第25話「そういや、小田倉って鳴海と付き合ってるの?」
8月1日。
夏休みだがオタク君は制服に着替え学校に来ていた。
文化祭準備期間である。
「おはようございます」
「あっ、委員長おはようございます。皆も早いね」
時刻はまだ朝の7時半を過ぎた辺り、普段ならまだ教室には人があまり居ない時間帯だ。
だと言うのに、教室にはクラスメイトがほぼ全員集まっていた。
皆それだけ文化祭を楽しみにしているという事だろう。
「あれ? クラスメイト半数で2回に分けてやるんじゃなかったっけ?」
そう、夏休みの文化祭準備期間は8月の前半と8月の後半に2回あるのだ。
なので、クラスメイトが前半か後半のどちらかを半数ずつ登校する話になっていた。
「いやぁ、衣装とか楽しみで冷やかしに来たんだけど、それなら手伝おうかなと思って」
中学の時と違い、高校では文化祭の規模が大きくなる。
そのワクワク感が止められず、ついつい来てしまったのだ。
とはいえ、人数が多くて困る事はない。
余分に来た人員は、他の場所に回せば良いだけだ。
メニューの品書き、教室を飾り付けるための道具、当日どうやって接客をするか、テーブルはどうするか。
始まったばかりなので、やる事は沢山ある。
「ところで小田倉、鬼殺の衣装は持ってきたか?」
「うん。とりあえずS、M、Lで1着ずつ作ったから、着用して問題なかったら、それぞれ記入してくれるかな」
「おおおおおおおおおおお!!!」
オタク君が衣装を取り出すと、一気に人だかりが出来た。
皆が我先にと駆け出した。
普段ならコスプレというと、皆少し遠慮がちになるが、それが許された場があるなら話は別になる。
本当はちょっとやってみたかったりするものだ。
誰が最初に着るかの話になり、当然皆自分が先に着ると主張し始める。
となると起こるのは、じゃんけん大会である。
「いや、先に女子に着てもらってからの方が良いんじゃないかな。男子が着た後は嫌だろうし」
白熱するじゃんけん大会だが、オタク君の一言ですぐさまヒートダウンする。
普通に考えて、レディーファーストをするのが当然だ。
一旦着替えのために、女子達がオタク君の作った衣装を持って女子更衣室へ向かった。
先ほどまで我先にと叫んでいた男子だが、女子が先に着る事に関して誰一人文句は言わない。
(女子が着た後のか、悪くないな)
(これ、最初に着たいって言ったら変な目で見られそうだよな)
そして、誰も自分が最初に着たいと言い出さなくなった。
思春期である。
そんな思春期の少年たちが、女子の居ない教室で集まると会話は猥談に向かって行くのは当然だろう。
「そういや、小田倉って鳴海と付き合ってるの?」
「きゅ、急になんだよ。そんなわけないだろ」
「だってお前らいつも一緒に居るじゃん?」
「そうそう。小田倉くらいじゃね? 鳴海さんがあだ名で呼んでるの」
必死に弁明するオタク君。
だが、はいそうですかと言ってすぐに引いてくれるほど思春期は甘くない。
「実際鳴海さんとどこまで行ったか教えろよぉ~」
「ん? なんか呼んだ?」
バンっと教室のドアが開けられた。
優愛はどうやら今登校してきたようだ。
「えっと、女子更衣室で衣装を着てるので、鳴海さんも行った方が良いよという話です」
「あっ、そうなんだ。ってかオタク君衣装もう作ったの!? 早くない!?」
「そんな事ないですよ。次は男子が着るので早く行った方が良いんじゃないかな?」
「そっか。分かったそれじゃあまた後でね」
そのままドアを閉め、タッタッタと足音が遠のいて行った。
からかっていたら、突然の本人登場に驚いたのはオタク君だけではない。
男子たちもだ。
オタク君相手なら同性のノリで言えるが、優愛本人の前で言える程彼らも女性慣れしていないのである。
「そ、そういう田所こそ、最近宮本さんにちょっかいかけてばかりだけどどうなんだよ」
「そういや田所、事あるごとに宮本さん気にかけたりしてるよな!」
「はぁ? ちげーし。ただ幼馴染みだから声かけてるだけだし」
「幼馴染みって事は、そのまま付き合っちゃうんじゃないの?」
「そんなわけねぇだろ。じゃあ言わせてもらうけど、お前だってこの前中野に手握って貰って顔真っ赤にしてたじゃねぇか!」
「俺のは手の大きさ比べしてたら、中野さんが握ってみたいって言うから握っただけだし」
「言われて握るか普通?」
気が付けば、誰々が何をしていたかの大暴露大会になっている。
誰かがチクれば、他の誰かがチクり始める。
ただ消しゴムを貸しただけでも「好きなんじゃないの?」と言い始める始末だ。
戦火は燃え広がって行く。
だが、男たちの戦いもついに終止符を打たれる事になった。
「おーい、女子の着替え終わったよ」
女子達の帰還である。
先ほどまでの会話がピタリと止んだ。
流石に女子の前で言う勇気は、誰も持ち合わせていなかった。
「あれ? さっきまでうるさかったのに急に黙ってどうしたの?」
「い、いや。おぉやっと俺達も着れるぞ!」
「わー、早速着ようぜ!」
必死にテンションを上げる男子たち。
女子から衣装を受け取ると、我先にと男子更衣室へ向かって行った。
「オタク君は行かなくても良いの?」
「ええ、僕はもう試着してるので」
今の状況で行けば、男子更衣室で猥談の第2ラウンドが始まり、また巻き込まれるだろう。
オタク君、賢明な判断である。
「そっか。それじゃあ男子たちが戻るまでに、他の子達と作業分担どうするか決めよう」
教室には女子達と、男子はオタク君だけ。ハーレムである。
とはいえ、変な気を起こすようなオタク君ではない。普通に女子に交じり文化祭の計画を話している。
今あるものでもある程度準備は出来るが、買い足さなければいけない物も出てくる。
食材は文化祭の前に買うとして、それ以外だ。
「まずはこれだけ買い出しが必要か。悪いけど小田倉君と優愛行って来てくれる?」
村田(姉)何気なくオタク君と優愛のペアで買い出しを提案するが、勿論2人をくっつけるためだ。
特に特別な理由も無いので、反対をする人は誰も居ない。
そう思われた。
「いえ、お金の管理があるので、ここは委員長である私が小田倉君と行きますよぉ」
委員長である。
クラスメイトから集めたお金、それなら確かに委員長が管理するのは間違っていない。
それに衣装を作るための生地を買うのなら、オタク君が居なければ分からないだろう。
全ては理にかなっている。故に村田(姉)反論が出来ず。
「そっか、それじゃあ私待ってるから、オタク君と委員長よろしくね」
当の優愛もこの通りである。
私も一緒に行きたいと言えば、一緒に行けたかもしれないが。
(うふふ。小田倉君と一緒に買い物に行ける。2人きりだからいっぱいおしゃべりできる)
いや、行きたいと言っても、なんだかんだ言って委員長に言い包められただろう。
男子生徒が戻ってきた後に、どの衣装が着用できたか全員が記入し、全員分作るのに必要な材料をオタク君が計算する。
「買い出しメモも持ったし、それじゃあちょっと行って来るね」
「はい、行ってきますねぇ」
「2人とも行ってらっしゃい」
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