第39話「オタク君、部屋分けするって。こっちの部屋にしよう」
少し遅れて教室に戻ったオタク君。
既にオタク君以外は準備万全の状態だ。
「ごめん、トイレが混んでて」
適当な言い訳を混ぜた謝罪。
クラスメイトも、言うほど待っていたわけではないので、特に問題は無かった。
「カラオケの予約出来た?」
「大部屋2つ借りれたから早く行こう」
ワイワイガヤガヤと騒ぐクラスメイトの後をついて行くオタク君。
「カラオケに来てる人数、なんか少なくないですか?」
当然のように隣を歩く優愛にオタク君が話しかける。
オタク君の問いに、優愛がゲラゲラ笑いながら答える。
「それがさー聞いてよオタク君。用事があるから来れないんじゃなくて、恋人同士でどっか行っちゃったらしいんよ」
女子でありギャルである優愛にとって、この手の話は好物なのだ。
だから田所が宮本と付き合う事になって、手を繋ぎながら教室を出て行ったとか。
浅井は振られたが、池安は隣のクラスのいくのという女生徒と付き合う事になったとか。
誰が誰と付き合った、振られたの話をする優愛。
「ってかさ、ここに居るって恋人居ない負け組みたいじゃね?」
「いやいや、ここで恋人作るチャンスかもしれないじゃん?」
そんなオタク君と優愛の会話に、唐突に入って来た村田姉妹。
彼女達も優愛と同じく女子でギャルなのだから、その手の話は好物だ。
そして、その好物に更にありつけそうな気配を感じ、オタク君達に近づいてきたのだ。
「ほら、見てみ。あいつら絶対途中で抜け出すよ」
村田(妹)がコッソリ指さす方向には、皆より少し離れた場所を歩く男女が。
「はー、他の奴らは恋人と一緒に打ち上げかー」
「羨ましいわよね。そういうの体験してみたいわ」
「そうだよなーしてみたいよなー」
相変わらず恋の駆け引きをしている2人組だ。
後ほんのちょっとのきっかけで付き合えるというのに、そのほんのちょっとを踏み出せずにいる。
まぁ、どちらかが言い出すのはもう時間の問題だろう。
同じような会話を続けているのだから、お互い何となく好き合っているのも分かっているはずである。
「絶対途中で抜け出してチューするわあの二人。マジ羨ましいわ」
チューをするかどうかは分からないが、多分抜け出しはするだろう。
そんな2人の様子を見てニヤニヤする村田姉妹と優愛。
オタク君は優愛達の様子を見て苦笑い気味である。
そういうのはあまり干渉しないように、出来るだけ見て見ぬふりをした方が良いと考えているからだ。
とはいえ、他人の色恋沙汰自体は見る分には楽しいと思っているので、なんだかんだで聞きに入っている。
思春期である。
オタク君と優愛の様子を見て、村田姉妹がコッソリアイコンタクトを送りあう。
(まっ、本命は優愛達なんだけどね)
(お姉ちゃん、今がチャンスじゃね?)
(じゃあ、ちょっくらやりますか)
「あーあ、私も相手欲しいな。小田倉君、私とどうよ?」
「えっ、どうって」
「ちょっ、ここまで言わせて分からないとかウケル! 付き合わないかって意味だって」
「えっ、その」
「冗談だって、真面目に受け取んなし」
唐突の村田姉からの付き合わないか発言に、思わず動揺するオタク君。
冗談に本気になるなと言って、笑いながらオタク君の背中をバンバンと叩く村田姉。
オタク君をからかっているように見えるが、本命は別にある。
「もうオタク君からかったら可哀そうでしょ。マジ怒るよ」
頬を膨らませ、ぷんすかと言った表情の優愛。
その様子を見て、村田姉妹が小悪魔の表情になる。
「でも小田倉君さ、ムキムキだし色々器用だから割と女子がほっとかなくね?」
「分かる。女子物選ぶセンスあるから、プレゼントとかされたらイチコロじゃん」
「有りか無しかで言ったら、めっちゃ有り寄りだよね」
「クラスの女子も小田倉君狙ってるの居るんじゃね? カラオケの最中にコッソリ告白されたりして」
村田姉妹による、オタク君ベタ褒めである。
褒められ慣れてないオタク君は、ただ苦笑いで「そんな事ないですよ」と言うばかりである。
「オタク君、部屋分けするって。こっちの部屋にしよう」
村田姉妹から引き離すようにオタク君の手を引き、カラオケルームに入って行く優愛。
女子が少ない方を選んだ辺り、村田姉妹の言葉は大分効いているようだ。
部屋に入り、ソファーに座るオタク君と優愛。
座るついでに、優愛はオタク君との距離を詰める。肩がピッタリくっつくくらいに。
(優愛大胆じゃん)
(マジで楽しい事になって来たんだけど)
完全に村田姉妹のおもちゃである。
「小田倉君、隣失礼しますね」
オタク君の右隣に優愛が、そして左隣にはいつの間にか委員長が座っていた。
ぎゅうぎゅうと挟まれる形になったオタク君。
この日、カラオケの最中優愛がオタク君にぴったりくっついて離れなかったのは言うまでもない。
ちなみに恋の駆け引きをしていた2人は、いつの間にか居なくなっていたそうだ。
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