第40話「ねぇねぇオタク君」

 文化祭も体育祭も無事終わり、二日間の振り替え休日が終わった。

 この日は、文化祭で土足解禁をしたために汚れた校内を掃除をする作業で1日費やされた。


 時刻は4時を回り、掃除の作業が終わった放課後である。

 クラスに人はまばらだ。ほとんどが部活に行くか帰宅しているからだ。


「ねぇねぇオタク君」


 金髪ギャルの鳴海なるみ 優愛ゆあが、クラスメイトの男子に声をかける。

 オタク君と呼ばれた少年、小田倉おたくら 浩一こういち

 彼は鳴海優愛の友達である。そう、2人はまだ友達の段階である。


 机に座り、帰る準備をしていたオタク君。

 前の席の椅子を勝手に借りて、対面に優愛が座る。


「どうしたんですか?」


「実はさ、こういう感じでコーデ決めようと思ってるんだけどどうかな?」


 オタク君の机に雑誌を置く優愛。

 読モと呼ばれる、優愛と同じくらいの年齢の女の子達が様々な格好をして写っている。

 その中で優愛が指さしたのは、丈の長めのスカートに、清楚な感じのブラウスを着た女性だ。


 普段の優愛は露出が多い服装が多い。

 なので、肌を晒さない衣装を選びたがるのは珍しい事だった。


「良いと思いますよ。いつもとは結構違う感じですね」


「うん。私結構露出多い服多いじゃん? オタク君に、はしたないとか、ビッチとか思われてないかなって思ってさ」


 普段から胸元を強調したり、露出が多いので、はしたないは今更である。

 だが、ビッチと思うようなオタク君ではない。


「そんな事ないと思いますよ。普段の服装も露出は多いと思いますけど、優愛さんに似合ってますし」


「マジで?」


「はい、マジですよ」


「そ、それじゃあいつも通りの服とか買おうかな」


 オタク君にストレートに褒められ、少し照れる優愛。

 照れ隠しに雑誌をめくっては「この服どうよ?」と問いかける。 


「あれ、付け爪少しボロボロですね」 


 優愛が付けているのは、初めてオタク君からもらった付け爪だ。

 ちらっと見た程度では分からないが、よく見ると付け爪は所々塗装が剥げて来ている。

 

「あー、ごめん。大事に使ってたつもりなんだけどさ」


「いえいえ、それだけ優愛さんが気に入ってくれたのなら、また同じのを作りましょうか?」


 申し訳なさそうにする優愛。

 だが、オタク君としてはプレゼントした品をそれだけ使ってもらえたというのは、素直に嬉しかったりする。


「えっ、良いの!?」


「はい、良いですよ」


「それなら家に付け爪の予備あるからさ、持って行ってよ」


「良いんですか?」


「全然良いって。だって私がお願いする側なのに、オタク君にお金出させるわけにはいかないっしょ」


「そうですか、それではお言葉に甘えて。優愛さんの家に寄って行きますか」


 どうやらオタク君は帰る準備が出来たようだ。 

 オタク君が立ち上がると、優愛も雑誌をカバンに仕舞い立ち上がった。


「そうだ、オタク君。前に買ったエクステなんだけどさ、洗ったらぼさぼさになっちゃって」


「あー、カールかかってるのは手入れが大変ですからね。ついでにエクステの手入れもしましょうか?」  


「良いの!? マジ感謝」


 オタク君、アフターサービスも完璧である。


「そうだ。ついでにちょっとやってみたい髪型があったから手伝って」


「良いですよ。そういえば新しい化粧品買ったって言ってたの、見せてもらって良いですか?」


「良いけど、見るだけで良いの?」


「試しても良いなら、優愛さんメイクの実験台になって貰って良いですか?」


「勿論。オタク君に色々して貰ってるから、それくらいお安い御用よ」


「ありがとうございます」


 やってみたかった髪型や、オタク君の試したいメイクが気になる優愛。

 ワクワクが段々と優愛を早足にし、気づけばオタク君の手を引いて走り出していた。


「そんなに急がなくても大丈夫ですよ」


 そう言いつつも、優愛がどんな顔をして喜ぶだろうと思うと、一秒でも早く試したい気持ちでいっぱいのオタク君。

 なんだかんだで駅まで走って行ったオタク君と優愛だった。

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