第108話「オタク君、グループ決まった感じ?」

 五月も終わろうかという時期。

 オタク君の高校では一年生は遠足がある。ちなみに二年生は林間学校。三年生は修学旅行だ。


 去年の遠足とは違い、林間学校は泊りがけのキャンプ。

 クラスごとにバスで移動し山へ行き、自由時間を山で過ごし、夜にはBBQをするという内容である。

 普通の学校であったら、まぁまぁ盛り上がりはするが、やはりめんどくさがる生徒が多い。

 だが、オタク君のクラスメイトは皆イキイキと林間学校の班決めをしていた。


 何故ならここは、自由な校風が売りの秋華高校。

 なので林間学校は移動時間と就寝時間以外は大体自由行動である。

 自由過ぎて、もはや行く意味があるのか疑問になる。


 実際、数年に一度「これ意味あるの?」と職員会議で議題に取り立たされる事はある。

 最終的には生徒の自主性に任せるという事で、全生徒から林間学校が必要か不要かアンケートを取る流れになる。

 結果は、必要多数で存続である。不自由のない林間学校なら友達とプチ旅行と大して変わらないので。


 学校側も「生徒が満足ならそれでいっか」という割と適当である。

 そんな適当なゆるさが魅力となり、入試の倍率と偏差値を年々上げていっているのだから悪い話ではない。



 林間学校の説明と班決めの為に一時限目は授業がなくなり、担任からの注意事項を少々聞かされただけで二年生はどこのクラスも自由時間となった。


「小田倉、一緒の班にならないか?」


 自由時間に早速声をかけられるオタク君。

 オタク君の席まで来て声をかけてのは、去年一緒に遠足の班になった秋葉と青塚である。


「うん。いいよ」


 秋葉と青塚とはそれなりに仲の良いオタク君。

 なので二つ返事で返した。

 ちなみに今回は優愛たちと同じ班ではない。

 泊りの班も兼ねているので、男女別になっている。


「班は五人か六人だけど、残りはどうする?」


 キョロキョロとクラスを見渡すオタク君たち。

 新しいクラスになって一ヶ月ちょっと。

 新しいクラスメイトと親しくなるには、まだ時間が足りないだろう。


「じゃあ俺達と組もうぜ」


 そんなオタク君たちに声をかけたのは、樽井、浅井、池安。

 秋葉青塚と同じく、去年もオタク君と同じクラスだったメンバーである。 


 彼らとは同じクラスだったので多少話した事がある程度のオタク君。勿論秋葉青塚もだ。

 だが、全く話した事のない新しいクラスメイトよりはいくらか気心が知れている分、楽である。


「僕は良いけど、秋葉と青塚は?」


「俺も良いけど。青塚は?」


「断る理由が無いな」


「よぉし、決定だな。班のメンバー記入用紙に書いて来るわ」


 樽井が教壇に置かれた記入用紙に、班のメンバーとしてオタク君たちの名前を記入し戻ってくる。

 軽く「宜しく」と挨拶を交わし、班が決まったのでそのまま解散となった。


「オタク君、グループ決まった感じ?」


 秋葉たちが居なくなると、入れ替わるように優愛がオタク君の席に近づいて来た。 


「はい。優愛さんもグループは決まりました?」


「うん。村田姉妹にリコと委員長だよ」


 優愛、リコ、委員長、村田姉妹。

 いつものグループである。


「そういえば、一緒の班の人は?」


「樽井たちは林間学校でやりたい事があるから調べもので、秋葉と青塚はスマホのゲーム始めてる」 


 決してオタク君がハブられて一人になっているわけではない。

 秋葉と青塚にはスマホのゲームに誘われたが、スマホのゲームはやっていないのと、やり始めたら凝り性でずっとやり続けてしまう自信があるので自ら離れたのだ。

 見ていたらやりたくなってしまい、オタク君も始めかねないので。

 自ら孤高になっただけで、ボッチなわけではない。


「ふーん」


「なになに、小田倉君ぼっちなの? うちらの班に入る?」


「ぼっちじゃないですし、班は男女別ですよ」


「小田倉君マジレスし過ぎウケル」


 村田姉妹がオタク君と優愛の会話に割り込むと、リコや委員長も寄ってきていつものメンバーになる。

 普段なら優愛や村田姉妹のテンションについて行けないオタク君は苦笑いを浮かべるだけだが、この日は違った。

 ウケルと言って笑う歌音に、オタク君も同じように笑っているのだ。


 テンションが高めなオタク君。

 それほどまでにキャンプが楽しみなのだ。


 オタク君は普段、ソロキャンか家族としかキャンプに行かない。

 知り合いを誘うにはキャンプは敷居が高いのだ。道具の費用やら日程調整やら。

 更に言うと誘えるくらい仲の良いチョバムとエンジンはインドア派なので、誘っても来る事はない。

 故に、今回のキャンプはかなり気合が入っていた。


 スマホで行き先を調べ、どんな施設や貸し出し物があるか、近くにどんな場所があるのか。

 更には林間学校のしおりを食い入るように見ている。

 それほどまでに、オタク君は仲間とキャンプに飢えていたのだ。

 そして、今回燃えているのにはもう一つ理由があった。


「キャンプ楽しみですね。村田さん!」


「めっちゃ楽しみ!」


 ゲラゲラと笑って返事をする歌音。  

 オタク君が張り切っているのは、キャンプ仲間の歌音がいるからでもある。

 かつて、オタク君と話を合わせる為に、適当にキャンプに興味があるといった歌音。

 それ以来、オタク君に時折キャンプの写真や動画を見せられ、本当に興味がわいてきたのだ。

 そのタイミングで、何故かアニメに詳しくなってきた妹の詩音にキャンプアニメを勧められ、キャンプに目覚めたのだ。

 ちなみに歌音のキャンプ経験は0である。


 楽しみのあまり指折り数え、そして数日後。

 林間学校の日がやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る