第41話「優愛さん、今週誕生日でしたよね」
時刻は午後1時。
4時限目の授業が終わり、リコが仲の良いグループと昼食を取ろうとしている時だった。
挙動不審気味にキョロキョロしたオタク君が、リコのクラスに入って来たのだ。
堂々としていれば目立つ事は無いのに、これでは何かするから見てくださいと言っているようなものである。
リコと一緒に昼食を取ってた女の子が声を上げる。
「瑠璃子ならここだよー」
「あっ、どうも」
注目を集めながら、オタク君がリコの元へ歩いて行く。
近づいてくるオタク君を見て、くすくすと笑いながら、何やら女生徒がリコに話しかけている。
その態度がリコを苛立たせているのだが、女生徒たちはそれを面白がっているようだ。
馬鹿にするというよりも、怒った姿も可愛いといった感じだ。愛玩動物のような扱いである。
「で、何のようだ?」
「何々? 瑠璃子に告白?」
「うるさい!」
リコの一喝に「おー怖い怖い」と言いながらも、女生徒たちはニヤニヤしている。
そんな女生徒たちの態度はスルーしながら、ギロリとオタク君を睨みつけるリコ。
「えっと、ですね」
頬をポリポリ掻き、目線が泳ぐオタク君。完全に委縮しているようだ。
そんなオタク君を見て、リコはため息をつく。
「それで、どうしたんだ?」
「実はリコさんに折り入って相談があるのですが」
リコが態度を軟化させると、やっとオタク君が話を切り出した。
クラスメイトが聞こえるようなコソコソ声で「告白?」と言ってるが、リコはあえて聞こえない振りである。
オタク君が神妙な面持ちで口を開いた。
「優愛さんの誕生日プレゼント、何を買ったら良いか分からなくて」
「なんじゃそりゃ!!!」
思わず叫ぶリコのクラスメイト。
まぁ、確かにオタク君の態度を見れば告白に思われても仕方がない。
リコと一緒に昼食を取っていた女生徒たちは思わず噴き出した。
「良いじゃない、相談に乗ってあげなよ」
女生徒がゲラゲラ笑いながら、リコの背中をバンバン叩く。
完全に気が抜けたのか、リコ、されるがままである。
「なのでリコさんに、何が良いかアドバイスを貰おうと思って」
リコはオタク君を見向きもせず昼食を再開し始めた。
「あーそうか。じゃあ優愛をデートにでも誘って、欲しいものが無いか聞いて来い」
「そんな、デートって……」
リコ、完全に投げやり対応である。
対してオタク君は、顔を真っ赤にしながら「僕がデートに誘うなんて」と言いながらあたふたしている。
まぁ自己評価が低くなくても、付き合っていない女の子をいきなりデートに誘うのは難易度が高い。
オタク君があたふたするのも、仕方がない事である。
そんなリコの対応を見て、女生徒たちが笑いながらオタク君に話しかける。
「良いじゃん、デート誘いなよ」
「えっ」
面識のない女の子と話すのはまだ苦手なオタク君。
完全に気圧された様子に「別に取って食わないから」と笑いながら女生徒は話を続ける。
「貰っても微妙な物って受け取る側も気を使っちゃうからさ、デートして一緒に見て決めれば良いじゃん」
「いや、でも」
「優愛って子、彼氏でも居るの?」
「居ないですけど」
「じゃあ良いじゃん。私も彼氏いないから、友達の男の子に「誕プレ選ばない?」ってデート誘ってもらったりするよ」
「そうなんですか?」
「明らかに下心満々だったら流石に断るけどね。そういうの誘ってもらえるだけでも嬉しいものだよ」
「そ、そうなんですか?」
「アタシに聞くな。自分で考えてくれ」
腕を組み、うんうんと悩む事数秒。
「そうですね。リコさんの友達の……えっと」
「お礼は良いから早く行きなよ」
「あっはい。ありがとうございました」
お礼は良いからと言われているのに、律儀に頭を下げてお礼を言うオタク君。
それではと言って、教室を出ていくオタク君。
オタク君が教室から出ていくのを見送った後、女生徒たちがニヤニヤしながらリコに話しかける。
「リコさん、ねぇ」
「な、なんだよ」
「べつにぃ。そういえば瑠璃子誕生日2月だっけ? 楽しみだね」
「はぁ、意味わかんないし!」
興味ありませんといわんばかりに、食事を再開するリコ。
リコの耳が真っ赤になっているのは、弄られた事に対し怒っているからという事にしておこう。
(デートがなんだってんだ。アタシだって、小田倉と2人で映画に行ったし)
謎の対抗意識を持つリコ。
直後、オタク君に頭を撫でられた事を思い出し、顔まで赤くなったリコを女生徒たちがからかったのは言うまでもない。
教室に戻ったオタク君。教室に居る生徒はまばらだ。
というのも、昼休憩の時間も半分が過ぎ、次の授業は移動教室のため昼食を終えた生徒は次の教室に向かったようだ。
食べるのが速い男子生徒は殆どが教室に居らず、女生徒が数人居る程度だ。
その中に優愛が居た。昼食を終え村田姉妹と雑談に花を咲かせている最中のようだ。
優愛のマシンガントークに付き合っていたためか、村田姉妹の弁当はまだ半分近く残ったままだ。
絶好のチャンスである。放課後に人が居なくなるのを待つつもりだったオタク君だが、ここで勝負を仕掛けるようだ。
「優愛さん、ちょっと良いですか?」
「ん? 何?」
気持ちが逸るオタク君。優愛の席まで小走りだ。
そんなオタク君を優愛は「どうしたの?」と言わんばかりに見ている。
「優愛さん、今週誕生日でしたよね」
「覚えてくれてたんだ! 何々? 誕生日プレゼントくれるの?」
「はい。なので今週の日曜デートしましょう」
「……は?」
優愛、思わずフリーズしてしまう。だがその言い方はヤバイ。
オタク君が真っ青になっている。完全に拒否られたと思っているからだ。
「ごめんなさい。迷惑でしたね」
「違う違う。本当に聞こえなかっただけだから。ごめんもう一回言ってくれる?」
「えっと。優愛さんの誕生日プレゼント選ぶので、日曜デートしませんか?」
オタク君。もじもじと、最後は消え入りそうな声である。
ほかっておけば、このまま小さくなって消えてしまいそうな程に。
「する!」
「えっ、良いんですか?」
「うん。良い!」
優愛の返事に、オタク君の表情がパッと明るくなる。
デートのOKの返事を貰えて喜んだわけではなく、嫌われてなかったという安堵によるものだ。
「じゃあ日曜日に、待ち合わせについては後で携帯で連絡しますね」
「日曜日、デート。分かった!」
優愛の語彙力が下がっているが大丈夫だろうか?
多分、今の彼女のIQは3か4くらいだろう。
(えっ、急に面白い事になってるんだけど!?)
(ヤバッ、小田倉マジウケる!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます