第130話「じゃあ大丈夫でござるな」

「とりあえず、レイアウト決めようか」


 最近は実行委員会で忙しかったオタク君。

 久しぶりの部活動である。

 この日はオタク君の他に、優愛、リコ、チョバム、エンジンにめちゃ美が第2文芸部に集まっていた。

 集まってする事は勿論、文化祭に向けての準備である。


 第2文芸部の出し物はゲームバー。いや、酒類の提供はないのでゲームカフェである。

 その為に、今日は皆で部室のレイアウトを変えようという話になった。


「机とか動かす前に、パソコンとか退かした方が良いんじゃない?」


「優愛先輩、手伝うっす」


 優愛はともかく、めちゃ美はパソコンの電源を落とさずにコンセントを抜く事のヤバさは知っている。

 だが、優愛に合わせ、あえてコンセントを抜く素振りを見せる。

 なぜそんな事をしようとするのか? 


「優愛もめちゃ美も、パソコンの電源をちゃんと切ってからやれ!」


「リコ先輩が怒ったっす!」


「よし、めちゃ美ちゃん。タッグでリコを分からそう!」


「分からないとダメなのはお前らだよ」


 優愛とリコを弄りたいからである。

 波長が合うのか、優愛とめちゃ美は取り決めもないのにコントのようなやりとりをしている。

 そして、二人に律儀に突っ込んでは弄られるリコ。不憫である。


 そんな不憫な少女を見て、オタク君は苦笑を浮かべる。

 不憫ではあるが、リコ自身もこの関係性を楽しんでいる節があるのを、オタク君もなんとなく気づいている。

 なのでオタク君は、苦笑を浮かべ見るだけにとどめている。下手に関わると自分もまきこまれるので。

 

「小田倉殿、このダンボールはなんでござるか?」


「中身は生地ですな?」


 優愛たちを見る事に気を取られていたオタク君。

 チョバム達に話しかけられ、ごめんごめんと軽く謝りながらダンボールを見る。


「あぁ、これはほら、調理部とかがメイド服作るって話あっただろ。置く場所がないから一旦預かったんだよ」


「そうでござるか」


「でも、ここにあると邪魔になる」


「これは掃除用具入れに丁度入りそうな大きさですな」


 どっこいしょという掛け声とともに、段ボール箱を持ち上げるエンジン。

 拙者も手伝うでござるとチョバムも段ボール箱を持ち上げ、掃除用具入れまで持ち込む。

 そして掃除用具入れのドアを開けると、そっと閉じた。


「掃除用具入れの中には入りそうにないですな」


「そうなんだ。じゃあ掃除用具入れの前に置いといて」


「掃除用具入れの前に置くと出れ、じゃなくて邪魔になるから適当な隅っこに置いとくでござるよ」


 生地の入った段ボール箱を、部屋の隅に置くチョバムとエンジン。

 動きがぎこちないのは、きっと気のせいだろう。


 全員が手分けをして部室の模様替えをすると、あっという間に終わってしまった。他と比べると狭い部屋なので。

 第2文芸部には、長机とモニタが置かれた場所が二ヶ所と、何もない壁際にモニターが置かれた計三ヶ所の空間が出来ていた。 

 長机が置かれた場所は、そこでボードゲームやゲームをやる場所というのは分かる。

 だが何もない壁際は、モニターが床に直置きである。


「なんでここだけモニター直置きなんだ?」


 当然の疑問をオタク君が問いかける。

 オタク君の問いかけに、チョバムとエンジンが首を横に振る。これは自分たちの案じゃないと。


「こうやって床に座って、直置きのモニタを見ながら、ゲームをしたら、小学校時代に友達の家で遊んだこと思い出さないっすか?」


 めちゃ美はその場に座り、あぐらをかいて、モニターに向かいゲームをやる仕草を見せる。

 それに対し、男性陣は「あー」と納得したような感じである。

 逆に女性陣は頭に「?」が浮かんでいる。実感が湧かないのだろう。


「う~ん……」


 確かにめちゃ美の案は、男の子的には大分ありである。

 だが優愛やリコの反応を見る限り、微妙そうでもある。


「とりあえず保留にして、委員長が来たら、意見聞いてみようか」


「私は良いと思う」


 にょきっと生えてきた委員長。


「うぇ、わぁあああ!?」


 当然、驚きの声を上げるオタク君。

 オタク君ほどオーバーではないが、優愛やリコ、めちゃ美も小さな悲鳴を上げていた。


「委員長、いつからいたの!?」


「ふふっ、秘密」


(ドッキリ作戦大成功♪)


