第44話「ところでさ、このハロウィンの衣装ダサくね?」
10月の終わり頃。
日本各地で、市民権を得たお祭りが開催される。
そう。ハロウィンである。
かつてはネットゲーム等のイベントに過ぎなかったハロウィンだが、近年になり急激にその知名度を伸ばした。
今では知らない者の方が少ない、クリスマスやバレンタインに匹敵するほどのイベントになっている。
『トリック・オア・トリート』
とりあえず子供が仮装してそう言えば、仮装した大人がお菓子をくれる。その程度の認知ではあるが。
なので、町内会で大人たちが仮装し、子供たちにお菓子を与えるイベントを開催している自治体は少なくはない。
「というわけで優愛、お父さんとお母さんは仕事で居ないから代わりに出てくれないか」
「えー、急すぎない?」
「急に仕事が入ったのよ。ごめんね」
どうやら優愛の家は、そのイベントがある地区のようだ。
両親の都合で家を空ける事が多い鳴海家。
町内会で持ち回りでやる仕事にはあまり出られないため、出来る限り参加はしているのだが、今回も両親は出られないようだ。
とはいえ、仮装して子供にお菓子を配るだけのイベントだ。
なので、リビングでダラダラとTVを見ていた優愛に、代わりに出てもらうようにお願いをしている最中である。
「その代わりほら、お小遣いあげるから」
「えっマジ? じゃあやるやる!」
交渉は成立のようだ。
優愛の父が財布から5千円を取り出し優愛に手渡すと、小躍りしながら優愛が受け取る。
その様子に両親が微笑む。娘に対しての愛情だろう。
「でも、暗くなってからやるんでしょう? 大丈夫かしら」
「確かに、年頃の娘一人に行かせるのは心配だね」
頼んでおいて、不安になる両親。
治安が悪いわけではないが、やはり年頃の娘1人で夜で歩かせるのは危険である。
不安そうな両親を見て、優愛は思った。
(やっぱ無しと言われたら、お小遣い取り上げられるじゃん)
「そうだ! じゃあオタク君も誘ってみるのはどう?」
「オタク君?」
父親の頬がピクリと動く。
そして、パッと笑顔になる。
「そうか。オタク君が一緒なら安心だな!」
「そうねアナタ。それじゃあ私からオタク君にお願い出来るか聞いておきます」
「良いよ。私がお願いするから。ってかお母さんが言うとか恥ずいって!」
オタク君。優愛の両親とは一度もあった事が無いが、謎の信頼感を得ている。
というのも、普段から優愛が両親にオタク君の話ばかりしているからである。
最初の頃は父親も母親もオタク君に対し警戒心を持っていた。
年頃の男女だ。間違いを犯さないとも限らないと。
しかし、半年経てども浮いた話は出て来ない。
結果、優愛の両親から無害判定を貰い、いつも優愛に良くしてくれている”ただの”友人と思われているのだ。
「オタク君はOKだって。ついでにリコも来るってさ」
「そうかそうか。じゃあ当日は家でゆっくりして貰いなさい」
「オタク君とリコちゃんが夜ご飯をウチで食べて行くなら、お金を置いて行くから出前でも取りなさい」
「はーい」
こうして、鳴海家の両親の代わりにハロウィンに出る事になったオタク君、優愛。リコ。
「ところでさ、このハロウィンの衣装ダサくね?」
翌日、ハロウィンの為のお菓子選びと衣装選びの為に鳴海家に出向いたオタク君とリコ。
2人に自分用に用意された衣装を手に持って見せる優愛。
ハロウィンらしい魔法使いのような衣装なのだが、セクシーというよりは、大釜をオールでかき混ぜている魔女のような衣装だ。
子供にお菓子を配るのだから、露出は少ない方が良い。
そういう意味では、優愛の両親が選んだ衣装は間違っていないだろう。
「子供たちにお菓子を配るわけですし」
「優愛は普段露出狂してるんだから、それで帳尻合わせろって事だよ」
「おっ? リコ喧嘩か? 受けて立つぞ!」
「小田倉はどんな仮装するんだ?」
「うわーん。オタク君リコが言葉の暴力でイジメてくる。物理の暴力で一緒にやり返そう」
「まぁまぁ、優愛さん落ち着いてください」
衣装を投げ捨て、泣きついてくる優愛にオタク君が苦笑いをする。
リコさんもその辺にしてと言うオタク君に、わかったよとリコが答える。
「僕はミイラ男ですね」
「あー、私もそれやりたい。全身包帯でグルグルとか面白そうじゃね?」
秒でオタク君とリコから却下される優愛。
2人の脳内では、全裸で包帯を巻いた優愛がギリギリな格好をしていた。
そんな恰好をしていれば、お菓子の人ではなく、おかしい人に認定されるだろう。主におまわりさんに。
「ミイラって言っても、僕は服を着て、素肌が見える部分だけ包帯を巻くだけですし」
「そうなんだ。裸じゃないのか」
「捕まるっつうの」
イベントの時期はイベントにかこつけて不審者も出没しやすい。
その為警察も目を光らせているのだ。なので流石に危ない格好は出来ない。
「で、リコはどんな格好するのさ?」
「アタシはその、ドラキュラかな」
「ふーん」
聞いてみたが、思ったよりも普通の格好で思わずそっけない返事をしてしまう優愛。
ハロウィンなのだから普通なのは当然である。
まぁ、仮装と聞いてコスプレで参加する者も少なくはないが。
「オタク君、これ何とか出来ない?」
「そうですね。多少改造するくらいなら出来ますけど」
「えっ、マジで!?」
「リコさんにも頼まれているので、ついでにやりましょうか?」
「うんうん。そうだ、お父さんから衣装とか配るお菓子の分でお金貰ってるから、それ使って良いよ」
「いや、流石にそのお金はちょっと」
「えっとね。お金貰う時に『来年もよろしく』ってオタク君に言ってたよ」
「あはは」
「小田倉、貰っとけ」
優愛の両親、早速来年の契約まで取り付けるつもりのようだ。
優愛のどこか図太い性格は、どうやら親譲りのようだ。
「それじゃあ、明日放課後空いてますか?」
「うん」
「空いてるよ」
「衣装作りの材料と、配るお菓子を何にするか選びに行きましょうか」
翌日、材料を買いそろえ、配るお菓子を決めたオタク君達。
衣装も無事出来上がり、ハロウィン当日を迎えた。
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