第96話「普段の委員長っぽい感じのする水着で、可愛いと思いますよ」

「ったく、おせぇぞ」


「すみません」


 申し訳なさそうに軽く頭を下げるオタク君に、リコのローキックが入る。

 もちろん蹴る力はそんなに入れていない。鍛えたオタク君の足に、リコの華奢な足で力を入れて蹴ればどうなるかリコ本人も分かっているので。

 まぁ、鍛えていなかったとしてもリコが力を入れて蹴ることはなかっただろう。


「ってかさっきのアイツらなんなんだよ」


 さっきのあいつらというのは、オタク君が更衣室で出会ったマッチョ達である。

 彼らとオタク君は意気投合し、一緒に更衣室から出てきたのだ。

 そのままマッチョを引き連れ、優愛たちを見つけ話しかけるオタク君。

 当然優愛たちは引き気味である。筋肉質な男性は好かれやすいが、フェチでもない限りは限度があるので。


 マッチョを引き連れたおかげでナンパしていた男や、声をかけようとしていた男たちは逃げ出したので結果はオーライだろう。

 オタク君がマッチョであっても、三対一では分が悪く、ナンパ男が引かない可能性もあったので。


「いやぁ、なんか更衣室で筋肉を見せてたら意気投合しちゃって」


「なんじゃそりゃ?」


 後頭部をかきながらアハハと軽く笑い説明するオタク君に、リコがどう反応すれば良いか分からない顔をし、優愛が「なにそれ」と言って笑う。

 ちなみにマッチョ達は既にどこかへ行っている。目的は筋肉フェチからのナンパ待ちなので。

 

「それよりも、オタク君。私の水着どうよ」


 右手を頭に、左手を腰に当て優愛のセクシーポーズである。

 去年は上下白のフリルビキニに、スカートの付いた水着だったが、今年は黒のビキニである。

 布地が去年よりも薄くなっており、露出が増えているのもあるが、オタク君が気になるのは胸元や腰である。

 ……正しくは、胸元や腰にある可愛くちょうちょ結びされた結び目である。

 もしこれが解けてしまったらと思うと、気が気でないオタク君。


「なになに、オタク君これが気になる感じ?」


「そ、そんな事ないですよ」


「ほんとにぃ?」


 ニヤニヤとイタズラっぽい笑みを浮かべ、腰の紐をピーンと引っ張る優愛。

 オタク君、優愛の行動を止めようにも下手に障ることが出来ず「危ないですよ」と言ってオロオロするしか出来ない。


「あっ……」


 優愛が数回引っ張った拍子に、ビキニの紐が解かれる。

 思わず驚きの声を上げるオタク君だが、決してビキニから目を離さない。

 しかし、オタク君の期待とは裏腹に、優愛のビキニが落ちるなどという事はなかった。


「なんちゃって、驚いた? ビキニの紐とは別にもう一個紐が付いてるだけで、ビキニは結んで固定してるわけじゃないんだよ」


「えっ!?」


 ドッキリ大成功と言わんばかりに笑う優愛。

 困った顔でリコを見ると、リコは目を逸らし笑いをこらえていた。

 そして、そんな優愛の後ろに隠れるようにしている少女も、口を抑え笑いをこらえている。


「委員長も知ってたなら、教えてくださいよ」


「うふふっ、ごめんね」


 オタク君の反応がツボだったのか、目に浮かべた涙をぬぐいながら、ごめんと口にする委員長。

 照れ隠しをするように、委員長に絡むオタク君。優愛やリコに絡めば余計からかわれるので。

 オタク君に追撃でからかうチャンスなのだが、優愛もリコにニチャっとした笑みでスルーをしている。

 何故なら、その行動を読んだ上で更なる罠を仕掛けていたからだ。


「まったくも……ぉ……」


「ん? どうしたの?」


 委員長に絡もうとしたオタク君の言葉が途切れていく。

 軽く首を傾げる委員長、首を軽く傾げただけだというのに、委員長の胸にあるそいつは主張をするようにブルンと震える。


(でっか……)


