閑話「DOKIDOKI第2文芸部+!」

 第2文芸部。

 オタク君が用事で帰り、部室にはチョバムとエンジンが、PCの前でいつものように他愛のないオタク会話をしている時だった。


 ガラガラと控えめな感じに扉が開かれた。

 今日も優愛かリコが来たのかと身構えるチョバムとエンジンだが、扉の先に居た人物はいつもと違う。

 おっとりとした佇まいの少女だった。バッヂの校章から同じ学年であることが伺える。

 制服を綺麗に着こなし、腰まである漆黒の髪は一本に束ねられている。


(委員長だ!)


 彼らは同時に彼女が委員長だと感じ取った。

 別に彼らのクラス委員長をしているわけではない。雰囲気が委員長なのだ。


「あの、少しお話宜しいでしょうか?」


 少女の物腰の柔らかい喋り方。見た目だけでなく中身も完璧な委員長である。

 ギャルにはめっぽう弱いオタクだが、相手が委員長なら弱気に出る必要はない。

 彼らは警戒を解いた。


「どうしたでござるか?」


「入部希望か見学希望ですかな? 一応言っておきますが、ここは第2文芸部ですぞ」


 稀に文芸部と勘違いして、第2文芸部に来る人はいる。

 大抵はそのまま文芸部に行ってしまうのだが。


「いえ、ここであっているので大丈夫ですよ」


 そう言って少女がニコリと微笑む。

 チョバムとエンジンも、ニコリと鼻の下を伸ばして微笑み返した。


「それでご用は何でござるか?」


「はい。実は小田倉君の性癖を教えて欲しくて……」


「……はっ!?」


「ですから、小田倉君の性癖です。好きなゲームやアニメの女の子を教えてください」


 唐突に性癖を教えろと言い出す少女。

 2人は解いた警戒を一気に最大レベルまで引き上げる。

 彼らの第6感が言っている。コイツはヤバいと。


 オタク君の性癖を暴き、クラスで晒し者にするつもりなのか。

 それとも、隠れオタをしてるオタク君への脅しに使うつもりなのか。


 どちらかは分からないが、彼らに仲間を売るという選択肢はない。


「いやぁ、あっはっは。サッパリでござるな」


「小田倉氏の性癖をと言われましても、皆目見当もつきませぬ」


 顔を見合わせて笑う2人の元へ、少女がニコニコしながら近づく。


「私から小田倉君を隠すつもりですか!?」


 少女の瞳からハイライトが消えていく。

 あっ、こいつソッチ系のヤバい奴だ。2人は蛇に睨まれたカエルの如く脂汗を吹き出し始める。


「あっ、こんな所に偶然小田倉殿のフォルダがあったでござるよ」


 耐えきれなくなったチョバムが、オタク君用のフォルダを開いていく。

 フォルダの中は、アニメキャラの画像だらけである。


「見せて」


「は、はい!」


 チョバムがピョーンと椅子から跳ね退くと、少女が椅子に座ってフォルダの画像をあさり始める。


「ピンクの髪の女の子が多いんですね」


「そ、そうですな。小田倉氏は基本ピンク髪が好きと言ってたですぞ」


「他には?」


「えっ?」


「だから、他には?」


「ヒィ」


 思わず悲鳴を上げるエンジン。

 素直に教えれば満足して帰ると思いきや、まだ情報を求めてくるのだ。


「そ、そう言えば最近はギャルを2人連れてるのをよく見るでござる」


「それは知ってるわ!」


 どうやら地雷を踏んだようだ。

 先ほどまで大人しかった少女が、声を張り上げたのだ。


「ヒィィィィィ」


 エンジンに続き、チョバムも悲鳴を上げ始めた。


「良いから隠さないで早く教えて」


「あ、あれですぞ。地雷系メイクというのにハマってると言ってましたですぞ」


「地雷系メイク?」


 少女がパソコンで検索すると、地雷系メイクの画像が次々と表示される。 

 ちなみにオタク君が地雷系メイクにハマっているのではなく、優愛達がやってみたいと言ってたので少し調べていただけだ。


「そっか、小田倉君はこういう子が好きなんだ」


 少女はUSBメモリを取り出し、オタク君用のファイルと地雷系メイクの画像を保存していく。


「……今日はこれで帰るから、次回までに小田倉君の事もっと調べておいてくださいね」


「「は、はい」」


 ギャルとはまた違う圧を放つ少女は、そのまま来た時と同じように控えめな感じで扉を開けた。

 振り返る事なく部室を出て、また控えめな感じで扉がしまる。













「何見てるんですか?」







「ヒィ」


 いなくなったか確認をしようとしたチョバムとエンジンが、扉越しに少女と目が合った。

 思わずその場で尻もちをついた2人に目もくれず、静かな足音を立てて少女は去って行った。


「み、見たでござるか?」


「ヤバイヤバイヤバイですぞ」


「拙者、小田倉殿と代わりたい羨ましいと思っていたけど、間違いだったでござる!」


「分かる。分かりますぞ!」


 しばらく震えた後に、やっと落ち着いたチョバムとエンジンは、制服についた埃を払いながら立ち上がる。

 賢者タイムだ。


「エンジン。この想い、ぶつけるしかないでござる」


「そうですな。我も手伝いますぞ」


 チョバムとエンジン。彼らは後に「オタク君に優しいギャル+」という新刊を出し、一世を風靡ふうびする事になる。


 内容があまりにリアルで「完全にホラーじゃねぇか!」と騒がれ話題になるが、それはまた別の話である。

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