第103話「二人きりで相談があるですぞ!」
月曜の放課後。
第2文芸部の部室には既にオタク君、優愛、リコ、委員長が来ていた。
「ござる~」
「ですぞ~」
オタク君たちに送れる事数分、チョバムとエンジンも謎の挨拶をしながら部室に入ってくる。
なんだよそれとオタク君たちが笑いながら言うと、ちょっと嬉しそうにチョバムとエンジンも笑う。
彼らが考えたギャグのようなものなのだろう。
部室に入り、荷物を置いたチョバム。
「小田倉殿、何してるでござるか?」
パソコンで調べものをしているオタク君に、チョバムが気さくに話しかける。
多趣味のオタク君にとって欲しい物は無限にある。だが悲しいかな、お小遣いは有限。
なので、どれを優先して買うか考える為に色々調べていたオタク君。
オタク君の話を聞いてどれどれとパソコンの画面を見るチョバム。
大量の
中には優愛たちのための物もあり、それを見たチョバムは「やはりギャルに優しくしてもらうには、自分がギャルに優しくする事でござるな」と勝手に納得している。
「チョバム、さっきから一人でなに頷いてるの?」
「納得したからでござるよ」
「あっそ」
爽やかな笑顔で返事をするチョバム。
どうせ変な事でも考えているのだろうと適当にあしらうオタク君。
「エンジンも、そんなところ突っ立ってどうしたの?」
「……」
変なギャグがウケて喜んだと思えば、入り口に突っ立って難しい顔をするエンジン。
オタク君だけでなく、優愛たちも不審に思いエンジンを見る。
「小田倉氏!」
「急に大声で何?」
「二人きりで相談があるですぞ!」
またくだらない計画でも立ててるのかと言わんばかりの目でオタク君はチョバムを見る。
だが、チョバムもエンジンが何故そんな事を言い出したのか分からないらしく、両手と一緒に顔をブンブンと横に振り関係ないアピールをしている。
じゃあ一体なんなんだと思い、エンジンの方に振り向こうとした際に、一瞬だけ優愛がスマホを手に、何か見せているのが見えた。
(あぁ、なるほどね)
優愛のスマホには、昨日一緒に見に行った映画のページが映っていた。
映画、この情報だけでエンジンがなぜ深刻な顔で相談があると言い出したのか完全に理解したオタク君。
「うん。良いよ」
「かたじけないですぞ」
「じゃあ、場所を変えようか」
部室を出る際に、何度も「すまないですぞ」と謝るエンジン。
彼も決して大事にしたかったわけではない、ギャグの流れで軽い感じで誘おうとしていたのだ。
それをチョバムに先を越されてしまい、変に軽い誘い方では誰かが、特に優愛やチョバムがついて来てしまうと思い深刻そうに誘ったのだ。
「ここなら誰も来ないですぞ」
エンジンが案内した場所は、屋上に出る扉の前。
屋上は危険だからと、扉には厳重に鍵がかけられている。
普通の学校であれば不良生徒のたまり場になりそうな場所だが、オタク君たちの学校は優秀なので不良はいない。
雨の日に、体育館を使えない運動部が室内トレーニングと称し階段の昇り降りで使われる程度である。
「それで、用って何かな?」
誰もいない、屋上に出る扉の前。
蛍光灯の灯りが他よりも弱く、少しだけ暗くジメジメした場所である。
オタク君とエンジン。どっしり構えるオタク君に対し、エンジンがもじもじとしている。
そんな風に向かい合う二人は、遠目に見れば愛の告白に見えなくもない。
「それが……小田倉氏は、オタクとギャルが付き合うのはあり得ると思うですかな?」
オタク君が、ピクっと反応をする。
思った通りの質問がストレートに来たからである。
昨日の詩音とエンジンのデートを見ていたオタク君。
エンジンは詩音に対し、あと一歩踏み出す事が出来なかった。
それは、自分がオタクだからという事で負い目を感じているからだと考えていた。
ギャルとオタク。
いくら相手が気にしなかったとしても、自分がオタク故に、周りから変な目で見られたらと思うと付き合うには踏み切れない。
だから、エンジンは自分に相談をしに来たのだろう。背中を押してもらうために。
故に、オタク君は考える。
普段のオタク君だったら「そんなの釣り合うわけがないよ」と笑って一蹴していただろう。
仲の良い友達、それが自分たちオタクの限界であり、オタクに優しいギャルなんてものは、オタクの都合の良い幻想だと。
だが、時にはふざけ合いながら笑い合う詩音とエンジンのデートを見たオタク君。
彼には、とてもじゃないがそんな事を口には出来なかった。
エンジンが本気だと分かっているから。
「あり得ると思うよ」
オタク君の答えに、エンジンが目を見開く。
「本当に、ですぞ?」
「うん。そもそも、オタクがギャルと付き合って何が悪いの?」
「それはほら、周りの目とか色々あるですぞ」
「大事なのは、お互いの気持ちじゃないの?」
全く迷いないオタク君の答えに、戸惑っていたエンジンに段々と笑顔が戻っていく。
「そうだろ?」
「そうですな」
憑き物が落ちたように、エンジンがガハハと笑う。
オタク君の真っ直ぐな目を見て、納得したようだ。
(なるほど。小田倉氏は既に腹を決めていたのですな)
昨日の詩音とエンジンのデートをコッソリ尾行していたオタク君と優愛。
実は詩音とエンジンに初めからバレていたのだ。
「あれ優愛とオタク君じゃね?」
「鳴海さんと小田倉君、なんでメガネと帽子付けてるんだ?」
「ファッションっしょ。流石にあれで変装のつもりだったら笑えないって」
「確かにそうだな」
もしかしたら、オタク君と優愛はこっそりデートをするために付けてるかもしれない。
なので詩音とエンジンは気づかない振りをしていたのだ。
途中でコソコソとオタク君と優愛の様子を見ながら。
オタク君と優愛のデートを盗み見していた詩音とエンジン。
見ていてエンジンはこう思ったのだ。
優愛があれだけ手を繋ごうとアプローチしているのに、何故オタク君は全く気付かないのだと。
もしかしたら、気付いた上で、自分はオタクだからと避けていたのではないか、と。
だからこうして呼び出して、オタク君の気持ちを確かめようとしたのだ。オタクとギャルの恋愛は成り立つかと。
(小田倉氏の気持ちは、本物ですな)
(エンジンの気持ちは、本物だな)
ブーメランの投げ合いである。
(となると、小田倉氏の昨日の行動は、完全な鈍感、という事になりますな)
(となると、エンジンの昨日の行動は、完全な鈍感、という事か)
「小田倉氏、卑屈になってないで、相手がどうして欲しいか考えるのも大事だと思いますな!」
「そうだね! 相手が自分に好意を持ってる可能性だってあるんだしね!」
お互いにうんうんと頷き合いながら、同時に笑うオタク君とエンジン。
これだけ釘を刺したんだ。次回はもうちょっとマシになるだろう。
次は頑張れよ。オタク君とエンジンは心の中でそれぞれエールを送り合う。
そのエールは多分無駄になるだろうが。
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