かったりと内容自体は満足だった。
普段なら無言で財布を取りだすオタクムーブを取るはずなのだが、満足度に対し、冷静であった。
(相方は普段からこんな羨ましいシチェーションを体験してるんすね。はぁああああああああああああ、クソでか溜め息しかでねぇっす)
相方であるオタク君に対して、めちゃ美は最高の友人だと思っている。
オタク会話で盛り上がり、一緒にゲームをして盛り上がり、何か困った事があれば助けてくれる。
実際に今自分が充実した学生生活を送れているのも、オタク君のおかげだと理解している。
しかし、それはそれである。
ラブコメ主人公よろしくな、裏山けしからん展開を体験して良い思いをしていると思うと、オタク君に対し心の底からどす黒い感情が生まれてくるのは仕方がない事だろう。
実際に、めちゃ美が読み終わった同人誌を優愛が手に取り「うわっ、これ懐かしい」と言いながら、オタク君に引っ付いて一緒に読んでいるのだ。
どれどれといった感じで、リコや委員長も同人誌を見えやすい位置に移動する振りをしてオタク君に近づいてくるくらいである。
そんなめちゃ美の心象に、オタク君たちは気づかない。
「こっちが新刊でござる」
地雷系の女の子が表紙の新刊。もはや中身を見るまでもなく、誰が出てくるのか予想がつく。
オタク君のリア充っぷりを見せつけてくる内容と分かっていても、同人誌を開いて読んでしまうめちゃ美。
出てくるギャルと内容がめちゃ美の好みに一致しているので。
(やっぱり委員長じゃないっすか)
またしても心の中でクソでか溜め息が出そうなめちゃ美。
だが、数ページを捲った彼女は、その考えを改めていた。
(うわっ、こっわ……相方がんばれーっす)
ギャルたちとのイチャイチャ展開かと思いきや、まさかのホラー展開である。
多少のヤンデレ要素は想定していたが、想定を超える内容に、めちゃ美の額に冷や汗が浮かぶ。
先ほどまでにオタク君に感じていた嫉妬は、めちゃ美の中からすでに消えさっていた。
「見たわね?」
(訳:これね、私も手伝ったんだよ! どうだった!?)
「ぎゃー!!!!」
読み終わり、同人誌を閉じた瞬間に委員長に声をかけられ、めちゃ美が思わず悲鳴を上げる。
今のめちゃ美は、ホラー映画を見終わった瞬間に、ホラー役の人が隣に立っていた。例えるならそんな感じだろう。
めちゃ美の悲鳴に、委員長も思わずビクっと反応する。
「あの……」
「読むのに夢中になってて思わず声出ちゃったっす、すみませんっす」
別に委員長に悪気があったわけではない。
自分が手伝った作品なのだから、感想が聞きたい。
はやる気持ちを抑えきれず、ちょっと口下手になっちゃっただけである。
(やばっ、ちょっと漏れたっす)
漏れたのはきっと、悲鳴の事だろう。きっと。
「いやぁ、唐突のホラーになるのは面白かったっすね。色々展開が変わるならマンネリなく読めそうっす」
先ほど声をかけ驚かせてしまい、少々気まずい委員長。
そんな委員長に対し、めちゃ美が感想をいうと、委員長がほっとした表情で浮かべる。
「ところで、めちゃ美ちゃんはどの女の子が可愛いと思う? 私はやっぱり新刊の女の子だと思うんだけど」
そういって委員長は同人誌を開いてめちゃ美に見せるが、そこはホラーシーンである。
「えー。こっちのギャルのが可愛くない?」
「そうか? 距離感おかしいから、アタシはこっちのツンツンしてる女の子のが良いと思うけど」
優愛が委員長と同じように同人誌を開く。
優愛に対し、リコが金髪ギャルとは別のヒロインを指さす。
優愛、リコ、委員長がそれぞれ別のヒロインを選び、この子が一番可愛いよねと言い合う。
その様子を見て、気まずそうに目を逸らすチョバムとエンジン。彼らは今、登場人物のモデルが誰かという事は、墓まで持っていく覚悟を決めたのだろう。
自分たちがモデルと気づかず、どのヒロインが一番良いかと言い合う優愛たち。
「ねぇ、オタク君はどの子が良い?」
オタク君に飛び火をするのは、当然である。
(この子、何か私に似てる気がする)
(小田倉なら、こういう子を好きって言ってくれそうな気がする)
(小田倉君は地雷系が好きって言ってたから、この子を選ぶよね!)
なぜなら、そのヒロインが自分にちょっと似てると優愛たちも気づいているので。
「どっち!?」
(このヒロインたち、優愛さんたちに似てるから選んだら何か言われそうだな)
三者三様に迫られ、苦笑いを浮かべ返答に困るオタク君。
そんなオタク君たちの様子を、チョバム、エンジン、めちゃ美は仏のような顔で頷きながら眺めていた。
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