第30話 僕たちの終わり

11月、忍野さんと的場と三人で改めて的場の門出を祝った。


12月、忍野さんの誕生日を祝った。キリストの誕生を祝う日とされている日を一緒に過ごした。


1月、二人で初日の出を見た。初詣に行った。おみくじを引いたらふたりとも吉だった。


2月、豆まきをした。


3月、春休みに大阪市内の映画館をしらみつぶしに周って映画をみた。HEP FIVEの観覧車に乗った。


4月、花見をした。忍野さんは2回生になった。僕は博士後期課程の2年目。ゴールデンウィークの旅行の計画を立てた。


5月、九州を旅行した。


6月、夏休みの旅行の計画を立てた。


7月、二人で青春18きっぷを使って旅行した。2枚使った。


8月、暑かった。


9月、二人でキャンプに行った。


10月、忍野さんが留学したいと言い出した。


* * *


「留学?」

「はい」

「どこに?」

「カナダがいいです」

「なにしに行くの」

「もちろんお勉強です」


 僕は廊下兼台所で玉ねぎを切っていた。玉ねぎは3つ買ってあって、2つはみじん切り、1つは串切りだ。


 リビングから彼女の声がする。


「突然言い出してごめんなさい。でも前から考えていたことなんです」


 前から考えていた? なぜそれを今言う? なぜ来年? そもそもなぜ留学なんてするんだ?


 言いたいことは山程あった。しかし僕も彼女に言っていないことがある。


「実は僕も前から考えていたことがある」


 僕は包丁を置いて、手を洗った。手についた玉ねぎのにおいが不快で、石鹸を使って洗う。


「来年には大学を辞めて、地元で高校の講師をしようと思ってる」

「そう、だったんですね」

「ああ」


 言うか、言うまいかずっと迷っていた。しかし言ってしまった。口をついて出た言葉は、余計な言葉まで連れ立って出てきた。


「ちょうど良かった」


 僕は彼女の方を見なかった。ただ、壁からぶら下がったくたびれたふきんを見つめていた。


「そうですね」


 彼女はすれ違いざま、それだけ言って僕の部屋を出ていった。バタンと大きな音を立てて戸はしまった。そしてその隣の戸は更に大きな音を立てて閉じ、二度と僕に対して開かれることはなかった。


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