第45話「そうだ。リコさん、ちょっとこれ試してみませんか?」
ハロウィン当日。
優愛の家で出前を取り、オタク君、優愛、リコはハロウィンの衣装に着替えていた。
「ヤバッ、これマジであのださい衣装なの?」
優愛が来ている衣装は、上下黒のビスチェに近い服に、ひらひらのミニスカートである。
元は大釜を煮込む魔女のような衣装だったが、優愛の「可愛くて動きやすい服」というオーダーに合わせ手直ししたものだ。
全体的にカットをして露出を増やしたが、胸元は完全に隠され。
ミニのスカートも、下から縦縞のストライプ柄ストッキングを履かせ実際はそこまで露出が大きく見えない。
更に上からマントを羽織らせているので、露出した肌は、動いていないとあまり見えない感じになっている。
「これ凄く可愛くない!? ってかストッキングとマントいらなくね?」
早速その場で脱ごうとし始める優愛の手を、オタク君とリコが掴み制止する。
「いえ、必要です」
「無いと優愛が捕まるだけだよ」
優愛としては軽い冗談のつもりだったが、オタク君とリコはマジと受け取っていたようだ。
もし警察に捕まれば、自分たちも同じように取り調べを受け、親や学校に連絡がいくだろう。
そうなれば恥ずかしいというレベルでは済まない。
「むぅ……東京のハロウィンとかでは普通なのに」
あちらは規模が大きすぎて、警察の手が回らないといった感じだろう。
仕方がないといった様子で、ストッキングとマントを脱ぐのは諦めたようだ。
ブツブツ言いながらも、優愛は鏡の前でポーズを取ったり写真を撮ったりしている辺り、それでも気に入ってはいるようだ。
「オタク君のそれは、暑くないの?」
「ちょっと暑いですね」
オタク君。無地のTシャツと半ズボンを穿いて、露出してる肌を包帯でぐるぐる巻きにしている。
いわゆるミイラ男である。10月の終わりと言えども、気温はまだ20度を超える。
流石に暑いのか、今は包帯を外している。
「子供たちが出てくるのは夜ですから、それまでには涼しくなると思いますよ」
「それもそっか」
「はい。リコさんの方はどうです? 何か不都合とかありません?」
「いや、大丈夫だ」
リコはというと、可愛らしいひらひらした白いブラウスに、ゴシック調の黒いスカート。
頭には悪魔の羽を模したカチューシャを付けたドラキュラである。
いや、正しくはゲームに出てくるドラキュラをモチーフにしたキャラのコスプレである。
『キミをカプっとして眷属にしちゃうゾ』が口癖の、人気キャラである。
何故コスプレにしたか。
それは以前オタク君がリコと今度コスプレをする約束を取り付けたが、やるとしても来年の7月。
長い、流石に長すぎる。
なので、今回のハロウィンは良い機会であった。
言ってしまえば仮装もコスプレの一種。なのでリコにコスプレをさせるチャンスだった。
だが、明らかなコスプレだと批判を浴びるかもしれない。考えた結果、この衣装にたどり着いた。
この衣装なら見る人から見たらゲームのキャラのコスプレだと分かるが、一般人から見たらドラキュラっぽい格好だ。
露出も少ないので、最初はコスプレすると言われ反対していたリコも、オタク君の説得を大人しく聞き入れた。
なんだかんだ言いながら、実はリコが好きなキャラなので興味があったというのもあるが。
そしてリコが好きなキャラだと分かった上でオタク君は提案したのだから、策士である。
「リコはずいぶん可愛い格好してるじゃん。こういうのってゴスロリって言うんでしょ? それともリコだからロリロリ?」
「ぶっ飛ばすよ!」
「まぁまぁ、優愛さん、ゴスロリじゃないですよ」
フリルやレース等が少ないとはいえ、リコの衣装は限りなくゴスロリに近いだろう。
だがそう言うとリコが嫌な顔をして、優愛がそれを弄りめんどくさい事になりそうなので、あえて否定するオタク君。
プンスカと言った様子で怒るリコを、優愛は写真に収め始める。
「ちょっ、何勝手に撮ってるんだ」
「せっかく可愛くなってるんだから、ちょっとくらい良いじゃん」
「おい、暑苦しいから引っ付くな!」
「オタク君、ほらほらツーショット撮ってよ」
引きはがそうとするリコだが、体格差もあって抵抗できないでいる。
身長差約30センチ。もはや大人と子供である。
「あーもう、分かったから一旦放せ。ってか変な所触るな!」
オタク君。カメラを構えながらも顔は真横を向いている。
目の前で繰り広げられる壮絶な百合合戦。組んず解れつな2人のあられもない姿に思わず目を逸らしてしまったのである。
紳士と言うべきか、ヘタレと言うべきか。
「おい小田倉。見たか!?」
「いいえ。見てません!」
オタク君が横を向いている理由を察し、スカートを抑えるリコ。
優愛も顔を赤くしてスカートを抑えている辺り、今日は見られたら恥ずかしい下着だったようだ。
見てませんというオタク君だが、横を向いているという事は見えていたのだろう。
リコは諦めて、優愛と写真を撮る事にしたようだ。
せっかくの衣装が、こんな事で破れたりしては台無しだ。
それに、初めてのコスプレ。写真を撮られる事自体は嫌ではない。
素直な性格ではない。
そんなリコに絡む優愛も、リコが可愛くて仕方ないからついからかってしまうのだ。
普通に「一緒に写真を撮ろう」と言えば良いだけの物を、随分と回りくどい。
こちらもこちらで、素直な性格ではないのである。
携帯を構え、カメラマンと化したオタク君。
次々と優愛とリコの写真を収めていく。
不意に、携帯のアラームが鳴り始める。
「そろそろ時間みたいですね。行きましょうか」
「うん」
「そうだな」
玄関に向かうオタク君達。
それぞれ手にはバスケットを持ち、中にはたくさんのお菓子が詰められている。
「そうだ。リコさん、ちょっとこれ試してみませんか?」
「ん? 試す?」
事前にオタク君と優愛は相談していた。
リコの身長が低いため、もしかしたら警察に呼び止められるかもしれない事を。
近所の子供なら、町内会のハロウィンだと知っているから問題はないが、リコはこの辺りの人間ではない。
一応学生証を出せば、オタク君達と同じ高校生だと分かってもらえるだろうが、リコは良い顔をしないだろう。
なので、オタク君はこの日の為に母親からある物を借りて来た。
ごそごそと紙袋から何かを取り出すオタク君。
「はい、厚底ブーツです」
オタク君が取り出したのは、靴底が約20センチもあるブーツ。
そう、90年代のギャルに爆発的にヒットした厚底ブーツである。
かつてオタク君の母親がギャルだった時に履いていた物だ。
「お、おう」
その圧倒的なデザインに引き気味のリコであるが、オタク君の手を借りて片方づつ履いていく。
どうやら足のサイズは、ピッタリだったようだ。
「お、おお!」
普段よりも視界が20センチ高くなったリコ。
オタク君は無理でも、優愛には上を向かずに目を合わせる事が出来る。
「これ、良いな!」
興奮気味に歩き出そうとするリコ。
「あ、危ないです」
「うおっ」
転びそうになったリコを、抱きしめるように捕まえるオタク君。
「ゆっくり歩かないと危ないですよ」
「そ、そうだな」
オタク君に抱き着くように捕まりながら、ゆっくりと歩くリコ。
いや、ずずず、ずずずと歩くというよりは引くずると言った様子だ。
リコが履いている厚底ブーツのそこは少し擦り切れているので、当時のギャルも歩くというよりは引きずって居たのだろう。
「お、小田倉。離すなよ。絶対に離すなよ」
「えっと、この靴、やっぱり辞めておきます?」
「大丈夫だ。すぐ慣れるから!」
例え歩きづらく危険であっても、せっかく手に入れた20センチ。
リコにとっては夢の靴なのだ。手放す気は更々ない。
オタク君に捕まりながら、ゆっくりと引きずるように歩くリコ。
危なっかしい足取りで、時折
そんな2人の様子を、優愛は頬を膨らませながら見ていた。
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