 生唾をごくりと飲み込むオタク君。

 委員長の胸はデカかった。

 委員長の胸はデカかった。

 大事な事である。


 委員長の着ている水着は、トップスとスカートに分かれたタイプの水着である。

 これでもかと付いたフリフリのレースは、ちょっとだけ女子プロレスラーの衣装っぽく見えなくもない。

 そんな可愛らしいフリルが付いた胸元が、パンパンなのだ。

 委員長は太っているわけではない、むしろ小食で痩せている方である。

 全身がスラっとしている。なのに胸元はパンパンなのだ。


 これだけ大きいのに、なぜ今までオタク君は気づかなかったのか?

 それは委員長が、大きい胸は恥ずかしいからと、胸を押さえつけるように少しだけ小さめのブラを付けていたからだ。

 そんな委員長の考えに対し、女子達は違った。少しでも大きく見せる為に寄せてあげるブラを使っているのだ。もちろん優愛も寄せてあげるタイプである。

 水泳の時間も、委員長は水着に細工はしないが、女子達はパッドを縫い付ける。


 結果。

 委員長の胸はダウン調整され、女子達の胸はアッパー調整され中央値が近づくために、委員長と他の女子の差が感じられなかったのだ。いわゆる相対性理論である。

 それに気づいた優愛とリコは、委員長の水着選びは出来る限り胸の大きさを強調されるタイプの物を選んだのだ。

 

「えっと……変だった、かな?」


「そ、そんな事ないですよ!」


 オタク君の視線に気づき、困ったような顔を見せる委員長。

 恥ずかしいのか、自分の身体を隠すように両手で包み、前かがみになる。

 そして、そんな事をすれば胸のアイツは余計に主張をする。天然のなせるあざとさである。


「普段の委員長っぽい感じのする水着で、可愛いと思いますよ」


「ほ、ほんとう?」


「はい」


 オタク君に褒められ、顔を赤らめながらも嬉しそうにする委員長。

 レースの生地で出来たスカートを、委員長が軽く摘まむ。


「この水着、優愛さんとリコさんが一緒に選んで買ってくれたんですよ」


「そうなんですか」


「うん」


「委員長、普段地雷系みたいな恰好カッコしてるから、こういうのが好きかなって思って」


「ってか胸デカいんだから隠さない方が良いと思うよな、小田倉」


 オタク君が饒舌に褒めるのは、半分照れ隠しである。

 もちろんそんな事に優愛もリコも気づいている。男というのはなんだかんだいっても大きい物が好きなのだから。

 なので、からかうように委員長の水着をもっと見ろよとオタク君に誘導会話をしているのだ。


「特にこの肩ひもの部分のフリル可愛くないですか?」


 オタク君に褒められ、気分が良くなり段々とオタク特有の早口になっていく委員長。

 水着のここが可愛い、買うきっかけになったのはと話すたびにオタク君との距離が近くなり、最終的にはオタク君の左腕を右腕でがっちり掴んでいた。

 まるで私の物だと周りにアピールするように。


 委員長本人は悪気もなければ故意でもない、無意識行動である。

 だが、優愛とリコもそこまでいけば流石に黙ってはいられない。


「えっ、優愛さん?」


「なに?」


「いえ、その……リコさんもどうしたんですか?」


「何が?」


 オタク君の空いた腕にくっ付く優愛。

 胸元にピタッとくっ付くように寄り添って来るリコ。

 水着の話題から、今度はレジャー施設にあまり来た事ないから今日はどこから回りたいか語り始める委員長。

 

「そ、そうですね。最初はスライダーに行きましょうか」


 下手な事を言えば「オタク君、エッチな目で見てたんだ」と言われそうで怖いので、あえて言及しないオタク君。

 二人乗りスライダーを今日だけで三回乗る事になったり、流水プールで浮き輪に乗っていたら優愛達が乗り込んできて沈んだりと色々あったが、プールは楽しめたようだ。

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