第27話「……私オタク君の事好きかもしれない」
夜、オタク君は自分のベッドで横になりながら今日の文化祭準備の事を思い出していた。
「文化祭の準備をしている時の優愛さん、なんだか不機嫌だったな」
優愛が唐突にどこかへ行こうと提案してくるのは、今に始まった事ではない。
だが断られて、あからさまに不機嫌そうな顔をする事は今までなかった。
「もしかして」
そう、オタク君は鈍感だが、気遣いが出来ないわけではない。
「夏っぽい事をまだしてないから、何か夏っぽい事をしたくて堪らないんだな!」
なので、結論が斜め上に行ってしまうのは当然である。
「そうだな、夏っぽい事……そうだ」
オタク君は携帯を取り出し、ラ●ングループの画面を出した。
優愛とリコが居るグループだ。
『明日の夜、優愛さんの家の近くの公園で花火しませんか?』
『ごめん、アタシは親戚来てるから無理』
『やるやる! 何時からやる!? ロケット花火は何発打ち込む!?」
「ははっ、ロケット花火って。優愛さんらしいな」
携帯の画面を見つめ、苦笑するオタク君。
『ロケット花火は近所から苦情がきそうなので、あまり音が出ないモノにしましょう』
音もそうだが、飛んでいった残骸を探し片付けるのも大変なので、その辺を考慮してだろう。
『オッケー。花火はもう買ってある? 無いなら明日一緒に買い物しようよ』
『良いですよ。では文化祭の準備が終わったら行きましょうか』
『うん。超楽しみ!』
オタク君の勘違いではあるが、結果優愛の機嫌が直ったのでヨシとしよう。
翌日の文化祭準備では、「オタク君オタク君」と言ってオタク君の後をついて回り、一緒に仕事をしている優愛の姿があった。
「ってか花火買いすぎじゃね? 2人で3袋ってどんだけやる気よ」
「流石に多いですよね。半分くらいに分けて、残りは今度リコさんも誘って3人でやりましょうか」
帰り道、2人は山盛りに入った袋をオタク君が2つ、優愛が1つ持っていた。
最初は手に持つタイプが何種類か入った物を選んでいたのだが、優愛が打ち上げ花火を見始めてから流れが変わってしまった。
打ち上げ花火をキラキラした目で見るのは優愛だけではない。オタク君もだった。打ち上げ花火に興奮しない男の子はいない。仕方のない事である。
気づけばあれもこれもと買ってしまう始末だ。
「だね。ってかこれ殆ど打ち上げ花火なのウケる!」
「まぁ、かさばりますからね」
事前に外で夕食を済ませる事を家族に伝えてあるオタク君。
夏は暗くなるのが遅い、なので先に食事を済ませておかないと空腹で花火をする事になってしまう。
なので優愛の家にお邪魔して、夕飯を頂く事にした。
ファミレスに行く予定だったが、花火で思った以上に出費してしまったので自炊である。
「ゆ、優愛さん、僕が夕飯作りますね!」
「えっ、マジで!? 私あまり得意じゃないから助かる」
料理を作ると言って包丁を両手持ちで出て来た優愛に、オタク君マジビビリである。
いや、普通に考えれば誰でも怖いだろう。傍から見ればオタク君危機一髪でしかない。
作ったのは冷蔵庫にあった冷や飯と卵、豚肉を炒めたチャーハン。
オタク君は凝った物を作れなくもないが、今日のメインは花火である。
なのでさっと作れてさっと食べれる物がベストだ。
「行きましょうか」
「うん。どれ持って行こうかな」
選び抜いた花火を持ち、公園までやって来た。
花火をして楽しんでいる家族が見える。
「あれ? 家族連れの人は居なくなったのかな?」
「こっちが準備してる間に帰っちゃったね」
多分、若いカップルに配慮してだろう。
もしかしたら子供に見せられないような事をすると思われたのかもしれない。
「それじゃあ、始めようか」
「うん」
花火に火をつける為のろうそくと、燃え殻入れの為の水が入ったバケツを置いて準備完了。
