第123話「なになに、日曜日オタク君とリコ二人でどっか出かけてたの?」
「ねぇねぇ、小田倉君と姫野さん。日曜に二人で公園に行ってなかった?」
それは、オタク君とリコがコスプレイベントに行った翌日の事だった。
朝から優愛や委員長を交え、オタク君とリコがだべっているところに、一人の女子がそう言って話しかけて来たのだ。
女子の言葉に委員長が反応する。
「日曜の公園……コスプレイベントですか?」
「そうそう! コスプレしてる人達がいっぱいいた!」
「小田倉君はコスプレイベントに、姫野さんと二人で行ってたんですか?」
話しかけてきた女子には目もくれず、オタク君の目だけを見ながらしゃべる委員長。
明らかに委員長の目のハイライトが消え、不穏な空気が流れる。
「なになに、日曜日オタク君とリコ二人でどっか出かけてたの?」
もちろん、優愛も参戦である。
オタク君はリコとも仲が良いのだから、一緒に出掛ける事もあるだろう。
とはいえ、二人きりで出かけたとなれば、捨て置く事が出来ない。優愛はオタク君の事が好きなので。
「えっと、あはは」
などとあいまいな返事をするオタク君。
頬を掻きながら、全力で目が泳いでいる。
「ま、まぁ、な?」
対して、リコも同じようにあいまいな返事である。
決してやましい事をしていたわけではないが、優愛たちを誘わずに二人きりで行ったのだ。
答えづらい質問である。
「もしかして、二人は付き合ってたりするの?」
不穏な空気が流れているというのに、女子は気にせず爆弾発言をかました。
他人の色恋沙汰を楽しむあまり、周りが見えていない。
一瞬でクラスの空気が凍る。
なぜなら、クラスメイトも直接聞いてみたかったからである。
もちろん、本人を前にいう勇気はないが。
それをこの女子がいとも簡単に聞いてしまったのだ。
優愛が、委員長が、そしてクラスメイトの誰もがオタク君に注目をした。
「小田倉と姫野さんは俺が呼んだからだ」
沈黙を破ったのは、山崎だった。
「学園祭で今年もコスプレしようと思ってな。去年は小田倉にやってもらったから、またお願いするために呼んだんだ」
去年同じクラスの人間は、小田倉が山崎のメイクをした事を知っている。
だが、今年一緒になったクラスメイトはそれを知らず「あれって小田倉君がやったんだ」と驚きの声を上げる。
「なんで姫野さんも?」
「文化祭で去年みたいにクラス皆でコスプレするなら何が良いか女子の視点で聞きたかったから、たまたま声をかけただけだぞ。小田倉とも友達みたいだし」
山崎の答えに、それでもオタク君たちに声をかけた女子は引き下がらない。
「えー、でも怪しくない?」
「そんなに必死に小田倉に絡むとか、もしかして小田倉に気があるのか?」
「は、はぁ!? そんなんじゃないし!!」
矛先が自分に向かうとは思っていなかった女子が、顔を赤らめ語気を強めながら反論をする。
そんな反応をすれば、当然周りも面白がってからかってくるものである。
「あぁ、確かに小田倉君って、結構良い体してるし、狙ってたからあんな風に絡んでたんだ」
「違うってば!」
無理に付き合っているか聞く=好意があるから聞きに行くの構図が完成である。
もはや下手にオタク君とリコの関係を聞くことが出来なくなっていた。
となると、次の興味ある話に話題が行くのは当然である。
「そういや、文化祭なにやるかまだ決まってないよな」
クラスの誰かがそう言うと、オタク君とリコの話題は一気に流れ、文化祭をどうするかのお祭りムードに変わっていく。
あれをしたいこれをしたい、そんな事をそれぞれ好き勝手に言っている。
そんな状態なので、普段は言いづらい事も言えたりする。
「去年のE組みたいにコスプレしてみたいな」
その一言で、更に盛り上がる。
盛り上がるクラスメイトに紛れ、山崎が一瞬だけオタク君と目が合い、ウインクをする。
(日曜にやらかした分は返したぜ)
山崎なりの償いである。
日曜に、オタク君とリコが二人きりでいるところへ無遠慮に話しかけたという、やらかし分以上の働きを見せたので十分過ぎる。
こうして、山崎のファインプレーにより、今回の件についての言及は無事回避出来た。
「ところで、オタク君。日曜日、本当はリコと二人きりで出かけたの?」
回避できていなかった。
その日の授業が終わり、放課後部室に着くなり優愛がオタク君に詰め寄る。
「私も誘われてない」
逃がさないといわんばかりに、委員長が挟み撃ちをかける。
「ほら、コスプレとか興味ないと思ってさ!」
苦し紛れに、言い訳を口にするオタク君。
オタク君の言い訳を肯定するようにリコが首を縦に振るが、優愛も委員長も肯定の意思を見せない。無言でゴゴゴと背中からオーラのような物まで感じさせる圧を放つ優愛と委員長。
そんな二人に対し、どう言い訳するか考えるオタク君とリコ。
「興味あるっす!!」
この状況に似つかわしくない、明るい声が第2文芸部の部室に響く。
めちゃ美である。
ピシャーンと扉を開け、開口一番にそう叫んだのだ。
「コスプレギャル、興味あるっす!!」
場の空気などお構いなしに、ドヤ顔でめちゃ美が叫ぶ。
空気の読めない子である。
(優愛先輩と委員長先輩、迫力がマジパないっす)
いや、空気は読めている。いつものように第2文芸部に入室するタイミングを図るために会話を扉越しに聞いていたので。
空気を読んだ上で、あえて空気の読めない振る舞いをしているのだ。オタク君の為に。
だが、それでも優愛と委員長は表情を崩さない。
「八月にあるコスプレ祭り自分も連れてって欲しいっす! 優愛先輩と委員長先輩も当然一緒に行くっすよね?」
詳しく説明しないと冷静さを欠こうとしてる優愛と委員長。
しかし、このめちゃ美の発言は流石にスルー出来なかったようだ。
「行きたい行きたい! ねぇねぇオタク君、行こう!」
「私も、行きたい」
「い、良いですね! コスプレ祭りの日程今から調べましょうか!」
物凄い速さでパソコンの前に移動し、電源を入れるオタク君。
(相方、貸しイチっすよ)
無言になればまたリコと二人で出かけたことを詰められそうになり、去年のコスプレ祭りはどうだったかを饒舌に語りだす。
そして、リコと二人きりでコスプレ祭りに行った事を話してしまい自爆するのであった。
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