 オタク君たちの反応に、満足気な委員長。

 こんな狭い部室で、ドアも空けずに一体委員長はどこから出てきたのだろうか。

 

「地べただと汚れちゃうから、何か敷物とかどうかな?」


「敷物、段ボールとかかな?」


「段ボールはどのクラスも使ってて余ってないと思うから、ブルーシート借りてくるね」


 ドッキリ作戦が成功したのが嬉しいのか、委員長は足取りを軽くし、部室を出ていった。

 そして数分後、小さめのブルーシートを片手に戻ってきた委員長が見たものは。


「うおおおお、拙者が単独一位でござる!」


「やらせないっすよ! 相方!」


「うん。手りゅう弾投げ込んでおいたよ!」


「ヘッヘッヘ、三人が争っている内に最強の銃を取りに行くですぞ、ってトラップ仕掛けられてたですぞ!」


「やれやれー、オタク君全員ぶっとばせー」


 大きな小学生たちである。

 いや、大きな小学生にしか見えないオタク君たちである。

 地べたに座り込んだオタク君たちは、一昔前の古さを感じるグラフィックのゲームで白熱した対戦を繰り広げていた。


 今オタク君たちがやっているのは、ゲームカフェの為にめちゃ美が持ち込んだレトロゲーム。

 そのレトロゲームの、四人対戦が出来る銃撃戦ゲームである。

 本来は店側がゲームソフトの提供はNGなのだが、学生の文化祭で使う程度、派手にSNSで宣伝をしたりしなければお目こぼしされるだろう。


「ちょっとだけ試さないっすか?」


 めちゃ美のこの一言で、仕方がないなぁと言いながらウキウキのオタク君たちがゲームを始め、いつしか全員が白熱していたのだ。

 普段はやれやれ系のリコですら「次はアタシやってみたい」と言い始める始末だ。


「ブルーシート、持ってきたけど」

 

 全員がゲームに白熱していて、ちょっと困惑気味な委員長。


「あっ、それじゃあブルーシート敷いてから再開しましょうか」


 ブルーシートを受け取り、適当に敷き始めるオタク君。

 困惑気味に立ち止まってる委員長に、普段はビビって上手く話せないチョバム達が話しかける。


「それじゃあ拙者は委員長と交代するでござる。委員長このゲームはやった事あるでござるか?」


「えっと、このゲーム機なら昔お父さんとやったかな」


「じゃあ大丈夫でござるな」


 チョバムが委員長にコントローラーを手渡し、エンジンがどうぞどうぞと委員長が座る席を用意する。

 委員長がコントローラーを受け取ったのを見るなり、さっさとゲーム開始ボタンを押すめちゃ美。早くやりたくて仕方がない様子である。

 

「うおっ、いきなりヘッドショットとか委員長えげつないですな」


「アタシだって負けてないよ。って優愛邪魔すんな!」


「うわーん、めちゃ美ちゃん、リコが怒った。もう順位関係なしにずっとリコ狙って泣かそうぜ」


「分かったっす!」


 第2文芸部の部室からは、七人の大きなお友達の騒ぎ声が響き渡る。

 途中で優愛やめちゃ美がお菓子を取り出し、エンジンとチョバムがジュースを買ってきて、もはやただのドンチャン騒ぎである。

 当然、文化祭の準備が進まなかったのは言うまでもない。

 甘酸っぱい青春ときめき一ページメモリアルである。

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