第98話「どこに委員長成分があるんすか!?」

 ネトゲーの相方こと、オタク君に出会えた事で、感動のハグをするめちゃ美。

 リアルで会ったら話してみたい事がいっぱいあったのだろう。オタク特有の早口でオタク君に話しかける。

 そんなハイテンションのめちゃ美に対し、オタク君のテンションは低い。

 もしこんなところ誰かに見られたらと思うと、気が気でないからである。


 ギャルに抱かれているところを見られたらと思っても、もう遅い。実は既にチョバムとエンジンが見ていました。

 

「これはどういう事でござるか……」


 部室のドアに手をかけたチョバムが、エンジンを引き連れ近くの男子トイレへ避難していた。

 彼らが見てしまったのは、よりにもよってめちゃ美がオタク君に抱き着くところである。

 

「そんな事、某に言われても、ですぞ」


 困った顔で返答をするエンジン。

 二人は以前、オタク君に他のギャル友達がいるのか聞いたことがある。

 答えはNO。優愛、リコ、委員長、村田姉妹だけだとオタク君は答えた。


 ならば、部室にいたあの金髪褐色ギャルは一体何者なのか。

 チョバムとエンジンが考え、出した結論は。


「小田倉殿が部室にギャル連れ込んでるでござる」


 優愛への報告チクリであった。

 オタク君の教室に行き、まだ教室に残っている(宿題で残されている)優愛を見つけ、ドアを開けると同時にチョバムが言う。


「優愛、宿題は部室でも出来るだろ?」


「うん。じゃあ行こっか」


 チョバムの言葉で即座に反応し、部室に行くことを提案するリコ。

 リコの提案を聞く前から、既に優愛は宿題をカバンに詰め込んでいた。

 阿吽の呼吸である。


 自体が飲み込めず、ポカーンとするクラスメイトをよそに、チョバムは教室のドアを閉めた。


「どうしたの?」


「うぉわああああ!?」


「ヒェッ!」


 優愛たちの後を追おうとしたチョバムとエンジンの隣に、音もなく委員長が立っていた。

 両手には荷物を持ち、チョバム達の反応に小首をかしげている。


「小田倉殿が部室にギャル連れ込んでるでござる」


「ッ!!」


 チョバムの言葉に委員長がピクっと反応する。

 その一瞬の隙をチョバムとエンジンは見逃さなかった。

 息の合ったコンビネーションで委員長の手から荷物を奪う。


「どこに持って行けば良いでござるか?」


「生物準備室」


「了解ですぞ!」


 くるりと反転し、生物室まで向かうチョバムとエンジン。

 委員長を応援する二人にとってはこの程度、造作でもなかった。

 足が震えているが、造作でもなかったはずである。

 彼らが生物室に向かうのを見て、委員長は部室へと足早に向かって行くのだった。


「しかし、よく分かったね」


「相方が普段から特定されるような情報垂れ流してたからっすよ」


 部室では、すっかり打ち解けているオタク君とめちゃ美が会話に花を咲かせていた。 

 リアルを特定される情報を平気でするオタク君もオタク君だが、それで調べ上げて探す方も探す方である。

 一歩間違えればストーカー……いや、既にストーキングである。


「それ言ったらめちゃ美だって、自分に似たアバターにしてるじゃん」


「違うっすよ、自分がアバターに似せてるっす。この格好はいわばギャルのコスプレっすよ」


「何言ってるのお前?」


 オタク君、めちゃ美への対応が完全にネトゲーのノリである。

 めちゃ美がリアルでもネトゲー内と見た目も中身も変わらないのだから、仕方がない。

 いまだに優愛たちや、妹の友達の女の子相手でも緊張する時があるオタク君だが、完全に緊張という感情は消え失せていた。

 まるで長年一緒にいた友人のような感覚である。


「オタク君、おっす!」 

 

