第154話(リコルート)「ミキミキぃ、なぁに言ったの~?」
「不謹慎な名前の割に、美味いなこれ」
「そうですね。美味しいけど名前はホントあれですよね」
オタク君と一緒に、おはぎを食べながら校舎へと向かうリコ。
ちなみにおはぎは冥土喫茶で料理を頼むとおまけで貰える『冥途の土産』である。
そして、大抵の客の目当てはこの冥土の土産だったりする。正確にはちょっと違うが。
『田舎に帰った時に爺ちゃん婆ちゃんが料理を振る舞って、お土産に甘い物を持たせてくれる』
そんな疑似体験が出来るという意味で、来ている人が多いのだ。
ちょっと馴れ馴れしい態度だったり、不慣れな接客が余計にノスタルジックに感じさせるのだろう。知らんけど。
校舎の中に戻る頃、既におはぎを食べ終えたオタク君とリコ。
さて、次はどこに行こうかという段階で、リコが少しモジモジとし始める。
「あのさ、前のクラスメイトがさ『展示見に来てくれ』って煩いから見に行くつもりなんだけどさ」
鈍感であるが、気の利く性格のオタク君。
リコの態度で何を言いたいか何となく察する。
「そうなんですか。良かったら僕も行って良いですか?」
「お、おう。そのつもりだったから、そう言ってくれると助かる」
少しだけ語気が弱くなるリコ。
断られたらどうしようとか、そもそも着いてからオタク君が嫌がるかもと不安だからである。
「それじゃあ行くか」
そう言ってオタク君の隣を歩くリコが俯くのは、不安だけが理由ではないが。
「ここ……なんだけどさ……」
辿り着いた先は、リコの友人の教室。
教室のドアの周りには花のアーチと共に『占いの館』と書かれた看板が立てかけられていた。
占い。いつの時代でも女性というのは占いに夢中になる物である。
その日の運勢の良し悪しで一喜一憂し、思春期を迎える頃には好きな異性との相性占いで時に涙する。
多分どこの学校の文化祭にも、似たような出し物はあるだろう。
とはいえ、たかが占いである。そんなところへ連れて行くだけだというのに、何故リコは不安がるのか?
男女二人で占いに行くと言えば、恋愛物の相性占いが鉄板だからである。
男と女が二人きりで占いに行って「じゃあ手相占いをしましょう。うふふ」で終わるはずがない。いや、オタク君なら本当にそれで終わらせてしまいそうだが。
異性相手に一緒に占いしに行こうなど、もう半ば告白してしまっているようなものである。
もし断られるとしたら、それは脈無しという事になる。
なので、今回オタク君を誘ったのは、リコにとって一世一代とも言える覚悟だったりする。
本当はオタク君を誘わず、一人で来るつもりだったのだが、冥土喫茶のおばちゃんの言葉で「他人から見たら、自分もオタク君と恋人同士に見えるんじゃないか」という希望を持ちはじめ、勇気を出してみたのだ。
「占いですか。良いですね。入りましょう」
「えっ」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
オタク君、臆することなく占いの館へ入って行く。
多少の動揺もないオタク君の反応に、逆にリコが動揺しっぱなしである。
(いくらなんでも気にしなさすぎじゃないか? もしかして、小田倉から見たら、アタシは
教室に入ると、暗幕で作られた簡易テントがいくつか置かれている。
そのテント入り口には、どんな占い方をするのかが書かれたおり、入り口が閉じられたテントの前には『現在他の方が占い中』と書かれたプラカードを持った生徒が立っている。
「へぇ、色んな占いがあるんですね」
まるでテーマパークに来たみたいに、テンションの上がるオタク君。
何故オタク君が、女の子と二人きりの占いで全くドキドキしないのか?
妹の希真理が原因である。
お兄ちゃん大好きっ子の希真理、事あるごとにお兄ちゃんと占いをしたり、一緒に出かけたついでに占いをしようと行って占いゲームなどをやったりしていた。
なので、オタク君の中では、女の子は誰とでも占いをしたがるものなのだとインプットされてしまっているのだ。希真理GJである。本人が知ったらさぞかし悔しがるだろうが。
「おっ」
そんなオタク君とリコに、少女が声をかけた。
声をかけたのは、リコの旧クラスメイトである。
「おーいリコリコ。こっちこっち」
「一々大声で呼ばなくても聞こえるって」
「ふーん。小田倉君と来たんだぁ」
オタク君とリコを見てはニヤニヤと笑うリコの友人。
「なんだよ」
「べつにぃ。あっ、ミキミキはこっちにいるから、さぁさぁどうぞどうぞ。あぁ、勿論小田倉君も一緒にね」
なおもニヤニヤと笑う友人に、リコが睨みつけるが、可愛らしい見た目だけならともかく、顔まで赤くしてしまっては逆効果だろう。
促されるままに、テントの中へ入るオタク君とリコ。
テントの中は少し薄暗く、中には学生机が二つ対面上に置かれており、明かりはランプのような容器に入った電球が一つ、机の上に置いてあるだけだ。
そんなテントの中で対面側の机に座る少女。リコの友人がミキミキと呼んだ少女である。
彼女もリコの友人なのだが、赤いローブの用の物を羽織っており、口元を隠し、普段とは違いまるで本物の占い師のような雰囲気が漂っている。
「リコも小田倉君もいらっしゃーい」
が、口を開いた瞬間に、そんな雰囲気が消し飛ぶようなギャル特有の軽さが滲み出る。
「来いって言うから来たぞ」
「おぉ、おぉ、来てくれたか。ほらほら、早速占うから席に座って」
軽い口調で机から取り出したのは、トランプよりもやや長めのカード。いわゆるタロットカード、そのデッキである。
ちょっと早口で軽い口調と同じくらい、シャッシャと心地よい音を立てながら、素早くシャッフルされていくタロットカード。
「それじゃあ、適当に気になる事とかあったら言ってみてよ。その都度占うからさ」
「まずは小田倉からいけよ」
「そ、そうですか。じゃあ……」
占いとは、時には星を見て、時にはカードを見て、そして、時には人を見て占うものである。
確立された儀式による占い方もあれば、話術といった占い方もある。
「リコリコぉ、占い結果はどうだった?」
「べ、別に。ほら、小田倉行くぞ」
「あっ、はい。ありがとうございました」
「コイツラに礼なんか言わなくて良いから、ほら早く」
顔を真っ赤にして、オタク君を引っ張るようにして教室を出ていくリコ。
同じく顔を真っ赤にしながらも、律儀に頭を下げて教室を出ていくオタク君。
「ミキミキぃ、なぁに言ったの~?」
「もうすぐ休憩だから、その時に話さない?」
高速でタロットカードをシャッフルしながら、一番上のカードを捲るミキミキ。
そのカードの絵柄を一緒にいる友人に見せながらにっしっしと笑みを浮かべる。
「ウチらの姫様も、いい加減進展してくれないと小田倉君が他に取られそうだしね」
「あんたホントそれ得意だね」
タロットカードの絵柄は『女帝』リコの事を姫様と例えたのとかけているのだろう。
自分は絵柄を見もしないで『女帝』のネタを出したという事は、彼女は多分、狙ったカードを手品のように出す事が出来るのだろう。
狙ったカードを出し、自分の話術のペースに持って行き、二人が顔を真っ赤にするような話題へ誘導し、これまた狙ったカードを出して好き勝手に言ったのだろう。
なんとも悪い、いや、良い友人である。
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