閑話「オタク・プリズン(後編)」
「それではこれより、貴様らをオタク・プリズン送りにするでござる!」
チョバムの号令により、ここ第2文芸部はオタク・プリズンへとなった。
「良いでござるか。ここではオタクの言動をとった場合、問答無用で罰が待っているでござる。わかったでござるな!」
プラスチックのバットを担ぎ、多分看守の真似事なのだろう。
オタク君、エンジンを恫喝するように睨みながらゆっくりと歩いていく。
エンジンを睨み終えると、プラスチックのバットをその場に置き、エンジンの隣に並ぶチョバム。彼もここでは囚人なので。
オタク君
通り名、平胸盛
懲役20年
エンジン
通り名、脱法TS
懲役無期懲役
チョバム
通り名、眼鏡スレイヤー
懲役死刑
ちなみにチョバムの元の罪状はオタク君とエンジンの説得により「眼鏡キャラの眼鏡を全部外した」に変更されている。
「というわけで、今からオタク・プリズン開始でござる」
「まぁ、オタクっぽい事言わなければ良いだけだし、そこまで難しくないよね」
「そうですな」
「とりあえず、文化祭の準備しよっか」
「某、ゲームカフェで流すアニソンのセトリ考えてきたですぞ!」
「エンジンアウトでござる!!」
チョバムが声高らかに宣言をする。
「アニソンはオタク発言でござる!!」
チョバムの言葉に、エンジンも「あっ」と声を上げる。
曲のセトリと言えばセーフだっただろうに。
多分セトリの内容はアニソンばかりだったからだろう。
「くっ……分かったですぞ」
言い訳をしようにも「あっ」と言った時点で認めたようなものである。
プラスチックバットを持ったチョバムに、大人しく尻を出すエンジン。
パァンと心地の良い音が鳴り響く。
「くぅ……結構痛いですな……」
叩かれた尻をさするエンジン。
やられる側はたまったものではないだろうが、見ている側としては面白いもので、つい吹き出してしまうオタク君。
チョバムにいたっては爆笑している。
「エンジン殿、早速やらかしたでござるな。ざまぁ」
指差し笑っているチョバムを見て、エンジンがニチャァと笑みを浮かべる。
「チョバム氏アウトですぞ!!」
「な、何がでござるか!?」
「ざまぁはなろうで人気ジャンル。つまり今の発言はオタク発言ですぞ!」
「なっ……しまったでござる!」
流石にそれは厳しくないかと思うオタク君だが、チョバムはどうやらアウトを認めているようだ。
素直にプラスチックのバットをエンジンに手渡し、尻を出している。
先ほどの恨みと言わんばかりに、振りかぶるエンジン。
「ぐぉ……」
パァンと軽快な音が響き渡る。
苦痛の表情を浮かべるチョバムを見て、エンジンは満足げである。
そしてまた、オタク・プリズンが再開されるのだが。
「それで、エンジンのセトリってどんなの?」
「……」
「エンジン殿?」
「……ふっ」
オタク君とチョバムの問いかけに、まるで聞こえていないように無言で笑みを浮かべるエンジン。どうやら彼はもう気づいたようだ。
何も言わなければ、アウトにならない、と。
だが、そう上手くいくほど、このオタク・プリズンは甘くない。
こうなることくらい、チョバムは事前に気づいていた。
「エンジン殿アウトでござる!」
「某、何も喋っていないですぞ!」
エンジン、当然の反論である。
「拙者は最初に言ったでござるよ。オタクの『言動』と」
そう、オタクの発言ではなく、言動である。
つまりオタクっぽい動きでもNGなのだ。
「何も喋らないという事は、アニメや漫画に出てくる無口キャラの真似でござる。これは紛れもなくオタク行動でござる!」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬ!」
言い返そうにも、言葉が見つからないエンジン。
それは無理があると思いつつも、先ほど自分が「ざまぁ」と言ったのでアウトと割と無理を通した手前、言い出せないでいた。
結果、素直に尻を出すことにしたようだ。
「次は小田倉殿が叩くでござるよ」
「僕が?」
「順番ですぞ」
「それじゃあ」
先ほどよりも一際高い音が第2文芸部の部室に鳴り響く。
音に比例し、威力も上がっているのだろう。エンジンがチョバムの時とは違い、痛みに耐えかね体を反らす。
「チョバム氏と違い、小田倉氏のケツバットは効くですぞ!」
「流石小田倉殿でござるな!」
「まぁね、鍛え方が違うからね!」
褒められ満更でもないオタク君が、腕を曲げ力こぶを見せる。
だがそれは、チョバムとエンジンによる罠である。
「はい、小田倉氏アウトぉぉぉぉぉ!!」
「マッスルポーズは筋肉アニメのポーズの真似でござる!」
「は、謀ったな!」
「小田倉殿追加でアウト!」
「有名なロボットアニメのセリフですな!」
「くっ!!」
咄嗟に言い返そうとすると、ついオタク語録が出てしまう。
これ以上口を出すのは得策ではないと、オタク君は口を噤むしかなかった。
「いった、これ思った以上に痛くない?」
「はっはっは。そうですな、次は某が叩く番ですな」
チョバムとエンジンに叩かれ、ヒリヒリする尻をさするオタク君。
そんなオタク君を見て笑うチョバムとエンジンに、負けじと「オタクの言動だ!」と言いがかりをつけ始めるオタク君。
オタク・プリズンから軽快な音が止むことがなく響き続ける。
「やれやれと言ったな。それはやれやれ系主人公の真似ですぞ!」
「下克上と言ったでござるな。それは有名な空耳シリーズの言葉でござる!」
「そもそも『ござる』も『ですぞ』もアウトだ。けつ出せ! よし次!」
もはやなんでもオタクに結びつけるこじつけである。
言いがかりをつけられたが最後、どう弁明しようとも、二対一なので最終的に多数決によりオタク判定をされてしまう。
完全に暴走している。
いいかげん辞めれば良いのだが、オタク君たちは止まらない。
何故か?
かつて、アメリカのカルフォニア州にある大学で、一つの実験が行われた。
男女ランダムに二十一人を選出し、十一人を看守役に、残り十人を囚人役として役割を与えた、有名なスタンフォード監獄実験である。
結果は、看守役は看守らしい行動を取るようになり、囚人は囚人らしい行動を取るようになったのだ。
しかし、次第に看守役が囚人への罰則が酷くなり、この実験は囚人役の要請により中止となった。
だが、オタク君たちは囚人役であると同時に、看守役も兼任してしまっている。
そのため、罰を与えられる際は囚人側になるが、それ以外は見張りをする看守側になっている。そのために中止という発想には至らなかったのだ。
オタク・プリズンからは、絶え間なく軽快な音が鳴り響く。
その音が鳴り止むのは、下校のチャイムがなった時であった。
下校のチャイムが、本日のオタク・プリズンの刑務作業終了を知らせるチャイムである。
「ねぇ、明日はもう辞めにしない?」
「そうでござるな」
「そもそも、なんでこんなアホなことをやってたですぞ……」
刑務作業完了とともに、冷静になる一同。
こうして、世界一くだらないスタンフォード監獄実験は幕を下ろした。
ヒリヒリと痛む尻を抑え、オタク君たちは自分たちのバカな行いを後悔するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます