第72話「こういうのって、青春漫画みたいで楽しい」

「共闘お疲れさまー!」


 イェーイと委員長とハイタッチする優愛。

 休戦協定ではあるが、実質優愛たちの一方勝ちである。

 

 というのも2対2ではあったが、女の子に雪玉を投げるのは戸惑うオタク君。

 そしてオタク君からの攻撃が来ないと分かったら、オタク君を無視しリコに集中砲火が浴びせられる惨劇に。

 傍から見ればイジメに見えなくもない。


 戦力にならない事を申し訳なくなり、デコイ代わりに弁慶立ちするオタク君を見て、優愛たちから「そろそろ終わろうか」と言い出したのだ。

 役に立たないオタク君に文句が言いたいリコではあるが、そこまでされて文句を言える程、彼女は暴虐無人ではない。


「ったく、それじゃあ部室に」


「次は雪だるまを作ろうぜー!」


「オイッ!」


 戻ろうと言いかけたリコの言葉を遮るように、雪だるまを作ろうと言い出す優愛。元気いっぱいである。

 思わず抗議の声を荒らげる※リコ。

 寒空の下、雪合戦をした挙げ句に雪だるまを作ろうと言い出したのだ。当然の反応である。


「流石にそろそろ戻った方が良いんじゃないですか?」


 このままでは風邪を引きかねない。オタク君もリコの意見には賛成のようだ。

 賛同者を増やそうと、そう思いませんかと委員長に声をかけるオタク君。

 だが、委員長は既に雪玉を転がしながら雪だるまを作り始めていた。


「こういうのって、青春漫画みたいで楽しい」


 鼻息をフンスとしながら、無表情の委員長。

 無表情ではあるが、その所作でドヤ顔をしているのは何となくわかる。


「確かにそう言われればそうですけど」


 オタク君、オタクとしてそう言われると弱い所がある。

 草原で仲間たちと横たわってみたり、唐突にスポーツに熱中してみたり、そして雪で遊んでみたりは日常系の定番である。

 そんな定番を今、自分たちがやっているのだ。ここで終わるよりも、トコトン漫画のような展開に浸ってみたい。


 そして、オタク君から色々と漫画やラノベを借りたリコも同じ気持ちである。

 仲の良い同性だけでなく、異性までいると来ればもはや日常系どころか恋愛漫画じゃないかとさえ思える。

 なんなら自分の為に身を挺したオタク君は、まるでヒロインのピンチに駆けつけたヒーローのようだとさえ思った。


(べ、別に小田倉と恋愛とかじゃねぇし!)