2人はそれぞれ手に持った花火に火をつける。
「オタク君見て見て、綺麗っしょ」
「おぉ、じゃあ僕も負けずに」
2人して両手に花火を持って、ぐるぐると無邪気に回す。
回すたびに放物線上に軌跡を描き、美しい円を描く。
「オタク君、線香花火対決しよう」
「良いでしょう。受けて立ちますよ」
「よーし、オラオラ、食らえ」
「そんなプラプラさせたら自分のが落ちちゃいますよ」
「その前に叩き落としてやる、オラオラ……あっ」
線香花火をブラブラと揺らし、オタク君の線香花火に攻撃する優愛。
そんな事をすれば、さっさと落ちてしまうのは当然である。
「もう一回勝負!」
「何度やっても同じですよ」
線香花火対決は、結局優愛の全敗で終わってしまう。
そして、締めは打ち上げ花火たちだ。
「あれ? シケってるのかな?」
火をつけた打ち上げ花火だが、中々飛び出さない。
おかしいなと思い優愛が近づこうとした時だった。
「あっ!」
「危ない!」
ボンッという音と共に、閃光が空高く打ちあがる。
思わず後ずさり転びそうになった優愛を、オタク君が後ろから抱きしめた。
「えへへ、ありがとう」
「えっと、どういたしまして」
打ちあがる花火を、オタク君と優愛は見上げていた。
優愛が少しだけ体重をオタク君に預ける。
この体制で抱きしめる腕を緩めれば、優愛は転んでしまうだろう。
(どうしよう。腕に胸が当たってるけど良いのかな)
ドキドキが止まらないオタク君。花火は既に終わっていた。
「星、綺麗だね」
「えっ、あはい。今見えるのが夏の大三角形と言われるデネブ、アルタイル、ベガで、丁度天の川にそって見える星がはくちょう座、わし座、こと座ですよ」
思わずオタク特有の早口が出てしまう。
別に星が説明したかったわけではない。
ただこのドキドキしている状況を、どうにか誤魔化そうとして思わず聞かれても居ない星の説明をしてしまっただけである。
本当は指を差したい所であるが、両腕は優愛を抱きしめたままキープである。
「へー……ねぇねぇ星座って昔の人が考えたんだよね」
「そうですね。確か今から3000年以上前に」
「それじゃあさ、私達も星座考えたら遠い将来、それが語り継がれるのかな」
「ど、どうなんでしょう。文献に残せばあるいは?」
「そっか、じゃああっちが優愛座で、こっちがオタク君座ね」
「なんですかそれ」
「ほら、オタク君座はメガネっぽいでしょ。優愛座はゆあってひらがなっぽいし」
「そんな風に見えますか?」
「少なくとも琴やワシよりはマシじゃない?」
「確かに」
言われてみれば、琴やワシよりは、そっちの方が見える気がする。
「……そろそろ帰ろっか」
「はい。じゃあ片付けしましょうか」
花火の残骸を持ってきた袋に仕舞い、オタク君は優愛を家に送り届けてから帰路に着いた。
(優愛さん、優愛座とオタク君座、それぞれベガとアルタイルを指さしてた気がするけど気のせいだよね)
ベガは織姫、アルタイルは彦星。
日本で特に有名な恋物語の一つである。
まさか、偶然だよね。
そんな風に思いながらも、まだ腕に残った優愛の感触にオタク君はドキドキするのであった。
その頃。
「どうしよう。ヤバイ」
部屋に戻り、布団を頭からかぶった優愛は赤面していた。
後ろからオタク君に抱きしめられた時に、優愛はオタク君の心臓の鼓動が速くなるのを肌で感じていた。
オタク君のドキドキは、優愛には完全にバレバレだったようだ。
オタク君のドキドキが伝染したかのように、自分もドキドキし始めた優愛。
そして思わず織姫と彦星を、優愛座オタク君座などと言ってしまった事に対し、今更羞恥心を感じているのだ。
「……私オタク君の事好きかもしれない」
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