 そんな二人だけの空間をぶち壊すかのように、いつもよりも大きな声で挨拶しながら優愛が部室に入ってくる。


「あれ? 優愛さん宿題はもう終わったんですか?」


「小田倉、ソイツ誰だ? 新入部員か?」


 優愛と一緒に入ってきたリコが、オタク君の質問を上書きするように、質問を投げかける。

 リコの質問に答えようとするオタク君だが、オタク君よりも先にめちゃ美の口が開かれる。


「ちょっ、相方誰っすかこのギャルたち! もしかして一緒にプール行ったっていう友達っすか!?」


「えっ、うん。そうだけど」


「はぁあああああああ? なんで相方だけギャルとプールに行けるんすか!? 自分も連れってって欲しいっすよ! ギャルの指名料いくらっすか!?」


「いや、うちはそういう店じゃないから」


 そもそも店ではなく部活である。


 オタク君と一緒にいる金髪褐色ギャルが誰か問い詰めようとしていた優愛とリコ。

 だが二人を見てテンション爆上がりのめちゃ美に押され気味である。 

 優愛とリコはめちゃ美のドストライクのギャルなのだから、テンションが上がってしまうのは仕方がない。


「相方って何ですか? SNSで仲の良い異性を相方呼びしてるあの相方ですか? 唐突にアイコンが真っ黒になってタピオカピン芸人になるあの相方ですか!?」


「えっ、何。委員長急に出て来てめっちゃ喋るじゃん」


 何も言えなくなった優愛とリコの代わりに、唐突に生えてきた委員長がオタク特有の早口言葉でまくしたてる。

 委員長の早口言葉を初めて聞いた優愛とリコ。オタク君の相方や委員長の早口言葉により、脳のキャパシティーオーバーで完全に言葉を失ってしまったようだ。 

 

「相方、なんすかこのギャ……ギャル(?)は。ギャルかわかんないっすけど自分はタイプっす。この子も相方の友達っすか? どこでドロップしたんすか!?」


「うん。説明するから皆一回落ち着いてくれます?」


 完全に混沌カオスである。

 

「コイツはネットゲームの相方のめちゃ美で」


 とオタク君が説明しようとする間も、優愛たちをガン見し、なんなら近づこうとしているめちゃ美。

 この手のタイプは初めてなため、対応に困る優愛とリコ。委員長は気にせずオタク君だけを見ている。


「めちゃ美、ちゃんと自己紹介しないと変な奴だと思われて嫌われるぞ」


「そ、それは嫌っす!」


 オタク君の言葉に、めちゃ美はピタっとその場で止まり、直立の姿勢になる。

 そしてキリっとした表情に切り替え、腰を45度に曲げ綺麗なお辞儀を決める。


「自分は下木 芹(しもぎ せり)っす。ネトゲー仲間からはめちゃ美って呼ばれてるっす。宜しくお願いするっす!」


 まるで体育会系の挨拶である。

 めちゃ美に押されながらも、「あっ、うん。宜しくね」と返事をする優愛。

 そんなめちゃ美の自己紹介を聞き、オタク君がふと疑問に思い、顎に手をやる。


「ん? 芹? じゃあ真美は本名じゃなかったの?」


「そりゃそうっすよ。本名プレイとか恥ずかしいっすよ」


 やめてあげて欲しい。クラッチはオタク君が大好きなVRを主題にしたアニメの主人公っぽくなるように、本名から取った名前なので。

 めちゃ美の発言に凹むオタク君だが、めちゃ美は気にせずオタク君に話しかける。


「それで、相方の友達早く紹介してくださいっすよ」


「えっと、返事してくれた人が優愛さんで、こっちが」


「姫野瑠璃子だ」


「鳴海先輩に姫野先輩っすね!」


「あはは。優愛で良いよ」


「私も周りからリコって言われてるから、リコで良い」


 そう言って少しだけ頬を緩ますリコ。先輩呼ばわりが嬉しかったのだろう。

 優愛はというと。自己紹介をした事で、少しだけめちゃ美のテンションに慣れて来たようだ。

 焼いた肌に興味があるらしく、無遠慮にめちゃ美の肌を触ったり眺めたりし始める。

 

「ねぇねぇ、ところでその肌って、焼いたの?」


「あっ、はい。日焼けサロンってところで焼いてみたっす!」


「すっごい、こんなにキレイに焼けるんだ。今度私もやってみようかな?」


「そ、そっすか。あっ、今度良かったら、自分の行ってるとこ紹介フヒッ、紹介するっす」


 めちゃ美、見た目は金髪褐色ギャルだが、本物のギャルに興奮しオタクが漏れ出し始めている。

 確かにその姿は、ギャルのコスプレをしたオタクJKである。


「優愛さん、まだ委員長の紹介が」


 このまま優愛に喋らせ続ければ、下校時間まで喋り続ける事になるだろう。

 委員長の自己紹介をせずにさよならは流石に宜しくないと思い、オタク君が優愛に話しかける。


「あっそっか。ごめんごめん。委員長の紹介まだだったね」


 オタク君に言われ、委員長が自己紹介をしてなかったことに気づいた優愛。

 委員長に軽く両手を合わせながら、めちゃ美から離れる。

 無表情のまま、めちゃ美へ一歩前に出る委員長。


「いいん、ちょう……?」


 めちゃ美が言葉を詰まらせる。

 オタク君の自己紹介は最初に済ませた。

 優愛とリコの自己紹介も今済ませた。


 残るはめちゃ美の前に立つ、ドピンク頭にドリルのようなツインテールの地雷系女子だけである。

 そんな地雷系女子を、オタク君たちは委員長と呼んでいるのだ。

 めちゃ美は心の中でツッコミを入れる。

 

(どこに委員長成分があるんすか!?)





ここからあとがきです。



いつからコミカライズだけだって錯覚してた?

またもやパロディ告知ですね。


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