第26話「小田倉君は悪い子ですね。委員長として見張らないといけないようです」
「小田倉君。この前の新刊読みました?」
「ええっ、原作とは全く違うストーリーになってて、読んでてハラハラしましたよ」
「そうそう。主人公が助けに来た所とか良いよね『ピンチになってから助けるのは2流、俺ならお前らがピンチになる前に駆けつけてやるよ』とかカッコ良かったですよね」
「あのセリフ本当にカッコいい。主人公の強さとカッコ良さがにじみ出てますよね」
オタク君と委員長が、仲良くおしゃべりをしながら商店街を歩いている。
会話の内容は、最近出た漫画の話だろう。
2人は普段隠れオタクなので、日直で朝早く来た時か、帰りの教室に誰もいなくなった時くらいしかこのような会話が出来ない。
だが、今日は周りに知り合いは誰も居らず、好きなだけオープンに会話が出来るのだ。
会話が弾む2人。
何かの漫画の話をしていると、思い出したように「そういえば」と言いながら別の漫画の話も出てきたりして、永久ループ状態になっている。
オタク君は普段からネットでもその手の会話をしたりしている。
だが、レスポンスが即飛んでくるリアルの方が、やはり話していて楽しいのだろう。
勿論チョバムやエンジンともその手の話はするが、2人は変な所で拗らせているせいで地雷が多い。
なので、地雷が少ない委員長との会話が、オタク君にとっては一番落ち着くのである。
あのシーンが良かった、あのシーンは感動した。
その一つ一つを表情を変えながら語る。
時に頷き、時には反対の意見が出ながらも、2人は会話を続けていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、気づけば買い出しは終わっていた。
買い出し自体はそこそこあったが、それでも2人にとっては話し足りない。
「あっ、コラボカフェやってる。委員長良かったらちょっとだけ入っていきません?」
オタク君。空気を読んだナイスな提案である。
「小田倉君は悪い子ですね。委員長として見張らないといけないようです」
そう言って、2人して笑い入店していく。
コラボカフェは今やっているアニメのコラボで、店内にはアニメ中に使われた原画などが展示されている。
メニューも作中のキャラに合わせたもので、値段は……まぁコラボカフェなので少々割高だ。
だが、ドリンクメニューならば多少高いとはいえ、喫茶店で頼むのとそう大した差は無い。
それぞれが好きなキャラのイメージドリンクを注文した。
「思った以上に真っ白なのが来ましたね」
「僕のは返り血のイメージで真っ赤ですよ」
「あっ、一口貰って良いですか?」
「良いですよ、どうぞ」
周りから見たら、オタクの学生カップルにしか見えない程のリア充っぷりである。
普段と違い、オタク君はかなりの出来る男になっている。
気づけば小一時間ほど話し込み、入れ替わりの時間になっていた。
「まだ話し足りませんが、帰りましょうか」
「そうですね。あまり遅いと不良になったと思われちゃいます」
「ははっ」
委員長のド派手なピンク頭が既に不良な気がするが、笑って誤魔化すオタク君。
会計を済ませ、店を出た。
2人が店を出ると、昼食時が近いせいか、人混みは朝来た時の倍以上になっている。
「委員長、はぐれるといけないので手を出してください」
「はい」
しっかり手を繋ぎ、完璧なエスコートだ。
本当に彼がオタク君なのか疑うほどだ。
流石に手を握るのは恥ずかしいのか、2人ともやや俯きがちで、会話も少し余所余所しい。
とはいえ、そんなのは最初の内で、慣れてくるとまたいつもと変わらないテンションで会話が始まった。
どう見てもカップルにしか見えないオタク君と委員長。
だが、彼らの間に恋愛感情は存在しない。
(どうせ僕みたいなオタクじゃ、興味持たれないだろう)
(私みたいな陰キャに、小田倉君が惚れるわけないよね)
お互い似た者同士、なので2人の相性はとても良い。
だが、あまりにも陰に傾いているために恋愛感情が発生しないのだ。
故に、距離感がバグってしまっている。
完全に居心地の良い距離になり過ぎて、もはや相手を異性と見ているのか怪しい。
どちらかに少しでも恋愛感情が発生していれば、違う結果になっていただろう。
「戻りましたー」
「オタク君達遅くない?」
「いえ、買い出しに手間取っちゃいまして」
「ほんと~?」
「本当ですけどぉ、何か?」
「それなら良いけどさ」
学校に戻った委員長は、いつもの口下手無表情モードに戻っていた。
良いと言った優愛本人は、納得していない表情だ。
(オタク君、委員長と手を繋いで校門まで歩いてた……なんかモヤモヤする)
「オタク君、今度プール行こ!」
「ん? 良いですよ?」
「あと海も行きたい!」
「そうですね」
「それにキャンプと映画!」
「流石に宿題もあるから、全部は無理ですよ」
「むぅ……」
優愛が何故不満そうにしているのか、オタク君には知る由も無かった。
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