閑話「ワンチャンスガール(前編)」

「本当にここであってるんすか?」


「……多分」


 地下鉄の出口から地上に出てきたオタク君とめちゃ美。

 彼らが向かった先は徒歩数分の場所にある、地下への入り口だった。


 薄暗い地下への入り口に、ちょっとビビり気味のめちゃ美。

 気にせず前を歩くオタク君。

 オタク君の裾をガッチリ掴みながら、めちゃ美がオタク君の後につづく。


 地下へ降りると、そこには一本の狭い通路。

 通路の途中に、おしゃれな扉がある。

 オタク君がスマホの画面を見ながら扉を見て頷く。どうやらここが目的地のようだ。


「ほら、入るぞ」


「マジで入るんすか!?」


 薄暗い地下特有の異質な空気にめちゃ美、ビビりまくりである。

 そんなビビるめちゃ美を無視して、オタク君は扉に手をかける。

 扉が開かれると、中にはワンルームマンションくらいの広さの空間が。

 小さなバーのようなカウンターに、他のカウンター席にはモニターが数個。

 客同士で対戦をしているのか、笑い声や怒声が響いている。


「いらっしゃいませ」


「うわっ、秘密基地みたいっす!」


 先ほどまでビビリ散らかしていためちゃ美が目を輝かせた。

 店内はほどよく狭く、棚には漫画やボドゲーが沢山置いてある。

 まるで子供の遊び場にバーをつけたような、夢の空間である。


「初めてのお客様ですね。それではシステムの説明をさせて頂きますが宜しいでしょうか?」


 店員が丁寧にオタク君とめちゃ美に店の説明を始める。

  

「こちらのゲームバーですが、ボードゲームや漫画は自由に貸し出し致しますが、ゲームのソフト類の貸出は致しかねますのでご了承ください」


 そう。オタク君とめちゃ美が来た店は、ゲームバーである。

 というのも、文化祭で第2文芸部で何をやるか相談している時の事だった。


『ゲームしてるだけで褒められる出し物ないでござるか?』


『シラネーヨ、ですぞ』


 やる気を見せる優愛たちの手前、去年作成した『先を行く者』の量産型を作ろうとは言い出せないチョバムとエンジン。

 だが、まともな案を出せと言われても、文化祭は毎年サボるように教室の影にいた彼らに思いつくわけもなく、似たような経験をしていたオタク君も当然思いつかない。

 かといって、ほっとけば、優愛が次々と無理難題な案を出すので考えざる得ないのだった。


 机に足をかけ、椅子を倒したりしながら行儀の悪いチョバムとエンジン。

 そんな二人を叱るように、委員長が机を両手でバンと叩く。


『ねぇ、そんなにゲームしたいの?』

(訳:ゲームしてるだけでも良い案思いついたよ!(*'ω'*)) 


 委員長は別に叱っているわけでも怒っているわけでもない。

 良い案を思いついたので、ちょっとはしゃいだだけである。

 

 驚き、二人同時に椅子から転げ落ちるチョバムとエンジン。

 そんな二人を見て、委員長はにやりと笑う。


(チョバム君とエンジン君ったら、本当に面白いな)


 薄気味悪く笑う委員長にガチビビリのチョバムとエンジン。

 委員長の機嫌を損ねないようにと、同調するように引きつった笑みを浮かべる。


『それなら、ゲームバーなんてどうです?』


 委員長にビビっていたチョバムとエンジンが、この一言で目の色を変える。

 ゲームバー、名前の響き通りならゲームが出来るバーになる。そんな美味しい仕事があるのかと。

 ついでにオタク君、リコ、めちゃ美も反応していた。

 ゲームバーという響きに魅力を感じ、手に持ったスマホでそれぞれが検索をし始める。

 たどり着いた結論が、よく分からないから直接見てこようだった。


 そして、現在オタク君とめちゃ美はゲームバーを観察するために、店内のカウンターに座っていた。

 せわしなく店内をきょろきょろと見渡すオタク君とめちゃ美。壁にはゲームの宣伝用ポスターの他に、プロゲーマーのサインなどが数多く飾られている。 


「こちら、コーラです」


 店員が注文したドリンクをカウンターに置くと、オタク君が店員に話しかける。


「すみません。今日ここでワールドファイターズ3の大会があると聞いたのですが」


「あぁ、参加希望者でしたか。それでしたら参加用紙を持ってきますね」


 そう、オタク君とめちゃ美がゲームバーに訪れたのは、文化祭の為の取材だけが理由ではない。

 最近ハマっていた格闘ゲームの『ワールドファイターズ3』の大会があると知ったからである。

 

「ワールドファイターズ3の大会初めてだから楽しみっす」


「そうだね。僕たちが生まれる前のゲームだから、もう大会なんてやってないと思ってたしね」


 今ゲームバーにいる客は、そのゲームを当時やりこんでいた人たちばかりである。

 何気ないオタク君とめちゃ美の会話が、近くで対戦をしていた客の心にぶっ刺さったのはいうまでもない。

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