 頭をブンブンと振って、オタク君に感じた感情を吹き飛ばすリコ。

 そう、身を挺したのでなく、あれはオタク君が戦力にならないからデコイしかする事がなかったんだと必死に自分に言い聞かせる。


「なになに? こういう事する漫画あるの?」


「えーっと、あるか分からないですが、漫画でやってそうだなと思って」


「へぇ、そういうのもあるんだ。そうだ! オタク君、今度おススメの漫画貸して!」


「あ、はい。良いですよ」


「鳴海さん。私のおススメもありますけど、どうですか?」


 あまり漫画に詳しくない優愛が、漫画の話題に食いつく。

 漫画の話になり、委員長も加わり始めると、会話に花が咲く。


「とりあえず、雪だるま作ってから部室で話しましょうか」


「うん!」


 ここで優愛に話をさせたら、寒空の下、延々と話し続ける事になってしまう。

 一旦話を切り、雪だるまに話題を戻したオタク君。


「リコさんも、良いかな?」


「はいはい。どうせ何言っても聞かないし、さっさと作るよ」


 めんどくさそうな顔をしつつも、真面目に雪玉を転がすリコ。

 日常系っぽい事してるなーとか、何度振り払ってもオタク君をつい目線で追ってしまったりと、頭の中は大混乱しているからである。


「それじゃあ、顔の部分持ち上げますね」


 ヨイショと言いながら、重そうな雪玉を一人で乗せるオタク君。

 優愛たちも手伝うと申し出たのだが、普段の筋トレの成果を見せびらかしたくて、一人で乗せたのだ。


「一人で抱えるとか、オタク君凄い!!!」


「小田倉君って、力持ちなんだね」


「鍛えてますから!」


 ドンと胸を叩くオタク君。

 欲しかった言葉を貰えて満足気である。


「それで、顔はどうするんだ?」


「適当にそこら辺の石でも……」


 そこら辺と言って見渡すが、辺り一面雪景色である。

 積もりに積もった雪を掘り返し、良い感じの石を探すのは困難だろう。


「そうだ。オタク君ドールってやつ? あれを作る感覚で雪だるまの顔作れない!?」


「えっ、小田倉君そんな事出来るの?」


 オタク君が芸達者なのは分かっていた委員長だが、ドールヘッドまで作れるのは知らなかったようだ。


「あれは元々存在するヘッドにメイクしてるだけなので」


「そっか」


 ドールのヘッド自体を作っているわけではない。

 既存品のメイクをしていないドールヘッドにメイクを施しているだけである。


「でも、ヘラがあればある程度は形を作れますよ?」


「ウソッ!? オタク君凄くない!?」


 最近はフィギュア作りに興味があるオタク君。

 粘土を使っていくつか作品は作り上げている。

 これだけ削りやすい素材なら、何とかならなくもないと言った感じである。


「じゃあ、これとかどうかな?」


 委員長がガサゴソと財布から取り出したのは、ゲームに使うカードである。

 中にデータを保存するためのチップが入っているため、相当硬い。


「あっ、これならいけるかも!」


 委員長からカードを受け取り、雪だるまの顔を削り始めるオタク君。

 しばらくして、ややアニメ調の顔をした雪だるまが出来始める。


「小田倉、お前本当に何でもできるな」


「そんな事ないですよ。たまたま得意な事が生かせる状況なだけですから」


 リコが感心して雪だるまの顔を見る。

 技術的にはまだ拙いにしても、素人から見れば十分な出来栄えである。


「ねぇねぇ、この子着けにしたら可愛くない?」


 そう言って雪だるまの顔に着け眉毛を付け始める優愛。


「だったら、アイラインこんな感じの方が良いかも」


 目元に軽く線を入れ始める委員長。


「お、おい」


「良いですよ。皆で作った方が楽しいじゃないですか」


 優愛たちの行動に、嫌な顔せず笑うオタク君。


「リコさんも、何か付け足しますか?」


「……髪型まで作ると大変そうだから、ツインのお団子とかつけるのどうだ?」


「良いですね!」


 こうして雪だるま、もといギャル雪だるまが完成した。

 流石に胴体まで作る余裕は無いので、体は雪玉のままである。


 オタク君達は笑いながら記念撮影をし終えると、今更のように寒さを思い出し第2文芸部の部室へと帰って行った。

 夜までには雪は止み、オタク君達は帰宅する事になるが、翌日4人揃って風邪をひいたのは言うまでもない。



「……おや?」


 オタク君達が居なくなった後、校内を見回りしていたアロハティーチャー。

 人影を見つけ不審に思い近づく。不審な人影の正体はギャル雪だるまである。


「HAHAHA、転校生ですか? そのままでは風邪をひいちゃいますね」


 そう言って、ギャル雪だるまにアロハシャツを着せる。


「見回りついでに捨てようと思っていた物なので、お礼は入りません。今日は特に冷えるので気をつけるのですよ」


 アロハシャツを着せられたギャル雪だるま。

 明らかに着る前よりも寒そうである。


 後日、オタク君達が作ったギャル雪だるまは、生徒たちの話題の的となる。

 一部からは「アロハティーチャーがVtuberデビューする際のアバターだ!」と噂が流れ、それを面白がってアロハティーチャーに聞きに行く生徒達。


 最初は「そんなわけない」と答えていたが、段々とその気になったアロハティーチャーがアロハシャツを着たギャルのアバターで「英語レッスン系Vtuber」としてデビュー。

 後に登録者数数万人の大人気Vtuberとなるが、それはまた別の話である。

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