第99話「ん? 何でもないっすよ」

 ド派手なピンク頭に地雷系メイク。改造した制服はややフリフリ感がある。

 どこをどう見ても、一般的な委員長と呼べるパーツが存在しない。

 委員長と呼ぶには、無理がある。

 無理があるのだが。


(でも、顔は好みっす!)


 そう、めちゃ美にとって大事なのは、彼女が委員長かどうかではない。

 委員長と呼ばれるこの少女が、好みかどうかである。

 そして、めちゃ美の好みである。

 なので、とにかくヨシである。


「委員長先輩、宜しくっす!」


 委員長が雪光彩輝と名乗ったが、雪光先輩ではなく、委員長先輩とあえて呼ぶめちゃ美。

 彼女は自由人みたいな言動をする事が多いが、実際は細かな気配りが出来る人間である。

 周りが委員長と呼び、委員長自身もそれを受け入れている。ならばそれにならい、自分も委員長と呼ぶべきだろうと判断したのだ。


「宜しくお願いします。ところでめちゃ美さんは、普段小田倉君とどんな事を話しているんですか?」


 委員長、ドストレートである。

 優愛とリコがどうやって聞き出そうかとしていた内容を、表情も変えずにめちゃ美に尋ねる。 


「昨日はどんなパンツが似合うかパンツ会議してたっす!」


 めちゃ美、細かな気配りは出来るが、大きな気配りはダメなようである。

 優愛、リコ、委員長。三人揃ってオタク君をガン見である。


「ふ~ん?」


「違う! めちゃ美が女の子だって知らなかったから!」


 珍しく半眼でオタク君を見る優愛。

 相手が女の子と知らなかったのは仕方ないとしても、下着を一緒に選んでいたという事実には変わりない。

 そもそも男同士だったとしても、女の子のパンツを選んでいたと他人に知られるのはキツイものがあるが。 


「フーン」


 なおもオタク君を責めるような目で見続ける優愛。

 年頃の弟を持つリコとしては、その辺でやめてやれと言いたい反面、もう少しこのままにしておくかと気持ちが揺れ動いている。


(ネットゲームで男性の振りして小田倉君に近づけば、どんな下着が好きか調べられるんじゃ!?)


 それぞれの想いが交差する中、めちゃ美が「あれ、自分何かやっちゃったっすか?」と言っているが誰も突っ込まない。 

 突っ込む余裕がないので。


「相方、楽しそうで良いっすね」


 ぽつりとつぶやくめちゃ美。

 オタク君は絶賛責められ中ではあるが、それは友達がいる証拠でもある。

 友達のいないめちゃ美には、そんなやり取りすらも羨ましく見える。


(それに、ギャルたちにあんな風に囲まれるなんて、羨ましいの極みっす)

 

 まるでラブコメの主人公のように、ギャルたちに囲まれるオタク君を眺めるめちゃ美。

 その様子を見て、彼女は思う。

 相方はきっと物語の主人公で、自分はただのモブなんだなと。


 ネットゲームの中でもそうだった。

 クラッチことオタク君の周りには、いつも誰かがいた。

 相方などと名乗ってはいるが、自分よりクラッチと一緒にいる時間が長い人間はいくらでもいる。

 ノリで相方を名乗り、ただ一緒にゲームをしてるだけの仲。


「どうしためちゃ美?」


「ん? 何でもないっすよ」


 オタク君を弄るのに飽きた優愛が、今度はめちゃ美に興味を向けマシンガントークを炸裂させる。

 せっかくギャルに話しかけてもらえたというのに、どこか歯切れの悪いめちゃ美。

 めちゃ美の内心は、疎外感と遠慮して無理に話しかけてもらっているんだろうなという申し訳ない気持ちで埋め尽くされていた。

 外見をどれだけギャルにしても彼女のいうように、結局はコスプレ。

 中身は陰キャ特有のマイナス思考である。

 それでもめちゃ美は、なんとか明るく振る舞った。


 翌日。

 中庭の花壇に座り一人、昼食を取るめちゃ美。

 教室で仲良く食事をする友達もいない事に後ろめたさを感じ、最近は一人になれる場所で昼食を取っているのだ。 

 今日は可愛らしい盛り付けをしたお弁当だというのに、心ここにあらずといった感じで無機質に食べているだけである。


 彼女の心には、ぽっかりと大きな穴が空いてしまっていた。

 相方とリアルで会えた。どうせ相方は恋人どころか女友達もいなくて寂しそうにしているだろうから、仲良くしてあげようなどと思い上がってもいた。


 だが、相方はちゃんとしていたのだ。寂しいどころかギャルに囲まれ幸せそうだった。多分彼女たち以外にもたくさん友達がいるのだろう。

 自分と同じオタク類なのに、普通の学生生活を楽しんでいる。

 それだけの事だが、彼女の心をへし折るには十分であった。


「明日、退学届け書くっすかね」

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