第70話「地元のゲーセンでは天上のガンマン称号を持つ僕からすればこの程度!」

「うおっ、思ったよりもゾンビが多いぞ!」


 両手を突き出し、次々と手に持った銃でゾンビを倒していく。

 オタク君の画面上には、次々とヘッドショットの文字が表示される。


 今までのゲームとは違い、狙った場所に弾が撃てる。VRの特徴である。

 機器に着いたカメラが、オタク君の動きをダイレクトにゲームに伝えていく。

 それが更なるリアルさをオタク君に与える。


「地元のゲーセンでは天上のガンマン称号を持つ僕からすればこの程度!」


 オタク君が銃を撃つたびに、発砲音と共にゾンビ達がその場で倒れていく。

 天上のガンマンとやらが何か分からないが、自負をするだけの実力はあるようだ。

 テンションが上がり、ハッハッハと笑い声を上げながら銃を連射する姿はまるでトリガーハッピーようである。


 見事なヘッドショット連発により、ゾンビ軍団をあっという間に殲滅したオタク君。

 ゾンビの群れを倒した先に、小さな村を見つける。ゾンビに襲われたためか荒廃し生存者らしきものは見つからない。

 

「ここは、セーブポイントがあるのか……一旦休憩にするかな」


 村に設置されたセーブポイントでセーブし、一息つくオタク君。

 これなら親に頼んでクレジットカードを借り、ソフトをいくつか購入するのも悪くない。そう思うくらいに満足だったようだ。

 満足し笑顔でVRゴーグルを外すオタク君。

 が、その笑顔が張り付く。


「えっ……」


 仮想現実の世界から帰って来たオタク君を待っていたのは、自分の部屋に女の子達が居るという現実だった。

 妹の希真理はまだ分かるとして、その妹の友達である池安凪と向井玲。

 更には優愛とリコまでいる始末だ。


 笑っている者も居れば、笑いをこらえる為に必死に目線を逸らす者、そもそもVRに興味津々なのか目を輝かせている者。

 反応はそれぞれだが、確実に分かるのは、オタク君のVRプレイを見ていたという事である。


 何故彼女達がオタク君の部屋に居るのか?

 元々凪や玲と遊ぶ約束をしていた希真理、2人が家に来るのを待ちながら外を見ていると、納屋から出てくるオタク君を発見したのだ。

 オタク君、そもそもVR機器を持ち出していた事を希真理にバレていたのである。

 

 部屋に鍵も閉めず、VRを起動させる兄を見て、「うちにこれば面白いものが見れる」と優愛とリコにメールを送る希真理。

 そのメールを見て、優愛とリコはホイホイついて来たのだ。

 まぁ、2人は面白いもの云々よりも、オタク君に会いたいから来たのだろうが。


 オタク君の家に着いた彼女達が見た者は、ゴーグルを付けながら怪しい挙動をしてニヤニヤするオタク君であった。

 ゲームへの没入感を深める為にヘッドホンまで付けていたオタク君は、彼女達の存在に気づく事が出来なかった。


「天上のガンマンさんお帰り」


 希真理がニッコリと笑いながら、オタク君にそう声をかけると、必死に目を逸らしていた凪がむせる。

 恥ずかしさから顔を真っ赤にしながら、あわわ状態のオタク君。

 許される事なら今すぐにでも叫びたい気分だろう。


「えっと、オタク君のプレイ、カッコ良かった、よ?」


 苦笑い気味にフォローをする優愛、だがそんなフォローすら今のオタク君には大ダメージである。

 オタク君、今すぐにでもベッドにダイブし枕に顔をうずめて悶えたい気分であるが、ベッドは既にリコが陣取り漫画を読んでいる。


(あああああああああああああああああああ!!!!!!)


