第111話「僕たち星座同士で繋がっちゃいましたね」
「思ったよりも他の人がいましたね」
「そうだね」
キャンプファイヤーをした広場は勿論のこと、キャンプ場の近くや施設周辺には生徒たちがまだ残っていた。
それだけならオタク君と委員長は気にせず天体観測を始めただろう。
だが、残っているのはカップルの生徒たちである。
これだけ雰囲気のある夜なのだから、若いカップルが逢引きしてしまうのは仕方がない。
そして辺り一面は真っ暗なのだから、近くに人がいてもスマホなどで明かりを出さなければ分からない。
なので意外と密集しているのだ。
流石にカップル同士で楽しんでいる近くで天体観測を始めるのは気が引ける。
かといって、近くの川は夜は暗く危険なため、生徒が近づかないように教師が目を光らせている。
なので、少し離れた森、というよりは林に近い林道までオタク君たちは来ていた。
夜闇に紛れて、そんなところにまで女の子を連れ込むのはどうかと思うが。
「それにしても、凄いですね」
天体望遠鏡を設置しおえたオタク君。
隣では委員長が見とれているのか、ぼーっとしているのかよく分からない表情で空を見上げている。
「凄く綺麗……」
歩きやすく、道に迷わないように整備された林道だが、それでも木々があり、空への視界はいくらから遮られている。
そんな遮られた夜空ですら、いや、遮られているからこそ幻想的に見える夜空にオタク君も委員長も目を奪われる。
「小田倉君は、星座には詳しいですか?」
「そこそこでしょうか。委員長は?」
「私もそこそこですね」
「それじゃあ、そこそこ同士、そこそこ楽しみましょうか」
オタク君の言葉に、委員長が釣られて笑う。
「委員長、春の大三角って知ってますか?」
「はい。確か、しし座の左の方にあるのがデネボラですよね」
委員長の指さす先を見て、オタク君がそうですと答える。
「小田倉君の星座だから覚えてました」
オタク君の誕生日は七月二六日、星座はしし座である。
星座にそこそこ詳しいから知っていたのか、好きな人の星座の事だから知っていたのか。
もしかしたら、オタク君とこういう会話があるかもと事前に調べていたのかもしれない。
「そこから左に行ったら、委員長の星座のおとめ座にあるスピカですね」
僕も覚えてましたよと言わんばかりのオタク君。
下手にいちゃついているカップルよりも、オタク君と委員長の発言のがよっぽどである。
お互いに顔を見合わせ、少し照れくさそうに笑い合う。
「僕たち星座同士で繋がっちゃいましたね」
オタク君、ほんの粋なジョークのつもりだったのだろう。
「そ、そうだね」
だが、いわれた委員長はたまったものではない。
好きな人に「正座同士で繋がっちゃいましたね」などと言われて平気な女子がいるだろうか?
いるわけがない!
当然のように顔を真っ赤にする委員長だが、暗がりの中で気づかないオタク君。
「委員長、せーので指さしましょうか」
「あっ、うん」
少しだけ動揺した委員長が、オタク君よりほんの一瞬だけテンポを遅らせながら、一緒に「せーの」で指を差す。
「「アークトゥルス」」
(せっかく小田倉君と繋がってたのに)
繋がった二人を邪魔するように存在するアークトゥルスを、ちょっとだけ恨めしそうに見る委員長。
今までに数々のしし座とおとめ座のカップルに邪魔者扱いされたと思うと、不憫な星に見えてくる。
ともあれ、春の大三角の完成である。
星座早見盤を見ながら次々と繋げていくように、夜空に浮かぶ星座を見つけていくオタク君と委員長。
メジャーな星座は分かるが、マイナーな星座になると正しいのか分からず二人してあれかなこれかなと言い合う。
そんな風にあれこれいって星座を探す作業も、二人にとっては楽しい時間である。
「そろそろ望遠鏡で星を見て見ませんか?」
一通り春の星座を見つけたオタク君が、天体望遠鏡のレンズを覗きこむ。
天体望遠鏡の位置を微調整をしながら星を探すオタク君。
そんなオタク君の姿を委員長はじっと見つめている。
(このまま見つからなかったら、もっと一緒にいられるかな)
彼女の想いとは裏腹に、オタク君はすぐに星を見つけてしまう。
少しだけ興奮した様子のオタク君が委員長に声をかける。
「ほら、土星が見えますよ!」
オタク君に手招きされ、委員長がレンズを覗き込む。
「わっ」
古い上に安物の天体望遠鏡なので、くっきりというほど綺麗には見えない。
レンズの中には輪っかをつけた土星がこじんまりと見える程度だ。
「凄い」
テレビでなら何度も見たことのある土星。
だが、こうして天体望遠鏡で見ると本当に存在するんだと感動が湧いてくる。
その後も火星、木星、金星と星を観測するオタク君たち。
「やっぱり月は近いから、
「うん」
月だけはちゃんと見えたようで、どこにクレーターがあったか等でしばしの間盛り上がる。
そして、不意に言葉が止まる。お互いにほぼ語りつくしてしまったからだ。
喋ることがなくなり、空を見上げるオタク君と委員長。
(もしかして、告白のチャンス!?)
暗闇の中、若い男女が寝間着姿で二人きり。
夜空の星を語り合い、お互いの星座を言い合うなどムードも十分。
もしかしなくてもチャンスである。
(でも、告白なんて、どういえば良いか分からないよぉ)
好きですといえば良いだけだが、それがいえれば苦労はしない。
何度もオタク君をこっそり見ては、目を逸らしを繰り返す委員長。
「小田倉君……」
「どうしました?」
(声かけちゃったけど、どうしよう……そうだ!)
「月が」
「おーい。お前ら、そろそろ消灯時間だぞ」
見回りの教師登場により、ムードは完全にぶち壊しである。
「……アークトゥルス」
ちょっとだけ不機嫌になった委員長。
教師にいわれるままに片づけを始め、それぞれのテントに戻っていくオタク君と委員長。
結局オタク君に告白出来ずじまいだったのはいうまでもない。
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