第51話「うん。そうだね。いい加減この格好寒いと思ってたし、一緒に服買いに行こう!」
「優愛さん、明後日の日曜、一緒に冬用の服買いに行きませんか?」
優愛の風邪が治り、登校してきた日の放課後の事だった。
お見舞いという名の看病をしに行った日、オタク君は優愛の部屋を見てある事に気付いていた。
女性物のファッション誌が夏寄りの物が多いという事だ。
優愛が開放的な格好を好むのは、別に露出願望があるわけではない。いや、あるかもしれないがそれは置いておこう。
優愛は冬服についてあまり調べていないので、変な物を買ってダサくなるのを恐れ、つい今までの服を着ちゃっているからなのではないかとオタク君は推理した。
「冬物かぁ……」
実際にオタク君の推理は当たっていた。
新しい物を恐れるあまり、今までの服装を選んでしまっていた優愛。
なので、オタク君の誘いとはいえ、あまり気乗りしない様子だ。
「優愛さん、今のままだと季節感のない格好ですよ。それってダサくないですか?」
オタク君。正論である。
優愛自身もそれは薄々感じていた。
でも、この格好自体は可愛いし。そう思う事でなんとか自分自身を誤魔化していた。
しかし、オタク君の指摘により、自分への言い訳がかなり苦しくなるのを感じる優愛。
「そんな事なくない?」
やや震える声で周りをちらっと見ると、明らかに自分を見ていた視線がサッと逸らされる。
クラスメイト達がオタク君と優愛を見ていたのは、2人のいちゃつく様子を見ていただけで、優愛が逆に見て来たので目を逸らしただけだ。
優愛にはその行動が、ダサいと影で笑われているという疑心暗鬼に陥ってしまう。
「うん。そうだね。いい加減この格好寒いと思ってたし、一緒に服買いに行こう!」
しかし、そのおかげで優愛を説得する事に成功したようだ。
「はい。僕も冬物欲しかったので、一緒に選んで貰えると助かります」
「オッケー、任せなさい!」
(あれ、これってオタク君とデートじゃね!?)
それじゃと手を上げて、颯爽と教室を出て行くオタク君。見事なプレイボーイっぷりである。
対して優愛は、湯気がボンッと出そうな程顔を真っ赤にして「またね」と見送った。
買い物当日。
駅構内にある大時計の前で待ち合わせをしていたオタク君。
「所でオタク君。どういう事かな?」
待ち合わせ時間前に、既に優愛は来ていた。
リコも来ていた、なんなら村田姉妹も来ていた。
「えっ、冬服を買いに行くんですよね?」
優愛の他を圧倒するような笑顔にたじろぎながらも、返事をするオタク君。
優愛の隣で、リコも同じような笑顔をしている。
「うん。そうだね」
「あの……怒ってます?」
「ううん。怒ってないよ? なんで?」
なんでと言いたいのはオタク君の方だろう。
ニコニコとしている優愛とリコだが、明らかに怒っている。
別に時間を間違えたわけでも、遅れたわけでもないというのに。
では、何故怒っているのか?
話は優愛を誘った二日前に遡る。
二日前。
「リコさん。冬服買いに行くので、一緒に選んで貰えませんか?」
自分の教室を出たオタク君は、リコのクラスまで行き、リコを誘いに来ていた。
教室にはまだ他の生徒が居るというのに、大胆なデートの誘いである。
いや、オタク君にとってはデートの誘いではない。いつも通り優愛を誘って一緒に買い物に行かないかと誘ってるだけだ。
だが、肝心の「優愛の冬服」という主語が抜けている。
「えっ、一緒にってアタシをか!?」
思わず大声で聞き返すリコに対し、オタク君がキョトンとした表情を浮かべる。
「そうですよ。リコさん以外(誘う相手がこの教室に)居ないじゃないですか」
普段の気弱なオタク君と違い、ぐいぐいと来る様子にリコは顔を赤らめる。
そっぽを向き、髪をくるくると指で絡めながら考える振りをする事数秒。ちょっとだけ余韻に浸っているようだ。
「そ、そうだな。どうしてもって言うなら付き合ってやっても良いけど。何時にどこ行けば良い?」
「それでは朝10時に駅の大時計前で」
「分かった」
(小田倉とデートか……)
それではと言って、リコの教室を出るオタク君。
オタク君が居なくなった後に、リコの友人がからかうように話しかけ、満更でもない様子で対応するリコだった。
その後、オタク君は自分の教室に一度戻り、帰り支度をしている優愛に時間と場所を伝えてから帰って行った。
せめてラ●ングループでもう一度確認の連絡を入れるなどすれば、優愛とリコの態度も変わっていただろう。
オタク君、やらかしである。
「そうだ。村田さんも優愛さんみたいな格好して風邪ひいていたし、誘った方が良いかな」
以前図書館でキャンプの話で盛り上がった際に、連絡先を交換していたオタク君。
優愛とリコだけでなく、村田姉妹も誘う事にしたようだ。
オタク君、完全にやらかしである。
そして、今に至る。
オタク君の態度と、現在の状況を見て、デートでなく普通に買い物に誘われていたのだと理解する優愛とリコ。
だが、優愛とリコはこれ以上オタク君を責める事は出来なかった。
あまり下手な事をすれば「自分だけがデートに誘われた」と思い浮かれてたことがバレてしまうからだ。
「ほら、オタク君早く行こう」
「小田倉、突っ立ってないで行くぞ」
優愛とリコ、それぞれがオタク君の手を引いて歩き出す。
一瞬もつれながら、引っ張られるように歩き始めるオタク君。
突然不機嫌そうに笑ったと思えば、いきなり手を引いて歩き始める優愛とリコ。
オタク君の頭には「?」が何個も浮かんでいるのであった。
(お姉ちゃん、これどういう事なの?)
(小田倉君の事だから、別々に誘ってデートと勘違いされたんじゃね?)
(流石にそこまでベタな事やらないっしょ)
(確かに)
村田(姉)実際はビンゴである。
とはいえ、オタク君と出かける事自体は楽しみだった優愛とリコ。
なんだかんだで楽しく買い物をして、全員良い感じの冬服を買うことが出来たのであった。
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