第4話「ねぇねぇオタク君、見て見て。この雑誌の髪型ヤバくね!」
付け爪の一件以来、優愛と話す事が増えたオタク君。
とはいえ、優愛はクラスメイトとは積極的に話すタイプなので、オタク君が特別仲良くされているわけではない。まだ。
そんなある日の放課後。
クラスにはオタク君と優愛の二人だけ。他のクラスメイトは部活動のために教室を出て行っている。
オタク君は日直の仕事を終え、他のクラスメイトと同じように部活動に向かおうと準備をしている所だった。
「ねぇねぇオタク君、見て見て。この雑誌の髪型ヤバくね!」
唐突にオタク君の机の上に雑誌を置き、優愛がいつものハイテンションで話しかけて来る。
「良く分からないけど、ヤバいですね!」
女の子相手には意見ではなく、同調する事が大事。
オタク君がインターネットで[女の子 仲良く話す方法]と色々調べた結論である。
「でしょでしょ!」
他の女性に効果的かは分からないが、優愛には効果抜群のようだ。
うんうんと頷きながら聞いてくれるオタク君に気を良くして、マシンガントークが始まる。
「それでまたお願いなんだけど、今度アタシこの髪型にしてみたいんだけど……オタク君、髪型セット出来たりしない?」
優愛が教室に残っていたのは、このためだった。
オタク君にお願いしてみたいけど、中々言い出せず、タイミングを見計らっていたのだ。
無遠慮に見える優愛だが、お願い事をするのは勇気がいるようだ。
「これなんだけどさ」
優愛がとあるページを開き、指を差す。
ギャルの髪型に興味はないオタク君だが、優愛が指を差した髪型には見覚えがあった。
剣とファンタジーと言いながら魔法や銃をぶっ放す、某アニメに出て来るヒロインの髪型だ。
耳上の毛を後頭部で束ねるハーフアップという髪型だが、勿論アニメのキャラとは所々違う点がある、雑誌の女性は全体的にウェーブがかかっていて、ギャル向けの髪型になっている。
「どうかな?」
「そうですね」
オタク君は優愛の髪をじっと見る。
サラサラの綺麗なロングストレートだ。
「鳴海さんの髪って、パーマとかかけてたりします?」
「ううん。私髪質が細いからカールとか中々出来ないのよね」
そう言って自分の髪をくるくると指で巻いて見るが、すぐにほどけてしまう。
(となると、アイロンとかでカールにすると痛んで千切れたりしそうだな)
「やっぱり私の髪じゃ無理かな?」
「そうですね。ちょっと待ってください」
スマホを取り出し、何やら検索し始めるオタク君。
そんなオタク君の画面を見ようと、オタク君の横から顔をひょっこり出す優愛。頬が触れ合いそうなほどの距離である。
「どうしたの?」
「いえ、何でもないです」
肩に乗せられた手、ちょっとでも動けば接触しそうな程に近くにある優愛の顔。
女性耐性のないオタク君の手が一瞬止まるが、無理やりスマホの画面に集中し必死に平常心を装っている。
「そうですね。これならエクステを弄れば出来そうです。それで良ければやってみるよ!」
「出来るの!? オタク君マジ最高なんだけど!!!」
オタク君が調べたのは、エクステだ。
優愛の髪を弄らなくても、ウェーブのかかった襟足を着用すればなんとか出来る。そう考えたのだ。
オタク君は、昔は妹の髪をセットしてあげたり、今はドール趣味で髪型を弄ったりしているのでそれなりに自信はあった。
とはいえ、優愛の髪を弄ったりカットしたりするとなれば抵抗がある。失敗をするわけにはいかないので。
「あっ、でもお金かかるけど大丈夫ですか?」
安い物でも2000円はする。高校生にとっては決して安い金額ではない。
「この値段なら全然大丈夫ヘーキヘーキ。そうだ、髪色と合わせたいからオタク君一緒にエクステ買いに行かない?」
「今からですか?」
「うん。今から」
「そうですね」
オタク君の所属している部活は第2文芸部。
普通に文芸が好きな人が所属するのが文芸部で、オタク君が入ってる第2文芸部はいわゆるオタク向けだ。
なので部活動に行ってもオタク仲間とオタトークをするくらいで、サボってしまっても問題が無い。
それに、優愛が買って来たエクステが使えなかったら無駄骨になってしまう。ついて行った方が無難だろう。
「うん。良いですよ」
「マジで! オタク君マジ大好きなんだけど!!!」
優愛はノリと勢いで喋っているだけなので、大好きに恋愛的な意味は無い。
ありがとうとか嬉しいとかの感情表現の一種だ。
言った本人は全く気にも留めていない。
だが、言われた本人は物凄く動揺していた。
(好きって、あれだよね。動物とか舎弟とかの、ほら、僕優愛さんに付け爪とか上げたから、バブル時代のアッシー君的立場の好きだよね)
彼女が欲しがるものをプレゼント出来るから好きなんだと結論付けてしまうのは、流石に自己評価が低すぎる。
まぁ、見方を変えれば、変に勘違いして言い寄ったりしないので理性的とも言える。
「友達待たせてるから、先に帰ってもらうように言って来るから、オタク君は校門で待ってて」
「うん。分かった」
オタク君の返事が終わる頃には、優愛は既に教室の外に出ていた。
相変わらず慌ただしい人だと思いながら、オタク君も帰る準備をして教室を出ていった。
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