第89話「そういえば、新入部員の勧誘しなくても良いの?」
放課後の第2文芸部。
久しぶりに全員が揃った状態である。
とはいえ、揃ったところで全員で何かするわけでもなく、それぞれが好き勝手にしている。
ふと校舎を見た優愛が口を開いた。
「そういえば、新入部員の勧誘しなくても良いの?」
その言葉に全員がピタッと動きを止める。
リコと委員長が確かにといった感じの顔をして、オタク君に「なんで?」と言わんばかりの視線を送る。
そんな視線に対しオタク君だけでなく、チョバムとエンジンも苦虫を潰したような表情になる。
「一応隠れオタクが集まる部だからね。大々的に宣伝しちゃったら意味がないかな」
バレないように隠れオタクをしているのに、人が集まる中でそれを口にしたら台無しである。
オタク君が窓際に行くと、皆が同じようについて行き、窓から校舎を見る。
校舎には新入部員を獲得しようと、色んな部が看板を掲げながら新入生に声をかけている。
中にはユニフォームでパフォーマンスをしたりする部も居たりする。
外の様子を見た優愛たちは、納得したような顔をして見ている。
隠れオタクの部員勧誘を頑張れば、ここが隠れオタクの集まる部として周りに知らせてしまう。
そうなると隠れではなくなってしまう。
かと言って、隠れオタクである事を隠して部員勧誘をしても、隠れオタクでもなんでもない部員が増えても困るだけである。
だからオタク君たちは部員勧誘をしていない。
「一応二人ほど希望者は来たでござるが、一人は文芸部と間違えてきただけで」
「もう一人は漫研にいきましたぞ」
漫研こと漫画研究部に行った生徒は、漫画研究部でトップを取るつもりだったのだが、実力者がいたために、どこからかうわさを聞きつけ第2文芸部に逃げてきた生徒である。
ここなら女子も居るからトップを狙うのも悪くないと考えたのだが、初日目にチョバムとエンジン、そしてオタク君の実力を見て逃げ帰ったのだ。
漫研でトップを取れないから逃げたが、逃げた先では実力が一番下ではさぞ居心地が悪く感じたのだろう。
なので今年の第2文芸部の新入部員は0である。
「でもさ、新入部員とかいないと廃部にならない?」
「あぁ、その辺りは大丈夫だよ」
そう言って、オタク君は部室の隅を指さす。
彼の指さした方を皆が見ると、そこには椅子に座った銀色のロボット、先を行く者が座っていた。
優愛とリコは謎のロボットを見て苦笑する。ネタを知らない人から見たらなんじゃこりゃになるのは当然である。
「僕らの生まれる前に流行したものとして文化祭で展示したのがソコソコ好評で、教師からも印象良かったみたい」
「へぇ、チョバムとエンジンもやるじゃん」
「ま、まぁこれくらいはでござる」
リコに褒められ、チョバムが気持ちの悪い顔で照れる。
本当はただのネタで作っただけなのだが、まぁわざわざ言う必要もないと口にチャックをするエンジン。
「それに、部長会議でも被服部と調理部、それに文芸部が味方をしてくれてるしね」
「マジで? オタク君なにしたの? 秘密でも握っちゃった?」
「違いますよ」
優愛の物言いに、思わず吹き出すオタク君。
以前文化祭で作ったコスプレ衣装、それを被服部が初心者向けの衣装づくりのサンプルとして欲しいと申し出たのだ。
特に断る理由もなく、なんなら処分の手間も省けるので二つ返事でOKをしたオタク君。
比較的綺麗な物は完成品のサンプルに、汚れているものは結び目をばらして型紙を取るために使われた。
被服部での評判は良く、初めて衣装を作る部員には喜ばれたのだとか。
そのお礼に、オタク君の第2文芸部の味方になってくれているのだ。
ちなみに文芸部はオタク系が入部してきたときに、受け入れ先として残して欲しいという意見である。
漫画研究部に入るのが嫌だから、文芸に興味ないけど文芸部に来ましたと言われても部の雰囲気が微妙になるだけでなので。
「へぇ、そうなんだ。被服部と文芸部は分かったけど、調理部は?」
「それは優愛さんとリコさんのおかげですよ」
「えっ、私?」
「何かしたか?」
優愛とリコが顔を見合わせ、お互いに首を横に振る。
覚えがないという感じである。
「ほら、以前優愛さんの家で勉強会やった時に作ったフルーツポンチ。あれを優愛さんやリコさんが料理部の人に写真見せたでしょ?」
「あぁ、懐かしいね」
「もしかして、作って欲しいってせがまれたの?」
「うん。映える料理は部員が喜ぶからって、色々喜びそうな物を教えたんだ」
チョバムやエンジン、優愛やリコ、そしてオタク君のおかげで味方が出来た第2文芸部。
そんな中、一人話題に入りづらくなっている者がいる。
委員長である。
盛り上がる面々を横目に、一人俯いて黙っている委員長。
実際は毒島を撃退するという活躍をしているが、その事には誰も気づいていない。なんなら本人も気づいていない。
なので、自分だけ何もしていない事に負い目を感じているのだ。
それに気づき、委員長にオタク君が声をかける。鈍感ではあるが気遣いは出来る性格なので。
「そうだ、今度第2文芸部の同人誌作るから委員長も手伝ってくれるかな?」
「良いの?」
「うん。委員長さえ良ければだけど」
「分かった。手伝う」
何を作る予定だったかオタク君がチョバムに尋ねると、チョバムがカバンの中からネーム原稿を取り出す。
原稿を手に取るオタク君の横から、委員長と優愛が覗き込む。
少し困ったような顔をしながら、足を曲げて屈むオタク君。
リコには位置が高くて見えづらかったのを調整しているようだ。
タイトルには「オタク君に優しいギャル+」と書かれている。
内容は、前回の「オタク君に優しいギャル」の続きで、新しいヤンデレギャルが登場するというものだ。
最初は「へぇ」と言って読んでいたオタク君たちだが、途中から頬がひきつる。
ほんわかしていたはずが、ヤンデレによりホラー展開になったからである。
「これはちょっと怖いね。委員長はホラー大丈夫?」
「ちょっと苦手かも」
それはお前をモデルにしたキャラやぞと喉まで出かかっているチョバムとエンジン。
もちろんそんな事を口にはしない。空気は読めるので。それに怖いので。
「でも頑張る」
「そっか、じゃあ早速今からやろうか。後でにするとまたギリギリになって泣きついてきそうだし」
「否定できないのが悔しいでござる」
作業の準備を始めるオタク君たち。
前回のメンバーに引き続き、委員長が入った事により効率は更に上がり、サークル「第2文芸部」は同人誌を完成させることが出来た
外では新入部員獲得のために声を張り上げる生徒たち。
オタク君たちは、そんな声に負けないくらい部室でワイワイと盛り上がっていた。
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