第42話「ごめん。待った?」

 優愛をデートに誘った日の夜。


(日曜は優愛さんとデートか……デート!?)


 オタク君、寝る前になって事の大きさを理解したようだ。


(僕なんかが優愛さんとデートなんてして良いのか?)


 良いも何も、優愛がOKを出したのだから何も問題がないだろう。

 その後もベッドの上でゴロゴロしながら考え込むオタク君。


(そもそも、デートって何をすれば良いんだ?)


 女の子と付き合った事も無ければ、優愛達と出会う前は一緒に遊んだこともないオタク君。

 ベッドから出るとパソコンを立ち上げ、おもむろに検索を始める。

 勿論、検索内容はデートについてだ。

 

 だが、いくらネットを検索しても、オタク君が納得できるような答えは出て来ない。

 そして、時だけが過ぎて行った。


(どうしよう……そうだ!)



 一方その頃。

 

(ヤバイ。オタク君がデートに誘ってくれた)


 優愛も優愛で大変な事になっていた。

 デートに誘われ、ふわふわした気分で浮かれていた優愛。

 しかし、時間が経つにつれIQが戻って来る。戻ったIQは彼女に冷静な思考をもたらす。


(そもそも、デートって何をすれば良いの?)


 彼氏が出来た事が無い優愛は、当然デートをした事が無い。

 慌ててタンスを開け、服を漁り始める。


(オタク君って、どんな格好で行ったら喜ぶだろう?)


 いつものギャル系から、前にオタク君に選んでもらった清楚系の服まで色々試してみるが、答えは出て来ない。

 無為に時間だけが過ぎて行く。


(マジヤバい……そうだ!)



 携帯の画面を見てため息を吐くリコ。


「2人揃って、こんな時間にメッセージ送って来るなって」


 深夜1時過ぎの出来事であった。

 そもそも、まだ週の中日なかび

 デートは2日以上先の話だ。


「ったく、別に小田倉と優愛がどんなデートしようがアタシには関係ないし」


 翌日。

 3人揃って、目の下にはクマが出来ていた。

 今からこれでは先が思いやられる。



 デート当日。

 待ち合わせは、午前10時。駅にある大時計前。

 だというのに、オタク君は1時間以上前に着いていた。


 優愛とリコに選んでもらった服上下に、リコから誕生日プレゼントで貰った靴。

 そして、優愛から誕生日プレゼントに貰った香水をつけている。

 フルアーマーオタク君である。


 何度も携帯を見てはキョロキョロしてしまう以外は、完全に風景に溶け込んだ一般人になっている。

 到着した事をメッセージで送るか悩むオタク君。


(流石に早過ぎるから、メッセージを送るのはもう少ししてからにした方が良いよな)


 何度目かの葛藤の末、ラ●ン画面を閉じた時だった。


「おーい、オタク君!」


「あれ、優愛さん?」


 遠くからオタク君を見つけ、走ってくる優愛の姿があった。

 優愛はいつも通りの開放的な服装である。


「ごめん。待った?」


「いえ、今来た所ですよ」


 使い古されたような会話である。

 オタク君の元まで来た優愛が「お待たせ」と言いながら笑う。

 釣られるようにオタク君も笑顔になる。


「待ち合わせまでまだ1時間はありますけど」


「あー、道が空いてて、電車も丁度来たりして早く着いたんだけど、オタク君は?」


「僕もそんな感じですね」


 お互い早く着いたのは偶然という事にしたいようだ。

 しかし、これ以上下手に喋ればボロが出かねない。


「それじゃ、早いけど行きましょうか」


「うん。デートはどこから行く?」


 自分からデートと言う単語を出しておきながら、言った直後に真っ赤になる優愛。

 デートと言う単語に、一瞬心臓が跳ねたかと思うほどドキっとするオタク君。

 そのまま2人して目を逸らし、もじもじしてしまう。


(今日は優愛さんの誕生日なんだ。男らしくリードしなきゃ!)  


「そ、そうだ。優愛さんは朝食はもう済ませました?」


 顔を真っ赤にしながらも、オタク君がリードの姿勢を見せる。


「あー、まだかな」


「僕もまだなので、とりあえず喫茶店でモーニングでも食べに行きましょうか」


「オッケー」


 ここは優愛の手を引き、男らしく行くところであるが、オタク君そこまで勇気が出なかったようだ。

 とはいえ、まずは及第点だろう。2人は駅構内にある喫茶店のチェーンに入って行った。


 そんな2人を追うように、少女が後をつけて行く。

 カラフルでポップな上着とスカート。いわゆる女児服を着た少女。

 道行く人よりも一回り小さい少女は、ぱっと見では小学生にしか見えない。

 いや、ちゃんと見ても小学生にしか見えないだろう。


 少女の正体は、2人にバレないように変装したリコである。

 わざわざ5年以上前の服を持ち出し、髪型もちょんぼのようなツインテールにする徹底ぶりだ。

 

(あいつらがどんなデートしてるか、冷やかしで見に来ただけだし)


 そんな風に自分に言い訳をしながら追跡を開始するリコ。


 そして女児化したリコを、サングラスにマスクをした怪しい格好の2人組が遠巻きに見守っている。

 リコのクラスメイトの友人である。


「瑠璃子のアレヤバくね?」


「あれは瑠璃子だってガチで分かんなかったわ。ヤバいってレベルじゃないっしょ」


 コッソリオタク君を見に来た友人2人組だが、リコの姿に驚き、オタク君よりもリコを見ている。  


「ってか、あんなの男子が見たら、ロリコンに目覚める奴出るんじゃね?」


「いや、既に出てるし。瑠璃子って結構告白されてるよ」


「マジ? ヤバいわ」


「ヤバいのは同意するけど、今はアンタのがヤバイって」


 アンタのがヤバイと言われた少女は、携帯をカメラモードにしてリコを連写している。

 本人は記念撮影と言っているが、明らかにカシャカシャと撮り過ぎである。


「キミたち、ちょっと良いかな?」


 そんな怪しい2人組が遠巻きに女児の写真を撮っていれば、警察が寄ってくるのは当然である。

 自分たちは怪しい者じゃないと言うが、取り合ってもらえるわけも無く連行されていくリコの友人達。


 その様子を遠巻きに見ている2人組が居た。

 村田姉妹である。


「ヤバッ、なんか既に面白い事になってるんですけど」


「小田倉君見るどころじゃ無くなってるんだけど」


 もはや状況はカオスである。

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