第54話「うわっ、凄い。マジで本になってる!」
コミフェ会場で優愛に出会ったオタク君。
いくらなんでも、ギャルがコミフェ会場をうろついているはずがない。
そう思うオタク君だが、現実に目の前には優愛が居る。
「なんかすごいね。皆お店開いてお祭りの会場みたいじゃん」
「そ、そうですね」
お店、というのはサークルの事だろう。
オタク君のサークルの前に立ち、優愛はキョロキョロしながら周りを見回す。
どうやらコミフェというものを分かっていないようだ。
「優愛さん、どうしてここに?」
たまたま通りかかったらコミフェ会場でした。なんてわけが無い。
いや、もしかしたらたまたま東京ビッグサイトを見たくて来たらコミフェだった可能性が無いわけではないが。
なんにせよ、優愛がこの場に居るのは不自然である。
オタク君の何故の問いに、優愛が笑顔で答える。
「うん。ここに来ればオタク君に会えるかなと思って」
笑顔である。純粋な笑顔である。
キミに会いたくてここまで来たとギャルに言われて、嬉しくない男子が居るだろうか?
否!
優愛のオタク君という言葉に反応した人達が、思わず立ち止まり2人の会話を見守る。
目の前には、都市伝説のような「オタクに優しいギャル」が存在したのだから見てしまうのは仕方がないというものだ。
コスプレしているわけではない。なんなら普段着の優愛。
オタク君にコーデして貰ったコート、厚着をしてはいるがスカートは丈が短い。
軽いながらも化粧をして、明るく陽キャな雰囲気がにじみ出ている。
そう、今の優愛は誰がどう見てもギャルである。
普段からギャルであるが、この場では更にギャル度が上がっている。
もはやギャルのコスプレと言っても過言ではない!
「ほら、最近いつもチョバム君やエンジン君とコミフェがーって話してたじゃん?」
「えっ、それで会えるか分からないのに東京まで来たんですか!?」
「東京には、お父さんとお母さんが仕事で出張だったから付いて来ただけだよ」
どうやら両親の出張について来ただけなので遠征費は
だが、それでもこれだけだだっ広い会場と人混みの中探し回ったのなら相当だ。
(えへへ、本当にオタク君に会えた)
恋する乙女は無敵という事なのだろう。きっと。
「ねぇねぇ、これって一緒に作った本じゃない? 読んでも良い?」
「あっ、はい。どうぞ。そこに居ると通路の邪魔になっちゃうかもしれないんで、中に入ります?」
サークルスペースに入って来てと言えない辺り、ちょっと弱気のオタク君。
「良いの!? それじゃあ、お邪魔しまーす」
スーッとサークルスペースに入り、机の上に置かれた見本誌を手に取る優愛。
「うわっ、凄い。マジで本になってる!」
興奮しながら自分たちで作った同人誌を読む優愛。
ここは私がセリフ考えたんだよと、指さしながらオタク君に自慢したりしている。
完全にイチャイチャムードである。声をかけづらい雰囲気で売り上げが下がるまである。
しかし、この広いコミフェ会場、これだけの参加人数が居ればそんな雰囲気でも気にしない猛者もいる。
「すみません、1部良いですか?」
オタク君と優愛のイチャイチャに動じる事無く、購入していく名もなき猛者。
「あ、はい。ありがとうございます!」
オタク君はお金を受け取ると、同人誌を手渡した。
そのまま受け取り去ろうとする名もなき猛者に、優愛が声をかけた。
「あのっ!」
「……あっ、はい?」
「これ、セリフ私も頑張って考えたから、良かったら読んで、ください」
良かったらも何も、読むために買ったのである。
自分が手伝った同人誌が売れた事で、ちょっとテンションが上がりついそんな風に声をかけてしまった優愛。
少しだけ恥ずかしそうな笑みで、はにかむ。
「あっ、はい。面白かったらツ●ッターで呟きますね!」
「ホント!? ありがとー!!!」
名もなき猛者は、一撃で落とされたようだ。
先ほどまで真剣な顔で、次の
完全に鼻の下が伸びている。
なんなら惚れたかもしれない。ちょろい。
「聞いたオタク君!」
「はい。ありがとうございます」
しかし、優愛の好意の目が誰に向いてるのかは一目瞭然である。
そんな名もなき猛者が声をかけたおかげか、好奇心でオタク君達を見ていた人たちが次々とスペースに足を運ぶ。
人が増えれば、興味を持つ人が増える。
興味を持てばとりあえず見に来る。
そして見に来た人が増えれば、また興味を持つ人が増える連鎖により、少しだけ賑わい始めたオタク君のスペース。
しばらくして戻って来たチョバムとエンジン。
賑わいに驚きながらも、サークルスペースに戻り手伝いを始める。
「小田倉殿、これはどういう事でござるか!?」
「鳴海氏が何故ここに!?」
経緯を聞き、納得と言った様子でガハハと笑うエンジン。
チョバムもそうでござったかと言いながら笑顔を取り戻していた。
どうやら2人はコミフェ会場をブラブラした事で、気分が回復したようだ。
「もしかしたら、鳴海氏の両親の出張先がコミフェだったりしたら面白いですぞ」
「そんなわけないだろ」
「そうでござるよ」
それはフラグである。
「あっ……」
誰かと目が合い、思わず声が漏れる優愛。
人ごみをかき分けるように、男女がオタク君達のサークルの前までやって来た。
「優愛、東京見学に行ったんじゃなかったのか?」
「もしかして、その子がいつも話してる、お友達のオタク君?」
「あの優愛さん、こちらの方は?」
突然話しかけて来た男女に戸惑うオタク君。
優愛がちょっとだけ気まずそうな顔をしている。
「その、お父さんとお母さん」
「あぁ、失礼。優愛の父です」
「いつも娘がお世話になっております」
そう言って、優愛の両親がオタク君達に名刺を手渡した。
優愛の両親登場に驚くオタク君達が、名刺を見て更に驚く。
「S社のプロデューサー!?」
有名な会社のお偉いさんである。
今回はコミフェに企業出展するにあたり、優愛の両親は出張でコミフェに来ていたようだ。
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