閑話「オタク君たちは告白ができない! 後編」
(ったく、何が「愛してるゲーム」だ。その位さっさと言って終わらせてやるよ)
まっすぐオタク君の目を見るリコ。
オタク君も同じようにリコの目を見る。
「小田倉」
「はい」
「その、なんだ。お前って結構良い奴だしさ。優しい所もいっぱい知ってるし、普段から何気なく助けてくれるお前の事さ……」
リコは愛してるゲームの上級技「相手を褒める」を繰り出した。無意識で。
このゲーム、実はただ愛してると言うだけで相手を落とすのは難しい。
そのため、本当に好きと思わせる為に相手の良い所を褒めて「もしかして、ガチ告白なのでは?」と思わせる事で相手を照れさせるテクニックが存在する。
だが、リコはこのゲームを知ったのは今日が初めて。
なのに、そんなテクニックを知るわけがない。
ただ単に愛してるとそのまま言うのが恥ずかしいから前置きを入れたら、勢い余ってガチ告白になってしまったのである。
「アイ、アイ……アッアッイッ」
顔を真っ赤にしながらアイアイを繰り返すリコ。
そう、彼女もまた、恋愛クソザコナメクジであった。
結局「愛してる」と言えず、敗北者である。
(ビックリした。もしかしたらリコさんが本当に告白してくるのかと思った……)
勝者のオタク君。彼は勝てたのではなく、完全に動けなくなっているだけである。
不完全燃焼なゲームだったが、チョバムとエンジンは逆に内心燃えていたりする。
(あんな風に照れて貰えるなら、それだけでも十分でござる!!!)
(なんなら向かい合って目を見つめてもらうだけでも十分興奮しますぞ!!!)
「優愛さんとリコさんが終わったし、僕が交代する番かな」
「次は私の番」
椅子を立とうとするオタク君だが、両肩に手を置かれそのまま座りなおした。
オタク君の両肩に手を置いた人物が、宣言通りに椅子に座った。
ピンク頭に地雷系メイク。委員長である。
今日も掃除用具入れに隠れていて、驚かすタイミングを逃したようだ。
(あれ? いつの間に?)
いや、一応驚かす事には成功しているようだ。
彼女が予想した結果ではないが。
委員長と見つめ合うオタク君。
先ほどの優愛やリコと違い、委員長が相手だからか落ち着いた表情である。
「小田倉君」
「はい」
「愛してる」
(訳:私ね、最近ほら、一緒に小説読んだりしてて、小田倉君の事良いなとか思ってたりするんだ。キャー言っちゃった(///▽///))
委員長、見事な「愛してる」である。
表情をピクリとも動かさず、周りに照れを悟られないポーカーフェイス。
対してオタク君は。
「あ、あの。ありがとう、ございます」
ちょっと気持ち悪い顔で照れていた。
相手が慣れ親しんだ委員長といえど、面と向かって女性に愛してると言われて照れないオタク君ではなかった。
「うん」
そんなオタク君を見て、一瞬だけ委員長が嬉しそうに微笑んだことを、誰も気づかない。
委員長相手にデレデレした表情を見せるオタク君を、優愛とリコが不機嫌そうに見ている。
もしハンカチを持っていれば、2人はさぞ噛み締めていただろう。
「ほら、オタク君負けたんだから交代!」
「小田倉さっさと退け。次はチョバムかエンジン、どっちがやるんだ?」
このままオタク君を放っておけば、いつまでもデレデレしているだろう。
優愛とリコがオタク君を椅子から無理やり退かせる。
オタク君の居なくなると、委員長がエンジンとチョバムを見つめる。
「次は、誰?」
「ヒィ!」
先に目が合ってしまったのだろう。
チョバムがカクカクと、壊れたロボットのように動きながら椅子に座る。
見ようによっては、女の子に慣れてない男子が恥ずかしそうにしている様子に見えるかもしれない。
「覚悟は出来てるんでしょうね?」
(訳:準備は出来たかな?(*'▽'))
「は、はいでござる」
冷や汗を大量に流しながら、既に目を逸らしてしまっているチョバム。
完全にヘビに睨まれたカエルである。
キーンコーンカーンコーン。
下校を告げるチャイムの音が鳴り響いた。
「今日は終わり、かな?」
「そ、そうでござるな!」
「そっか。それじゃまたね」
委員長は椅子から立ち上がると、掃除用具入れからカバンを取り出しそのまま第2文芸部の部室を出て行った。
苦手な委員長が去り、安堵からほっと一息つくチョバムとエンジン。
「今日はお開きにするでござるね」
「そうですな」
そうだねと言って、各自帰りの支度をして部室を出て行った。
今回の件で、誰もが思った。
”もう愛してるゲームはやらないようにしよう”
口に出したわけではないが、5人の心は一つになっていた。
いや、委員長も居れて6人である。
(小田倉君以外の人に、好きとか愛してるって言うのはなんか嫌かも)
帰りの下駄箱で、そんなモヤモヤした気持ちとオタク君に愛してると言った時のドキドキを胸に、委員長は帰宅していった。
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