第148話「ってか、めちゃ美って結構良い体してるんだな」

 オタク君にキレつつも、なんだかんだで「相方、相方」と言いながら、オタク君の衛星のようにまとわりつくめちゃ美。

 傍から見ればオタク君LOVE勢に見えなくもないが、実際はそうではない。


「めちゃ美。僕ばかりに構ってないで、優愛さん達と楽しんできたら?」


「いや、フヒッ、だってそれは、ヘヘッ」


 めちゃ美はまだテンションが上がりきっていないため、陰キャモードなのである。

 ほっとくと、オタク君の隣でずっと愛想笑いを浮かべるだけになってしまう。

 流石にそれは可哀そうなので、めちゃ美の相手をするオタク君。

 その結果、優愛たちの相手があまり出来なくなっていた。


 コスプレ祭り自体楽しみだったので、優愛たちはめちゃ美がオタク君にべったりな事に不満はない。

 とはいえ、やはりオタク君とも楽しみたいのも事実。


(オタク君ともっと話したいけど、めちゃ美ちゃんから取ったら可哀そうだよね)

(せっかく来たんだから、小田倉と話せばもっと盛り上がれそうなのにな)

(どうすれば小田倉君と話せるかな)


(((……そうだ!!!)))


 オタク君と仲良く話したい彼女たちが取った作戦。それは。


「ねぇねぇ、色んなコスプレしてる子がいるけど、めちゃ美ちゃんはどんな子がタイプ?」


「へっ、いや、自分はギャルならなんでも。あぁでも優愛先輩がタイプっすよ! うなぎもギャルも天然物に限るっすからね!!」


「ふーん。それじゃあ優愛とツーショットでも撮るか? せっかくカメラ持ってきたから色々撮りたいし」


「そそそそ、そんな恐れ多いっすよ! 自分ごときが優愛先輩しぇんぱいとツーショットなんて! どうせなら優愛先輩とリコ先輩のツーショットの間に挟まれて天寿を全うしたいっす、デュフ、デュフフフ」


「……私は?」

(訳:それなら皆で一緒に撮ろうよ!)


「委員長先輩も良いんすか!? そう言えば今日の格好似合ってますね。戦コレの「カルロ・アルマート」っすね。自分も好きっすよ!」


 そう「将を射んとせば先ず馬を射よ」である。

 無理やりめちゃ美を引きはがしたりすることは出来ない。

 かといって、めちゃ美抜きで会話も宜しくない。

 なので、まずはめちゃ美を落とす作戦に出たのだ。


「相方ァ! カメラお願いするっす! ちゃんとチェキ代支払うっすから!!」


「別に写真くらい撮ってやるから。とりあえず財布をしまえ」


 商店街はコスプレイヤーだらけでなので、少しだけ離れた所まで行き、空いてる場所で撮影を始めるオタク君たち。

 めちゃ美を中心に、優愛たちがくっつくように、というかくっついてポーズを決める。

 めちゃ美の汗が噴き出しているのは、猛暑だけが理由ではないだろう。

 時折「フヒフヒ」と怪しく笑うめちゃ美を、優愛が「ウケる」と言いながら背中を叩いたりしている。


「ってか、めちゃ美って結構良い体してるんだな」


「リコ先輩、そんな自分の駄肉なんて触っても楽しくないっすよ」


「駄肉って、ちゃんと鍛えてて良いじゃん。駄肉ってのは優愛みたいなのを言うんじゃないか?」


「おっ? リコ喧嘩か? ってか人の腹の肉摘まむのはマジやめろ?」


 リコに文句を言いながらも、めちゃ美のお腹辺りを触り始める優愛。

 めちゃ美のお腹を触り、ほんの数秒の沈黙の後に、優愛は比べるように自分のお腹を触り、無言になった。

 別に優愛が太っているわけではない。だが、めちゃ美の引き締まったウエストと比べればぷにぷにしてしまうのだ。


「優愛先輩のは良いぷにぷにっすよ! 自分は駄肉がはみ出さないように、相方から筋トレのやり方聞いて筋トレしただけっすから!」


「ぷにぷに……」


 フォローのつもりが追い打ちをかけてしまう、めちゃ美。

 だが、追い打ちをかけられてるのは何も優愛だけではない。


「駄肉……」


 委員長も、自分の胸を見てそう呟いていた。

 やはり大きい胸なんて、無駄な脂肪の塊なんだと言わんばかりに。

 

「落ち着いてください。優愛先輩も、委員長先輩もそれが良いんすよ! 自分には最高なんすよ!」


 狼狽えながら言い訳を並べるめちゃ美。

 そんなめちゃ美を、ジト目で見つめる優愛と委員長。

 

「本当に?」


「本当っすよ!」


「ふーん。これでもかっ!」


 ガバッとめちゃ美に抱き着く優愛。

 

「私も」


 優愛とは反対側から、抱き着く委員長。

 優愛のぷにぷにの肌の感覚と、委員長の大きな胸を体全体で感じるめちゃ美。

 めちゃ美ハーレムである。


(オタクに優しいギャル。最高っす!)


 だらしない顔のめちゃ美の額を、少しだけ腕を伸ばして汗を拭くリコ。

 そんな彼女たちの様子に、オタク君は無言でシャッターをきっていた。

 オタクは誰もが、ギャルたちが仲良くする空間の壁になって見守りたいと夢見るものである。

 今のオタク君はきっと、その夢に一番近い存在になっているのだろう。


 この後、テンションが上がっためちゃ美が優愛たちと普通におしゃべりをしたり、コスプレイヤーの写真を撮れるようになったのは言うまでもない。

 その後も、夏休みは優愛たちと出かけたり、宿題をやったり、文化祭の準備を済ませたりと、充実した夏休みを過ごしたオタク君。

 そんな楽しい夏休みも、あと少しで終わりである。

 十分楽しんだはずなのだが、自室で少し浮かない顔をするオタク君。


「どうするか」


 腕を組み、うんうん唸るオタク君。

 夏休み最後のイベントに、彼は頭を抱えていた。


「委員長の誕生日プレゼント、何が良いだろう」

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