第13話「オタク君、勉強教えて!!!」

 ゴールデンウィークも終わった5月。

 学生にとって一つの山場が始まる。そう中間試験である。


 オタク君の通う学校は、服装や校風が割と自由だ。

 金髪に染めようが、スカートを短くしようが、なんなら制服を着ていなくても基本咎められる事は無い。

 だが、その為には守らねばならないルールがある。


 成績不振者で無い事。つまり試験で赤点を取るなという事だ。

 赤点を取ろうものなら、制服もきちんとするように指示され、髪色だって元に戻すように指導される。

 もし従わなければ、それ相当の処分が下される。


 保護者にはあまり評判は良くないが、この自由な校風に憧れて入学を希望する生徒は多い。

 そのおかげで倍率は上がり、年々偏差値も上がっている。

 教師に関しても、生徒と同様に服装や髪型の自由を与えられている分、それ相応の実力を求められている。


 生徒も教師も、自由の為に必死になる。

 だが、それでも自由に甘え、自堕落してしまう者も少なくはない。


「オタク君、勉強教えて!!!」


 鳴海優愛も、そんな自堕落をしてしまった一人だ。

 試験期間中なので部活動は禁止されているため、授業が終わり帰宅準備をしているオタク君。

 優愛は彼の元へ素早く近づき、頭を下げた。


「そうですね。小テストの結果はどうだったんですか?」


 試験が近くなると、どの授業でも小テストが行われる。赤点予備軍をあらかじめマークするためだ。

 点数結果によって今の自分がどの位置に居るか分かるため、サボっていた生徒のケツに火をつける効果もある。


「自慢じゃないけど、大体が赤点だった!」


「えっ、ヤバくね!?」


 自慢じゃないけどと言いながら、自慢げに赤点の答案を見せる優愛。

 オタク君が点数を見て思わずギャル口調になってしまう。テストの点数がヤバイなんて騒ぎじゃない。

 赤点どころではなかった。赤点の更に半分以下、青点だったのだ。


 鳴海優愛は別に地頭が悪いわけではない。

 見た目はギャルだが、中学時代にはそれなりに勉強も出来て、成績も良い方だった。


 では、何故ここまで堕落してしまったのか?

 オタク君が原因である。


 オタク君がオタク技術を使い、付け爪、ヘアスタイルのセット、メイク、最近では髪飾りなどのワンポイントまで作ってくれてたりする。

 新しいものが好きな優愛は、オタク君が用意するたびに、楽しみで夜も眠れず授業中に寝てしまうのだ。

 せめてノートだけでも取っていれば何とかなっただろうが、寝ているのでノートすら取っていない。


 他の友達も必死なせいで頼めず、オタク君に泣きつく事になったのだ。


「このままだと私、マジヤバいよね」


 いつもの調子でヘラヘラと笑いながらしゃべっているが、目の端には涙が溜まっている。

 今自分がどれくらいヤバイか分かっている。だからもう笑うしかないのだ。


 そんな2人の様子を尻目に、クラスメイト達はそそくさと帰っていく。

 誰にでも仲良く接することが出来る優愛は、ムードメーカ的存在で誰からも好かれている。

 しかし優愛を可哀そうとは思うが、皆自分の事でいっぱいいっぱいなのだ。見て見ぬふりをするしか出来ない。


「そうですね。それじゃあこの後どこかで勉強しましょうか」


 普段から真面目に勉強しているオタク君。

 小テストの結果も問題なく、優愛に勉強を教えるのに時間を割いても問題ないくらいだ。

 なので優愛の勉強を教えるくらいお安い御用だった。


 それに、優愛と話すようになってから、優愛つながりでクラスメイトとも話す事が増えた。

 なので、内心優愛には感謝していた。


「マジで!」


「はい、マジです」


「ううぅ。オタク君ありがとぅ」


 喜びの余りガチで泣き出す優愛。周りから見るとオタク君が優愛を泣かせているようにも見える。

 こんな所を誰かに見られたらと思い、思わずキョロキョロとたじろぐオタク君。


「と、図書室とかは勉強する人たちで席は埋まってそうですからね、どこに行きましょうか」


「それなら私の家に来てよ!」


「そうですね。優愛さんが良いなら、優愛さんの家で勉強しましょうか」


 女の子の「家に来て」を即答で「行く」と言えるオタク君。中々にプレイボーイである。


「えへへ。やっぱりオタク君は頼りになるね」


 喜びのハグ。避けようにも座っている状態のオタク君は避ける事は出来ず、そのまま優愛に抱きしめられる。

 立っている優愛が座っているオタク君に抱き着けば、当然オタク君の顔には優愛の柔らかい二つの山が当たる。

 反応に困るオタク君だが、優愛は更に力を入れて「ありがとう」を連呼している。多分お礼を言いたいのはオタク君の方だろう。


「……何やってんの?」


 優愛と一緒に帰るために教室へ呼びに来たリコが来るまで、優愛のハグは続いた。 

 


「ふぅん。優愛の家で勉強会ね」


「うん。リコも一緒に来る?」


「目の前でイチャイチャしないなら行くけど」


「ちょっ、イチャイチャなんてしてないし!」


 どうみてもイチャイチャである。


「優愛の家に行くのは良いけど、小田倉はいつまで座ってるんだ?」


 オタク君は立ち上がりたくても立てる状況ではない。


「えっと……あっ、優愛さんのノート見せてください。ちゃんと授業をノート取ってない所をメモして、職員室で僕のノートコピーしますから」


 そそくさと自分のノートを取り出し、優愛のノートと自分のノートを見比べコピーする場所をメモしていく。

 メモが終わる頃には、彼も落ち着き立ち上がれるようになっていた。


「……ムッツリ」


「ん? リコ何か言った?」


「別に」


 優愛は聞き取れなかったようだが、オタク君の耳にはしっかり聞こえていたようだ。 

 オタク君は必死な愛想笑いを浮かべながら、職員室へと向かって行った。

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