 心の中で叫びながら部屋の鍵をかけなかった事を後悔するオタク君。

 だが、同時に安堵していた事もある。


(夢見輝子のパンツを覗こうとしなくて良かった……)


 スカートの中身に興味があった、だが推す者としてそのラインは超えてはいけない。

 オタク君、必死にスケベを理性で抑えたのだ。

 もしそんな事をしている姿を見られてしまったらと思うと、更に恥ずかしくなり見悶えをしてしまう。

 彼女達も、そこまでやっているのを見ていたら、流石にドン引きしていただろう。

 最悪の展開だけは避けられたオタク君。どうやらギリギリ致命傷で済んだようだ。


「それ私もやってみて良いですか!?」


「あっ、うん」


 そう声をかけたのは玲である。

 先ほどまでオタク君が痴態を晒していたというのに、全く気にした様子が無い。

 オタク君に近づくと、VRゴーグルとコントローラーを受け取る。


「これってどうやれば良いんですか」


「あっ、こっちのコントローラーで……」


 ゲームのやり方などをオタク君に聞く玲。

 年下とはいえ、相手はギャルの女の子なので思わずどもってしまうオタク君。

 なんとか説明し終えて、玲がVRでゾンビゲームを始める。


「うわっ、ヤバッ!」


 オタク君とは違い、完全に体を動かしながらキャーキャー言いながらゲームをする玲。

 それを笑いながら、優愛や希真理達が適当な声援を送る。

 見られてると分かった上でやっているので、玲は恥ずかしいとは思っていない。


 だが、そんな姿を見ているだけでも恥ずかしくなってしまうオタク君。

 共感性羞恥心だからか、それとも先ほどの自分の姿を重ねてしまっているのか。


 その後も、リコ以外の女の子たちがキャッキャ言いながら、それぞれVRをやる姿を見て悶えそうな気分になるオタク君。

 自分の部屋で美少女に囲まるハーレム状態。本来なら羨ましい展開のはずだというのに。


「VRっての? 凄く面白かったね。オタク君またやりに来ても良い?」


「あぁ、うん。良いよ」


 優愛。これだけ面白いんだから、オタク君がハマるのも仕方ないよねと言わんばかりの言い方である。

 まぁ、そう言ってオタク君を元気づけてあげようとしているわけだが。 

 ついでにまたオタク君の家に遊びに来る理由づくりでもあるが。


「えっ、じゃあ私もまたやりに来て良いですか?」


 優愛の言葉を聞いて、玲が反応する。

 こっちは純粋にVRにハマったようだ。


「勿論。良いですよ」


「それじゃあお兄さん、連絡先交換しましょうよ」


 玲、オタク君の隣に座り、携帯を取り出し画面を見せる。

 画面を見せる為とはいえ、肩がくっつくほどの密着である。

 兄と弟の男兄弟に囲まれた玲。男慣れをしているので全く気にした様子も無くオタク君にくっつく。

 

 逆に女慣れをしていないオタク君、先ほどとは違った理由で顔を赤くしながらも連絡先を交換している。

 ドキドキしながらも対応できるのは、優愛達と接したおかげで、多少の免疫は出来て来ているからだろう。

 もし免疫のない男子にやれば、ガチ恋してしまう距離間である。

 実際にそれで勘違いして、彼女に恋心を抱いてしまう男子はさぞ多い事だろう。


 そんな様子を何か言いたげに見つめる優愛、リコ、そして希真理。

 玲の様子を見れば、オタク君に気が無いのは分かるだろうが、彼女達は恋愛クソザコナメクジである。

 

「オタク君、見て見て。この動画面白くない!?」


「なぁ小田倉、この漫画の続きってどこにあるんだ?」


「お兄ちゃん、私達一通りやり終わったから次はお兄ちゃんの番だよ!」


 玲に対抗するように、オタク君にくっつき下手なアプローチである。

 もはや好意があるのがバレバレである。


 が、オタク君は気付かない。

 素の鈍感もあるが、VRをやっている姿を見られた羞恥心からまだ頭が上手く働いていないからである。


「漫画の続きならそっちの棚にありますよ。VRは酔いそうだから今日はもう僕は良いかな。優愛さん、動画ってどれです?」


 一つ一つ真面目に返すオタク君。

 

「えっ、じゃあ私もう一回やっても良いですか?」


 玲がオタク君の裾を掴み、目を輝かせる。


「あっ、うん。良いですよ」


 そんな2人のやり取りを見て、アプローチ合戦は更に激しさを増していく。

 が、オタク君はやっぱり気づかない。


 オタク君達の様子を、一歩離れた所で見ていた凪。


(ラブコメ漫画の主人公って、実在するんだ)


 完全に好意に気づかないオタク君と、それを取り巻くハーレム状態に、凪は感心していた。 

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