第153話(委員長ルート)「それにほら、僕が副委員長になった理由は、委員長を手伝うためですし」
「オタク君、そろそろ休憩時間じゃない?」
「えっ、もうそんな時間ですか?」
冷凍おでんが飛ぶように売れるのが楽し過ぎて、時間が経つのも忘れていたオタク君。
優愛の言葉でふと我に返り、時計を見ると既に昼を周っていた。
「リコも誘ってお昼にしない?」
「そうですね」
優愛の提案を受けようとして、ふとある事に気づくオタク君。
クラスメイトの数が少ないのだ。
優愛のグループメッセージで来たクラスメイト達だが、客足が遠のくにつれ、一人また一人と文化祭を楽しむために教室から出て行った。
その際に、本来は店番の時間の者までついて行ってしまったのだ。
忙しいわけではないが、クラスメイトが減ったせいで、ほとんどの屋台がワンオペ状態になっている。
こんな中で自分まで抜けてしまっては、もはや手が回らなくなってしまうだろう。
「僕はもうちょっと残るので、優愛さんとリコさんだけ先に休憩行ってきてください」
「えー、それなら私も残るよ」
「アタシも手伝うよ」
オタク君を一人置いて行くという選択肢は彼女たちにはなかった。
なので、一緒に残ると言い張る優愛とリコだが。
『ぐ~』
お腹は正直である。
盛大に腹を鳴らす優愛に、苦笑い気味のオタク君。
「優愛……」
半眼になりならが、優愛に何かを言おうとするリコ。
『ぐ~』
残念ながら、彼女のお腹も正直者であった。
別にお腹空いていないしと必死に身振り手振りを加えながら言う優愛だが、お腹の音は止む事がない。
確かに残ればオタク君へのアピールポイントが増えるだろう。
しかし、クラスメイトが見守る中、好きな人の前でお腹を鳴らし続けるというのは乙女の沽券に関わる。
「他の奴らが来たらすぐ交代して合流しますから」
「うぅ……ごめんね」
一緒にいればいるほど、恥の上塗りになるだけだと観念した優愛とリコ。
オタク君の言葉に甘えることにして、教室を後にした。
「小田倉君も一緒に行かなくて良かったの?」
「はい。それにほら、僕が副委員長になった理由は、委員長を手伝うためですし」
先ほどまで離れた屋台にいたはずの委員長が、急に隣に生えてきたが、驚く事なく返事を返すオタク君。
なんとなく、優愛たちがいなくなったら話しかけてくるんじゃないかなと思っていたので。
「えっ、うん……ありがと」
オタク君、もうちょっとタイミングと言葉を選ぶべきである。
好きな人からそんな言葉を言われ、ときめかない女子がいるだろうか?
否!
顔を赤らめ、明らかに動揺し、目線が泳ぎ回る委員長。
「それじゃあ、お言葉に甘えて小田倉君に手伝ってもらおうかな」
なんちゃってー、えへへと、普段は言わないような言葉遣いで誤魔化す委員長。
「はい!」
そんな委員長の言葉を真に受け、笑顔でハキハキと答えるオタク君。
鈍感と気遣い、そして真面目の合わせ技である。
そんな二人の空気を邪魔しないように、あえて二人から目線を逸らすクラスメイト達。
(あれ、小田倉って鳴海さんと付き合ってるんじゃなかったっけ?)
まるで委員長と付き合ってる雰囲気を出すオタク君。
オタク君と委員長が休憩に行くまで、居合わせたクラスメイト達は少しの疑問と居心地の悪さを感じていた。
「悪い悪い、自分たちが当番だった事完全に忘れてたわ」
すまんねと言いながら、オタク君と委員長に頭を下げるクラスメイト。
交代のクラスメイトが来たのは、予定よりも一時間近く遅れての事である。
「いい加減お腹空きましたし、ご飯食べに行きましょうか」
「うん」
スマホで優愛とリコも食事に誘ってみるオタク君。当然優愛もリコも昼食はとっくに済ませてしまっている。
『めちゃ美ちゃんのクラスの出し物をリコと見に行ってるから、後で合流するね』
「優愛さんとリコさんはめちゃ美と遊んでるみたいです」
「そうなんだ」
「委員長、何か食べたいものってありますか?」
「食べたいもの……」
特にこれと言って食べたい物があるわけではない委員長だが、一つだけ気になっていたものがあった。
いや、気になっていたものではなく、気になっていた事か。
気になっていた事、それはかつてバレンタインでしていた「あーん」である。
あの時は、リコに対抗する形でやっていた。
その後もオタク君に「あーん」をするタイミングを探していた委員長だが、やれそうなときに限って優愛やリコの邪魔が入り出来ずじまいであった。
まぁ、優愛もリコもオタク君が好きなので邪魔に入るのは当たり前なのだが。
「いろいろ食べてみたいけど、少食だからなぁ」
「じゃあ、持ち帰りできる物を色々買って、シェアしませんか?」
「良いの?」
「はい」
委員長、珍しく見事な誘導である。
両手いっぱいに食べ物や飲み物を抱えたオタク君と委員長。
委員長の「部室で一緒に食べよう」という提案を受け、「良いですよ」と二つ返事で答えるオタク君。
この後、委員長はオタク君に上手く「あーん」を出来たに違いない。
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