閑話「DOKIDOKI第2文芸部!」

 オタク君の通う学校には、文芸部が二つある。

 文芸部と第2文芸部だ。


 文芸や小説が好きな人種が集まる方が文芸部で、オタク寄りの人種が集まるのが第2文芸部だ。

 オタク君は当然、第2文芸部に所属している。オタクなので。


 文化部の部室が並ぶ文化練。その隅にある一室が第2文芸部の部室である。

 第2文芸部の部室は他の部室よりも狭い。というのも、元は物置小屋として使われていた場所を部室としてあてがわれている。

 そんな場所に追いやられている理由は、オタク君含め部員数が3人しか居ないからだ。


 部員数が少ない理由は、オタク君の学校にオタクが少ないわけではない。

 最近になって、漫画研究部なる物が出来たために、オタク趣味の人達はそちらへ流れてしまったのだ。

 

 なので第2文芸部に所属しているのは、隠れオタクをしてる人達だけだ。 

 オタクだけど、オープンなオタクになりきれない。そんな彼らの拠り所が第2文芸部だった。


 狭い部屋には長机が置かれており、少し型落ちのしたPCが1台ある程度だ。

 そんなPCの前に、オタク君達は居た。 


「フ、フヒ。今週のプニキュアは最高だったでござるな」


 パソコンの前に座って、PCを操作している太っている男。

 本名は忘れられ、チョバムというあだ名で呼ばれている。

 あだ名の由来はちょいデブ→ちょデブ→チョバムらしい。全然上手くない。


「新キャラはギャルでしたな。色黒ギャルなのに優しくて母性がある。大変良き」


 PCの画面に表示された、魔法少女のような衣装を来たアニメキャラを見ながら痩せ気味の男が満足そうに頷く。

 こちらも本名は忘れられ、エンジンというあだ名で呼ばれている。

 あだ名の由来は「萌えエンジン全開」という理由らしい。意味が分からない。


「拙者はギャルに興味が無いから、ずっとロリを見てたでござるよ」


「流石は兄者。発言が余裕でアウトだ」 


「兄者?」


「……いや、気にしないでくれ」


 そのネタが通じるのはおっさんくらいだ。


「小田倉殿は、新キャラについてどう思うでござるか?」


「バブみがあって、かなり良い」


「流石、小田倉氏はわかっていますな!」


「そうでござるか。拙者はオギャルなら、ロリキャラをママにしてオギャリたいでござる」


 物凄くくだらない会話である。

 だが、彼らにとっては至福のひと時であり、青春の一ページである。

 普段クラスメイトが居る教室では、絶対に出来ない会話だ。


 その後もアニメやゲームの話題で盛り上がるオタク君達。

 ここは彼らの聖域サンクチュアリだ。

 そんな聖域の扉が唐突に開かれる。


「あっ、オタク君ここに居たんだ」


 バーンといった感じで扉が開かれ、思わず3人ともビクついてしまう。

 開かれた扉の先に居たのは、優愛だった。


「オタク君。ちょっと良いかな?」


「「「はい?」」」


 優愛の「オタク君」に対し、3人が同時に返事をする。

 優愛はオタク君を呼んだだけなのだが、チョバムもエンジンもオタクなので、自分が呼ばれたと勘違いしたのだ。


「ちょっ、なんで3人で返事してるの。ウケる」


 その様子が面白かったのか、優愛がケラケラと笑う。


「優愛さん、どうしたんですか?」


「オタク君、ごめん、ちょっとお願いがあるから来てくれる?」


「えっと、何ですか?」


「良いから早く」


 部室にズケズケと入ってきて、優愛がオタク君の手を引く。

  

「おーい小田倉。まだか?」


 来ていたのは優愛だけでなく、リコも居たようだ。

 部室の中を覗くと、オタク君が優愛に手を引かれ、やや困惑の表情を浮かべているのが見えた。


「あー……悪い、小田倉借りてって良いか?」


「どーぞでござる」


「ありがと。ほら行くよ」


「あっ、うん。それじゃあチョバム、エンジンお疲れ」


 優愛とリコに連れられ、オタク君が部室から出ていく。

 彼らを見送り、足音が遠ざかったのを見計らい、チョバムとエンジンはお互いに顔を見合わせて頷いた。


「み、見たでござるか?」


「オタクに優しいギャルが、存在しただと!?」


 2人はその場でゴロゴロと転がりながら、欲望を吐きだし始めた。

 先ほどまで一緒にオタク会話をしていた友人が、突然ギャルに手を引かれたのだ。


「羨ましい!!! 小田倉氏が羨ましい!!!」


「拙者もあんな風に手を握ってもらいたいでござる!!!」


 もし優愛達が普通のギャルだったら、彼らもここまで羨ましがることは無かった。

 優愛とリコのメイクはオタク君が手伝っている、男のオタク君がメイクを手伝うわけだから、男ウケが良くなる。

 更に言えば、オタクがメイクを手伝ったのだ。オタクにはもっとウケる。

 なので彼らには物凄く刺さったのだ。


「拙者、ロリギャルと会話して、お礼まで言われちゃったでござる! これは拙者に脈有りではござらぬか!」


「あるあ……ねーよ!!!」


 しばらく悶絶した後に、やっと落ち着いたチョバムとエンジンは、制服についた埃を払いながら立ち上がる。

 賢者タイムだ。


「エンジン。この想い、ぶつけるしかないでござる」


「そうですな。我も手伝いますぞ」


 チョバムとエンジン。彼らは後に「オタク君に優しいギャル」という同人を出し、一世を風靡ふうびする事になる。

 内容があまりにリアルで「まるで本当にオタクに優しいギャルを見てきたようだ」と騒がれ話題になるが、それはまた別の話である。

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