第28話 的場を祝う会、僕を呪う会
10月。
長い夏休みが終わり、大学が再開した。
僕は相変わらず研究室や図書館でダラダラと研究をするポーズをとっていた。相も変わらない学生生活。彼女ができたという事件はあったが、それで何かが大きく変わったということもない。
そんなふうに斜に構えていたら的場の家に呼び出されてタコ殴りにされた。カレー愛好会の面々に。
「死ね」
「裏切り者が!」
「フジツボに生まれ変われ!!」
久方ぶりに的場の四畳半に集ったカレー愛好会員たち。久しぶりの集合にも関わらず彼らは一致団結していた。僕を除いて。
「なんだお前ら! 今日は的場の司法試験合格を祝うんじゃないのか!」
「その前に君を呪うのだ」
「くっそ、傷害罪で訴えるぞ」
臭い枕を狂ったように打ち付けてくる的場。しかし司法試験に全力を尽くしてヒョロガリさに磨きがかかった的場では一撃に重みがない。隙をついて枕を奪いフルスイングしたらぶっ倒れた。
「神妙にバツを受けろ! 副会長!」
そんなことを言って掴みかかってきたのは高崎。高崎はバイト戦士だけあってそれなりのフィジカルを保っている。だが甘い。僕は的場から奪った枕を高崎の顔面に押しつける。
「ぐええ」
高崎ノックアウト。
「隙あり!」
「なに!!」
一瞬の隙をつかれ、僕はスマホを奪われた。
「手癖が悪いぞ! 堀川!!」
「なんとでも言うがいい! 彼女持ちの言葉など耳に入らぬわ!」
とんでもない難聴宣言をする堀川。
「くそっ、何をするつもりだ!」
「彼女との恥ずかしいメッセージのやり取りを工学部に公開してやる。そうしたら嫉妬の炎に飲まれた何百ものむくつけき工学部があんたを殺しに行くぞ」
こいつは工学部をなんだと思っているのか。
「やってみろ! 僕と彼女のやり取りなんか見たら工学部の連中などみな卒倒してしまうぞ」
「なに? そんなにハレンチなやりとりを?」
僕のブラフにまんまと引っかかる堀川。
「そんなわけねぇだろ!」
驚いた堀川の懐に入り込み、人生最高の背おいなげを決めた。
「はははは! 非モテドーデーどもが! 貴様らなんぞが彼女持ちの僕に敵うはずがあるまい!!」
四畳半真ん中で死屍累々の愛好会員たちを踏みつけ高笑いする男。結構調子に乗ってる僕が、そこにいた。
* * *
「では、会長の司法試験合格を祝う会兼副会長の幸せを呪う会をはじめまーす」
「おめでとー会長ー! 副会長しねー!」
「俺おめでとー! 副会長海の藻屑となれー!」
「まだ言うかね」
高崎の音頭で始まった的場を祝い僕を呪う会。持ち寄った酒を酌み交わしながら、僕たちは思い出話に花を咲かせた。
「いや、会長ならやると思ってました!」
既に頬が上気している高崎。しきりに的場を褒めちぎっている。
「あ、高崎、掛け金早く払えよ」
「いや、お前、よりにもよって今言う?」
「なんだよ堀川」
「いや、俺たち賭けてたんすよ」
的場が司法試験を合格できるか否かで堀川と高崎は賭けていたらしい。
「なるほど高崎は不合格、堀川は合格で賭けてたんだ」
「いや、違うんすよ」と高崎。
「そういうことです」と堀川。
「どっちだよ」
「賭けてました……」
仮にも先輩の合否で賭けるとは……なかなか見どころのある奴ら。
「そうなのか……」
酒が入って少し胡乱な目で堀川たちを見る的場。ちょっと怖い。
「堀川……」
「あ、はい」
堀川も的場の雰囲気にちょっと背筋を伸ばす。
「俺が受かる方に賭けるなんて……ギャンブラーだな」
「ぶははははは」
爆笑する僕たち。
「高崎……お前は現実的な賭けをするやつだな。今回は外したが、その慎重さは今後も活きるだろう」
「いやあ! それほどでも」
「つまみ買い足してこい。それでチャラな」
「はい……」
「ちょっと怒ってるじゃん」
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